第18話 いつも通りの朝
アネッサが冒険者として活動し始めて二週間が経った。
「おはようコルト」
「おう……」
「相変わらず元気ねぇなぁお前」
「まあまあパフィ。あれで寂しがり屋なのよきっと」
「おいアネッサ! 俺は寂しがり屋なんかじゃねぇ!」
なんだかんだこの二週間、コルトは二人の依頼に付きっ切りになってくれている。おかげでアネッサもパルフェットも(パルフェットは年齢が理由でまだ冒険者ではないけれど)、冒険者のいろはのいが理解できて来たところだ。
「今日は……お、薬草採取あるじゃん」
「またかぁ? 草むしりとか俺やりたくねぇんだけど」
「そう言うなコルト。だが、薬草採取だけじゃ味気ないのもまた事実。ここはひとつ、ウサギ狩りもやろうぜアネッサ」
「いいねパフィ。最近は弓の練習もしてるんだ私。今日は当たる気がする!」
「ぜってー当たらねぇ。昼飯賭けてもいい」
「言ったな!」
ワイワイガヤガヤ。
そうして一行は掲示板となっているギルドの大黒柱から依頼書を剥ぎ、受け付けを通して森へと出かける。この二週間の間、毎日繰り返した一日の始まりだ。
水筒の中身を水で満たし、道中の間食用にドライフルーツをいくつか買っておき、非常事態に備えて応急処置用の道具を準備しておく。武器らしい武器と言えばコルトの槍ぐらいで、アネッサは手作りの弓矢を、そしてパルフェットはお世辞にも武器とは呼べないような木の棒きれ一本を腰に佩いて準備完了。
後は森に行くだけ――と、そんな折、メレチエレの町の入り口に三人を待つ人影があった。
「兄貴!」
その姿を見て一番最初に口を開いたのはコルトだ。今の今まで会えていなかった兄貴との一週間ぶりの再会である。今まで気落ちしていた分だけの喜びがはじけたように、彼は走り出した。
「おう、コルト。元気そうだな」
「もちろんだぜ兄貴! というか、今までどこに行ってたんだよ!」
「ああ、少し用事でな」
コルトの背中を軽くたたきながらそう言うレイは、柔らかい笑みを浮かべていた。しかし――
「むぅ?」
その笑顔を見たパルフェットは、なんだか不思議なモノを見るような顔をしていた。
「どしたのパフィ?」
「んー……いや、なんでもない」
口では何でもないと言いつつも、何かを敏く感じ取ったパルフェット。
とはいえ彼女も、自分自身が何を感じ取ったのかはよくわかっていない。予感とはそう言うものである。何かが起こると感じられても、それが何かは起こったときにしかわからないものだ。
「お前らは確か……」
「あ、どうも。アネッサって言います」
「パルフェットだぜ」
「そうか、アネッサにパルフェット」
レイは噛みしめるように二人の名前を繰り返しながら、その顔を見て言う。
「もし何かを狩りに森に行くなら、奥に行くといい。前の出来事のせいで、ウサギも鹿も町の近くにはいないんだ」
「……そうか」
レイによれば、何かを狩るには森の奥の方に行く必要があるとのこと。まあ、確かにあの狼の魔物が来たのはつい一週間前のことだ。
「教えてくださってありがとうございます。ほら、コルト! レイさんも忙しいんだから、さっさと行くよ!」
「いやだ! 俺は兄貴と一緒に居るんだよ!」
それから、アネッサはレイにお礼をした後、ひっつきむしのようになってしまったコルトをレイから引きはがしながら、森の方へと向かおうとする。
「兄貴ぃ……!」
戦いとなればしゃっきりと働くコルトであるが、ことレイのこととなれば子供のようになってしまうらしい。そんな彼の腕を引っ張って、アネッサとパルフェットはメレチエレの森へと向かうのだった。
「……じゃあな、コルト」
レイのその声は、誰に聞こえることもなく風の中に消えてしまった。




