第18章 出会い
Bランクとなったばかりのメンジロウ、ミナミナ、そしてエルシアの三人は、受付へ向かった。
受付嬢は黒髪をまとめた穏やかな女性で、初見のはずなのにどこか落ち着いた空気を纏っていた。
「今日はどんな依頼をお探しですか?」
ミナミナが食い気味に言う。
「もっと強い魔物がいい!」
横でエルシアが慌てる。
「ミナミナ、落ち着きなさい。強ければいいという問題では……」
メンジロウは掲示板を眺めた。
討伐、護衛、採集。
その中に、一枚だけ質の違う紙があった。
秘境探索
数年継続依頼
復帰者なし
受付嬢はその紙に気づくと、苦い顔をした。
「……それはやめたほうがいいです」
「何年も出ている依頼ですが、今まで戻ってきた人はいません。依頼主はまだ行方不明の娘さんを諦めていないそうですが……」
メンジロウの目が真剣に細まる。
「秘境ってのは……つまり、まだ誰も食材を取り切れてない場所ってことか?」
ミナミナは拳を握った。
「面白そうじゃん!」
エルシアはすぐに否定する。
「だめよ。本当に危険な依頼よ? 戻ってこなかった人がいるの、忘れたの?」
メンジロウは胸に手を当てる。
「俺は未知の味に会いたい。いまだ誰も口にしたことがない、そんな食材があるなら行く価値がある」
三者三様の理由。
それでも三人は同じ方向を向いていた。
受付嬢はため息をついた。
「……止めても聞きませんね。では必要書類を準備します」
こうして、秘境探索が決まった。
――――――――――――――――――――
秘境までは徒歩で一週間。
トウガの森は、ヴァルグランのそれより濃く、湿度が高い。
天蓋のように覆う木々が、昼でも薄暗さを作っていた。
枝を払うたびに、虫が飛び立つ。
地面は苔に覆われ、足音を吸い込む。
時折、蛇が飛びかかるが、ミナミナが一撃で仕留め、エルシアが矢で牽制する。
「ここ、本当に誰も入った形跡ないね……」
エルシアの声は小さかった。
ミナミナは得意げに笑う。
「でも魔物は弱いな、私が強くなっただけか?」
「……いや、これは普通に危険だろ……」
メンジロウが周囲を見回していると、突然、異様な気配が降りてきた。
それは、上。
「止まれ」
頭上の木々が揺れ、人影が落ちてくる。
十名ほどの戦士たち。
全員が弓を構え、槍を向け、三人を取り囲んだ。
「ここに来た者は帰さない」
男の一人が告げる。
ミナミナが拳を握りしめた瞬間、空気が変わった。
地面が沈み、風圧が押し返す。
乙女の馬鹿力が発動し、ミナミナの一撃が十人を軽々と吹き飛ばしたのだ。
「ちょ、ちょっと……! 威力が上がりすぎじゃない!?」
「な、なんじゃこれ……!」
エルシアもメンジロウも呆然とする。
吹き飛ばされた十人は呻きながらも立ち上がり、距離を取って再び包囲を整える。
そのとき、静かな声が響いた。
「そこまで」
木陰から一人の女性が現れた。
浅黒い肌、長い黒髪、簡素な衣服。
その佇まいは、周囲を覆う森と一体化したかのように美しかった。
「私はこの村の族長の妻、ナツヒ。あなたたちを村へ案内します」
口調は柔らかかったが、瞳だけは鋭い。
「争えば死人が出る。無用な血を流すべきではありません」
――――――――――――――――――――
村は、粗末だった。
木を組んだだけの家。
干した肉と草の匂い。
焚き火と土の風景。
文明から遠く、だがどこか誇りのある空気。
族長は大男だった。
白髪混じりの長髪を後ろで縛り、槍を片手に座している。
「何をしに来た?」
メンジロウは迷わず言った。
「未知の味を探してる」
笑い声が響いた。
「こんな貧しい村にあると思うのか?」
メンジロウは真剣なまま微動だにしない。
「あるかもしれないだろ。誰も探してないだけだ」
族長は鼻で笑ったが……その目は興味を失っていなかった。
「面白い奴だ。ならば、村の食材で客人をもてなしてやろう」
晩餐は慎ましい。
干し肉を焼いたもの。
そして……豆の煮物。
丸い、ふっくらとした豆。
――大豆。
メンジロウは固まった。
「……これ……」
「珍しいか?」族長が笑う。「そこらに生えてるぞ」
メンジロウの心臓が跳ねた。
醤油。
味噌。
豆腐。
日本の魂。
ついに。
ついに、この世界にも大豆があった。
「礼をする」
メンジロウは立ち上がった。
「ラーメンを食わせる」
温かい湯気が村を満たす。
麺を啜る音が、初めての世界に響いた。
村人たちは歓声をあげた。
族長は腕を組んだまま、ふっと笑った。
「……この火は良い」
ナツヒが近づき、声を潜めて言った。
「父に伝えてください。私は生きています。幸せに」
――――――――――――――――――――
帰還後、ギルドに報告したあと、メンジロウたちはシュウユの商館へ向かった。
シュウユは机の上に置かれた大豆を見て、目を細めた。
「これは……価値があるのか?」
メンジロウは頷く。
「この豆があれば、醤油が作れる」
「ショウユ?」
「そう。お前の名前と似てるな。いっそ商会名、ショウユに変えるか?」
思わず吹き出すシュウユ。
だが次の瞬間、メンジロウの表情は真剣になった。
「醤油は……世界を塗り替える味だ」
そこから、醤油の製法が語られた。
魚醤の菌床を使った豆麹。
大豆の浸漬、蒸し、潰し。
塩水による発酵。
半年から一年の熟成。
すべてを聞き終えたシュウユは、静かに息を吐いた。
「……それは」
「革命だな」
メンジロウは静かに笑った。
「ラーメンはまだ……先がある」
※最後までお読み頂きありがとうございます。こちらの作品はアイデア枯渇気味につき、しばし休載します。




