第26話 盗賊
「あれが盗賊の拠点だな」
さて、街道から少し迂回して、川上から件の橋の見える場所に出たパルフェットたちは、離れたところから橋を占拠する盗賊たちの拠点を観察していた。
「そこそこいるね。1、2……19人ぐらいかな?」
「いや、テントの数からしてもう少しは居るだろ」
「20人ちょいか。盗賊にしては大所帯だ」
橋は幅広の石橋で、盗賊たちは出入口だけではなく、橋の上にもテントを張って生活していた。人数もそこそこいて、確かに腕利きの冒険者でも、一人や二人程度では返り討ちにされてしまいそうだ。
「……んで、例の星騎士はどこにいるんだ?」
「ここからじゃそれらしい奴は見えねぇなぁ」
さて、パルフェットとコルトの興味は、そんな盗賊団よりも、どちらかといえば王国最高戦力と呼ばれし星騎士と肩を並べるんじゃないかと噂されている人物へと注がれていた。
まるでそれ以外の盗賊は、問題ないといわんばかりに。
「それで、どうするのさ二人とも。盗賊に興味があるって言っても、流石に乗り込むわけにもいかないでしょ」
と、ここでアネッサがそう言った。
パルフェットが盗賊に興味を持ち始めたあたりから、彼女は心配そうな表情を浮かべている。
「とりあえず斬るか」
「馬鹿、あれだけの人数相手にするだけ無駄だろ」
パルフェットはいつものように、とりあえず斬ってから考えようとするけれど、流石に今回は数が数。コルトは軽くパルフェットの頭を押さえるように触りながら、その提案を却下した。
「それじゃあどうする?」
と、代案を求めるパルフェットの言葉へと、コルトは言った。
「聞いた話によれば、死人は出ていないらしい。なら、正面から挑んでもいいんじゃねぇかな?」
「死人が出てない? 妙だな……」
盗賊と聞いてパルフェットが思い出すのはやはり前世の野盗だろう。人を殺して持ち物を奪う。時には村を襲い略奪を計る。そんな連中だ。
「お前の思ってる通りだよ。なんだか普通の盗賊とは違いそうだ」
けれどどうやら、こちらの世界の盗賊もおおよそ同じようで、やはり今回の橋の盗賊がどこかおかしいようだ。
とりあえず、一行はコルトの言う通り正面から入ってみることにした。
◇
橋前まで続く行列を搔き分けてみれば、橋の出入り口には広場のように大きな空間が作られていた。その中央には、盗賊の下っ端と思しき小男が立っており、橋を取り囲む商人たちを睨んでいる。
商人たちもまた小男を睨み返しているため、多くの火花がこの広場には静かに弾けているわけだけれど――そんな中をコルトとパルフェットは肩で風を切って歩いていた。
二人が広場に出た際、こんな声が聞こえてくる。
「おい、次の奴が出たぞ」
「まだ子供じゃねぇか……男の方はともかく、女の子の方は……あれじゃあまだ十にも届いていないんじゃないか?」
「今回もダメそうだねぇ」
そんな声を聴いて、パルフェットは言う。
「なんだか不思議な雰囲気だな」
盗賊を前にしているとは思えない雰囲気を、集団から感じ取ったパルフェット。けれど彼女が感じ取ったそれは、過去に覚えのない雰囲気ではない。
例えば、そう。
城郭で催された御前試合を取り囲むような、そんな期待と興奮が入り混じったような好奇な視線を感じてしまった。
「止まれ!」
ここで、小男が進む二人へとそう告げる。
「次の挑戦者だな? 名前を言え」
「あー、待ってくれ。挑戦者が何かをまず聞きたいんだが……」
「チッ、何も知らないのかよ」
小男はまるで何かの受付のようにふるまっている。だからこそ、パルフェットはやはり違和感を感じた。
「ふぅん?」
「あんたらは盗賊だろう? ここでなにやってんだ?」
腕を組んで悩むパルフェット。そんな彼女の代わりに、コルトが小男に質問をする。ちなみに、アネッサは後から遅れて現れた。どうやら橋を取り囲む行列を搔い潜るのに手間取ってしまっていたようだ。
そんなアネッサが現れるまでの間に、小男はコルトの質問に、面倒くさそうに答えた。
「強い奴を探してる。お頭を倒せるぐらいのな。だから、もしここを通りたいってんなら強さを証明しろ」
「……はぁ?」
思いもよらない返事に、流石のコルトも素っ頓狂な声を上げざるを得ない。盗賊と言えば略奪者。だってのに、こんな派手な催しまでして強さ比べだなんて――
(この盗賊のお頭ってやつは、相当頭がイッてるやつなんだろうな)
そう思わざるを得なかった。
「いいぜ、俺はコルト。挑戦者だ」
「そうかい。んで、そっちは観戦か?」
「む? ああいや、俺も戦うぞ。パルフェットって言うんだ」
「私は観戦します!」
「そうかい」
コルトとパルフェットを見て、大きなため息を吐く小男。戦うと言っても、二人は子供である。確かに、傍から見れば何人もの冒険者を退けた盗賊の相手が務まるとは思えない。
ただ、
「腕が鳴るなぁ……!」
戦いにかけて、パルフェットの右に出る者はいないだろう。
「おいまてパルフェット。お前は後だ。先に俺がやる」
「なにっ? どうしてだよ、俺が出た方が簡単だろ」
しかし、柔軟をしながら意気込んだパルフェットにコルトが待ったをかけた。
口を尖らせて抗議の言葉を上げるパルフェット。しかし、コルトは彼女の腰に差した木剣を指さして言った。
「お前、手加減できないからそのまま殺しちまうだろ。それじゃあ、相手を倒したって盗賊が納得しないかもしれねぇ」
「あー……確かにそうだな」
パルフェットは手加減ができない。
例え木剣を持っていようとも、それは刀のような切れ味で触れるモノの悉くを切り刻む。である以上、相手は死ぬか、死ぬに等しい傷を受けることになるだろう。
それは不味い、とコルトは感じた。
「なぜかは知らんが、盗賊の頭は負けた冒険者は殺さずに帰してる。なら、こっちも相手を殺さずに戦った方が禍根が残らねぇ。まあ、盗賊なんてのは死んだほうがいい連中なのは間違いねぇが……」
違和感。
それはやはり、コルトも感じているものだった。
「なんだか違うんだよな、こいつらは」
そう言って、コルトはぐるりと自分の槍を回した。
「とりあえず俺がやる。お前は後ろで、今まで俺が教えた魔力操作の復習でもしてろ」
「おう、お前が負けるまでにばっちり手加減できるようにしておくぜ」
「ほざけ」
コルトは言った。
「お前は知らねぇと思うが、俺は天才なんだぜ。負けるわけねぇだろ」




