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TS剣神の徒然奇譚  作者:
第一幕『雨垂れの槍』

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第23話 一人目


 レイの惨劇から一晩が経った。

 あの日、メレチエレの街を襲った惨劇は十数人の犠牲者とその何倍もの負傷者を出しながら、たった一人の少女の手によって元凶は倒されたはずだけれど――


「おい、あれが……」

「レイさんを斬ったってやつか」

「子供の姿をしてるが……魔物なんじゃねぇか?」


 けれど、メレチエレの街の人々からその少女は称賛されることなく、それどころか悪評と忌避の目で見られることとなってしまっていた。


 例えば、そう。

 朝食を取ろうと酒場を訪れれば、彼女が座った場所の近くに居た人々は一斉にその場から去り、まるで見世物を見るかのように遠巻きでひそひそと話し始める。


 そんなことになってしまったのにはいくつかの理由があるけれど、やはり一番は相手がレイであったことだろう。レイはかつて、この街を救った英雄だ。

 感情的にも、理屈の上でも、そんな彼が街を襲うだなんて考えられない。だから感情的に、レイを斬ったという彼女をよく思えないのだ。


 それに、それが子供だとすれば猶更である。


「なんか感じ悪くて嫌になっちゃう」


 というのは、パルフェットの隣で同じく朝食を取っているアネッサの言葉だ。


「パフィ、さっきの見た? ウェイトレスさんさー、捨てるみたいに料理置いてって最悪」

「料理運んでくれるだけありがてぇや」

「そうだけどさー」


 パルフェットの連れということもあって、アネッサもまたその対象だ。

 もしもこれでガンドラが居てくれればと思うけれど――彼はもういない。


 レイの手によって殺された。


「まあ、もう少しで街を出るからいいけど……」


 それでも、こんな風に疎まれて街を出るのは、なんだか気持ちの悪いアネッサであった。その横で黙々と朝食を食べ終わったパルフェットは、両手を合わせてごちそうさまと食事を終える。


「出立を早めるか?」

「いや、まだバラクさんに教えてもらってないことがあるから……教えてもらえればだけど」


 そういうアネッサの顔は少し悲しげで、寂しそうだった。

 だからパルフェットは、静かにそうかと返すことしかできない。


 今更、パルフェットに自分のやったことを正義だったかと迷う心はないけれど、思わないところがないわけでもない。


 そんな時だった。


「ふんっ」


 不満げな鼻息と共に、ごとんとパルフェットの隣に誰かが座った。アネッサ共々そちらの方を見れば、そこに座ったのはコルトだった。


 折れた利き腕を抱える彼は、不慣れな手つきで右手でスプーンを持ち、スープをがつがつと食らう。彼がそれを食べ終わるまでの間、パルフェットはコルトのことを見ていた。


 それから、カランと空になった器にスプーンが放られたところで、ようやくコルトが喋るために口を開いた。


「どうしてお前は、雨の中立っていられた?」


 あらゆる礼儀をそぎ落としたような言葉だけれど、パルフェットは不快さを感じることもなく答える。


「道術の内丹術の応用だよ」

「……なんだよそれ」

「呼吸で取り込んだ気を丹田を中心に全身に巡らせる。こっちじゃ聞かねぇか?」

「魔力強化みたいなものか……いや、そもそもお前、魔力について知らないんじゃなかったか?」

「ああ、さっぱりだよ。どうせならお前が教えてくれたっていいんだぜ、コルト」


 それはパルフェットの前世――悟郎であった時に学んだ知識の一つだ。無論、当時の彼女にとって、それは精神統一の一種としか思っていなかったが……この世界では違うらしい。


 魔力のせいだろうか?

 そもそも魔力とは何なのだろうか。

 少し考えたパルフェットだったけれど、自分には不向きなことだっため、すぐに考えるのをやめた。


「パルフェット」


 ここで初めて、コルトがパルフェットの目を見た。

 その目には問い詰めるような険しさと、パルフェットに向けられているものではない怒りが感じられた。


「お前は、魔王を斬ると言っていたな」


 魔王。

 王都から遠く離れたこの地では、あまり馴染みのない単語だ。

 しかし、コルトにとっては違う。


――『俺は魔王軍十三冠位が第四冠』


 彼が尊敬したレイは、魔王の軍勢の手下であり、その命令によってあの惨劇を引き起こしたのだ。


 だから魔王という言葉は、コルトにとって無視せざるを得ないものとなった。


「魔王は王都に居る。今はその旅の道中だ」

「そうか」


 自慢げにするでもなく、或いは使命感を滾らせるわけでもなく、パルフェットはただ、そう決めたから実行するのだというように、淡々とした口調でそう告げた。


 コルトはそれを聞いて、小さくそうかと呟いた。

 それからパルフェットを見ていた彼の目は、空っぽになった器を見た。


「ガンドラは、俺にとっちゃ親父みたいなやつだった」


 コルトが語る。


「俺の親父とお袋は、昔、死んだ。五年前、兄貴が討伐した魔物に殺された。俺の目の前で」


 かつてメレチエレの街を恐怖に陥れた魔物は、街に来るたびにきっかり三人攫って行った。


 その最後の被害者が、コルトの家族だったのだ。


「だから兄貴は恩人だ。だけど……ガンドラの奴も俺にとっちゃ、同じくらい大切な奴だったんだよ」


 レイはコルトに未来を示した男だった。

 対して、ガンドラは、身寄りのなくなったコルトに生き方を教えてくれた男だったのだ。


「だから俺は、聞かなくちゃいけねぇんだ……兄貴に……あいつに、なんでガンドラを殺したのかって……だから、パルフェット」


 コルトは手を強く握りしめながら、パルフェットへと言った。


「俺も連れていけ」

「いいぜ、コルト。代わりに魔力について教えてくれよ。俺はそこら辺さっぱりなんでな」


 こうして、魔王を斬る旅路に新たな仲間が一人加わったのだけれど。


「え、こいつが付いてくるの!?」

「素人の面倒を見てやるって言ってんだから感謝しとけよド素人!」


 果たしてこの二人がこれからもうまくやっていけるのか、別段パルフェットは二人の喧嘩を愉快としか思っていないけれど、不安の残る門出であることは間違いないだろう。

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