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転生したらラーメンの無い世界だったので ラーメン職人になることにした  作者: 越後⭐︎ドラゴン


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第十六章 東へ

馬車が揺れるたび、積んだ荷物がかすかに跳ねた。

草原の風は少し湿気を帯び、東の海が近いことを告げていた。


御者台で手綱を握るシュウユは淡々と前を見据えたまま、

メンジロウの問いに静かに答えた。


「トウガは海の国だ。北のツノサキという漁港で昆布が取れる。

天日で干して熟成させた昆布の出汁は、この大陸にはまず存在しない味だ。

陶磁器も名産だし、海が近いぶん魚も豊富。

刺身で食べる文化もある」


「刺身……この世界で生の魚か」

メンジロウの胸がざわつく。

昆布、出汁、刺身――ラーメンの世界を支える柱が揃っている。


荷台で弓を抱えるエルシアが、目を丸くして聞いてきた。


「海の……葉っぱで出汁? そんなの味が出るの?」


「出るんだよ、それが。旨味ってやつだ」


「へぇ……ジローの世界、ほんと不思議だらけ」


ミナミナはあくびをしながら聞いていて、

すでにトウガの話は何度も聞いたという顔をしていた。


「エルシアは海の国とか初めてだろ?

リュースポートについたらもっと驚くぞ」


「えっ、そんなに?」


「まあ見てのお楽しみだ」


馬車が丘を越えたとき、

遠くに青い海と白い街並みが広がった。


リュースポートだ。


港町の空は明るく、潮風が香りを運んでくる。

坂に沿って白壁の家が並び、海沿いには倉庫と市場がぎっしり立ち並んでいる。

魚を担いだ漁師の怒号、干物を並べる匂い、

船の帆が風を受けて鳴らす音――

すべてが活気と混沌に満ちていた。


「わ……!」


エルシアは言葉を失って立ち尽くした。


「すご……こんなに……海の匂いって、こんななんだ……!」


ミナミナは得意げだ。


「だろ? ここはリュースポート。魚がいっぱいだし、食いもんもうまいぞ……たぶん」


「たぶんって何よ」

エルシアが笑う。


港から坂を登ると、薄く白い冷気が流れ出す建物があった。

リーネの研究室だ。


ノックをすると、ふわりと冷たい空気がこぼれ出した。


「また来たのね、ジロー。それと……そっちの三人は?」


「シュウユ・トウガ商会だ。君の研究に興味がある」


「エルシアですっ! 森の方から来ました!」

緊張して背筋を伸ばす。


「ミナミナだ。会ったの覚えてるだろ?」

ミナミナは慣れた様子で手を振る。


リーネは小さくため息をつきつつ、

奥へと案内した。


そこには新しい装置が置かれていた。

木箱ほどの大きさの箱。

蓋を開けると冷気がふわっと立ち上る。


「……これ、冷蔵庫だな」

メンジロウの声が震える。


「正確には『低温保存箱』。

魔石で温度を維持する術式を組んでみたの。

まだ小型だけどね」


シュウユが息を呑んだ。


「これが……この世界を変える……!」


「大げさよ。でも、あなたのアイテムボックスと組み合わせたら、

食材を時間停止させながら低温で維持できる。

つまり、熟成ができる可能性がある」


メンジロウの心が跳ねた。


アイテムボックスの時間停止。

リーネの低温術式。

熟成の概念。


ラーメンの可能性が、またひとつ広がった。


その日の夜、リーネの家で宴が開かれた。

氷魔法で鮮度を保った刺身は驚くほど甘く、

ミナミナは夢中で箸を動かし続けた。


エルシアは刺身を初めて食べて震えている。


「う……生の魚って……こういう味なんだ……!」


「刺身でこんだけうまいんなら、スープにしても絶対すごいな」

メンジロウは魚の骨をじっと見つめていた。


宴も落ち着いたころ、メンジロウは鍋を火にかける。


「最後に、これで締める」


塩だれを湯に溶かし、

エビ殻を弱火で炒めて香りを油に移す。

低温熟成させたチャーシューを薄く切り、麺を湯に投入する。


リーネがそっと近づいてきた。


「……この匂い、反則じゃない?」


「エビ香油だよ。海の香りを油に写すんだ」


ミナミナは湯気に顔を突っ込み、早く早くと手を叩く。

エルシアは鼻をひくひくさせ、シュウユは静かに酒を置いた。


一同がレンゲを口に運んだ瞬間、

空気が止まる。


ミナミナが叫んだ。


「むっちゃうまっ……! 海の香りと塩が……うおーっ!」


エルシアは両手で頬を押さえながら、


「ジロー……すごい……しょっぱいだけじゃない……」


リーネは目を閉じて、


「これは反則。ずるい。研究に支障が出るくらい、気が散る味……」


シュウユは静かに器を置いた。


「……この味、間違いなくトウガでも流行る。

ジロー、君と行く価値は十分にある」


外で潮風が鳴る。

月明かりに照らされた船の帆が揺れていた。


翌朝、一行はついにトウガへ向けて出航する。

見知らぬ海の向こうに、新しい食材と新しいラーメンが待っている。


――メンジロウの胸は、眠れないほど高鳴っていた。


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