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TS剣神の徒然奇譚  作者:
第二幕『世界の脅威』

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第27話 橋の戦い


「挑戦者は誰だい?」


 そう言って橋の入り口に現れたのは、赤い髪の長身の女だった。

 身の丈だけでも二メートル近くはあり、ほっそりとした体躯はまるで細木のようにその巨体とミスマッチなイメージを与えてくる。


 とはいえ、別にやせ細っているというわけではない。十分な筋肉を残し、その他のすべてをそぎ落としたような彼女の曲線は、肉体の一つの到達点を謳うように完成された美しさを感じさせる。


 皮の鎧。

 腕にはじゃらじゃらと鎖を巻き付けており、ニタニタとした笑顔を浮かべて彼女はコルトたちの前に立ちはだかる。


「あたしは子供相手でも容赦はしないよ?」


 コルトをしても見上げるほどの背丈である。

 そんな巨人を前にして、コルトは言う。


「俺は女でも手加減できねぇぜ」

「ほぉ、そりゃ嬉しいねぇ」


 赤い髪の女に対してコルトが見せた笑みは、それこそアネッサがよく見る人を馬鹿にするような顔だ。


 口角を吊り上げ、目を笑わせ、なんでもないかのように、どうとでもなるかのように、心のうちにある油断と慢心を張り付けたかのようなあの笑顔。


 人を舐め腐るような顔だ。


「コルト! 負けたら承知しないんだからね!」

「ハッ、俺が負けるかよ」


 そんな顔を見たせいで、少し機嫌が悪くなったアネッサである。ともかく、コルトを前にして女もまた笑みを深くした。


「いいね。あたしの名はフラム」

「俺はコルトだ」


 名乗りながら、コルトは槍の石突を向けながら言った。


「こっちで相手してやるよ」


 最後の最後まで、舐めた態度を崩さずに。


「はっ……ハハッ! スタートの合図はいらないねぇ!」

「来いよ盗賊!」


 それが始まりだった。

 フラムの体が大きくたわんだかと思えば、ジャラジャラと彼女の腕に巻き付けられていた鎖がこぶしを覆い隠すように動き出す。


「〈スネイル〉」


 フラムの長い腕が振り上げられ、遠心力一杯にその拳がコルトへと振り下ろされた。例えるならば天から落ちる稲妻。まともに受けては、それこそ脳天から足先までぺちゃんこにされてしまいそうな威力である。


「そんな攻撃が俺にあたるかよ――!」


 けれどコルトに攻撃は当たらない。空からくる鉄槌を半身で避けた彼は、カウンターとばかりに石突で三回、フラムの体を突いた。


「今のは攻撃か?」

「へっ、この程度じゃビクともしねぇか」


 コルトの突きはフラムにダメージらしいダメージを与えていない。ただ――


「おいパルフェット! しっかり見て、覚えろよ!」


 そう言って、コルトは全身から淡い光を放ち始めた。


「魔力強化」


 それは魔力の光だ。

 だからパルフェットは、戦いの前にコルトが言っていたように、今までコルトに言われてきた魔力操作について、その記憶を掘り起こした。


『魔力は、この世界を動かすエネルギーの一つだ。人間以外にも、そこら辺の植物や空気、動物の中にもある。そして魔物は、その魔力を使う強力な獣の総称だ』


『人間は魔物に対抗するために魔法を編み出した、って言われてる。そこら辺の歴史は俺も詳しくないから深くは言えないが』


『魔力操作には大別して三つの段階があるが、まずお前が覚えるべきはその第一段階――“強化”だ』


『魔力強化。魔力操作の基本中の基本』


 魔力の光を纏った途端、コルトの速度は明らかに早くなった。フラムの攻撃を避け、突く。それが目で追えないほどのスピードを持つ。


 突きの一撃も大きく強化されており、微動だにしなかったフラムの体がよろめくほどに強力な一撃へと昇華されている。


『魔力強化は、魔力を込めて物体の機能や性質を強化することだ。筋肉に魔力を込めれば力が強くなるし、込める場所を目にすれば遠いところも見通せるようになる』


『通常の身体能力+魔力強化を施した肉体は魔物にだって負けない。これが、俺たち冒険者が最低限身に着けておくべき技能(スキル)だ』


 石突の一撃を受けたフラムは笑っていた。

 快活に、轟々と、夥しく、声を上げて――


「いいねぇ!」


 そしてフラムもまた、魔力の光を纏った。

 その色は赤。燃えるような炎の魔力がフラムから迸る。


「この一撃を受けて立ってたら、あたしの旦那にしてやるよ!」

「んなもんいらねぇからさっさと来いよデカ物!」


 鎖を纏ったフラムの拳は、全身に纏うそれよりもより一層濃い赤色に包まれる。その拳は投石機のようにフラムの背後へと回され――そして弾けるように全身を躍動させて放たれた!


 その一撃はまるで爆弾。

 炸裂した轟音だけで、周囲の観客が怯えるほどの威力の拳であった。


 しかし――


「『込める魔力を増やせば……肉体は鋼と化し、どんな一撃にも耐えられる』か」


 その一撃を受けたはずのコルトは、立ち上る砂煙の中で平然と立っていた。


「な、なんであんなの受けて立ってられるのさコルトは!」

「受け流したんだろう」


 コルトの無事に驚くアネッサ。

 しかしパルフェットは、事前にコルトから聞いていた魔力のことを思い出していたこともあって、すぐにその原理に気が付いた。


「あれであいつは結構筋がいいからな。槍を使っていなして、いなしきれなかった衝撃を魔力強化で無力化する……なるほど、確かにこれは覚えておかなきゃならねぇ技術だ」

「むぅ……認めたくないなぁ……」


 相変わらずコルトに対抗心を燃やすアネッサであるけれど、こと戦闘に関しては圧倒的にコルトの方が上である。まあ、だからと言ってすぐに呑み込めるものではないか。


 とにもかくにも――


「長引くな、この戦いは」


 拮抗するコルトとフラムの戦いを見て、パルフェットはそう呟いた。

 

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