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転生したらラーメンの無い世界だったので ラーメン職人になることにした  作者: 越後⭐︎ドラゴン


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第十三章 弟子と炎

ヴァルグランの街を出た朝は、びっくりするほど澄んだ空気だった。季節が変わる直前の冷たい風が、首筋をなでていく。

 メンジロウとミナミナは、ギルド長ラザルトの見送りを背に、北へそびえる巨大な霊峰タルガへと歩き始めた。


 「おいメンジロウ……あれ登んの?」

 ミナミナが腰に手を当て、あまりの高さに目をしばたかせた。


 「……あれだな」

 「高すぎねぇ!?」

 「文句言ってもBになれねぇなら仕方ねぇだろ……」


 本音をいえば、メンジロウだって足がすくんでいた。

 でも、食材も、麺も、さらに上へ行くにはBが必要。なら登るしかない。


 山は、最初の一歩から容赦がなかった。


 踏み固められた道なんてない。獣道の残骸みたいな足場、剥がれかけた岩、斜面にこびりついた砂利。

 一歩滑ったら本当に死ぬ。


 「よし、手貸す!」

 ミナミナがメンジロウの腕をがしっと掴み、軽々と引き上げる。

 まじで、乙女の力じゃない。


 そして——。


 「グギャアアアアッ!!」


 黒い影が岩陰から飛び出した。

 猿のようで、狼より鋭い牙を持つ魔物。

 1匹、2匹、3匹……

 どこから湧いてくんだよ。


 「きやがれぇッ!!」

 ミナミナが大剣を逆手で構え、狭い足場の上で受け止める。火花が散るたび、足が滑りそうになる。


 「右!!」

 「分かってる!」


 メンジロウの拳が赤く燃え、猿の腹を撃ち抜く。

 炎とともに魔物が落下していく。


 足元には、折れた剣、くすんだ盾、そして乾いた骨。

 ここで力尽きた冒険者も多いのだろう。


 「……絶対に死なねぇ」

 メンジロウは小さく呟き、また急斜面へ足を踏み入れた。


 


 数えきれない魔物を倒し、手足を傷だらけにしながら、ようやく山頂に辿り着いたのは日暮れ間近。

 山頂には小さな祠と、枯れた御神木が立っていた。

 石碑にはこう刻まれている。


 「ここに霊験あらわる」


 でも、どうすればいいかなんて誰も教えていない。


 「……どうすんだ?」

 「知らねぇよ……多分、出るまで待つんだろ……」


 そこからが、本当の試練だった。


 夜は氷のように冷え、火は風に消される。

 テントはきしみ、寝袋は寒すぎて眠れない。

 持参した麺は一瞬で飲み込んでしまうから、すぐ無くなった。


 結果——固くて、味気なくて、喉を通らないパンを延々噛むしかなかった。


 「これ……修行って言うより、拷問じゃねぇのか……?」

 「しらねぇよ……」


 ミナミナですら弱音を吐くほどだ。



 そして、時は流れ……二ヶ月目。


 雪がちらつき始めた夜、メンジロウはついに完全に体力が削げ落ちたような眠りに落ちた。


 その時だった。


 ——湯気が立ち昇る。

 ——寸胴の音。

 ——清盛の親父が無言でスープをすする。


 あの香り。

 濃厚で、なのにしつこくない魚介のキレ。

 麺が角を立てて、スープを抱いて啜られるあの瞬間。


 夢の中なのに、全部“感じ取れる”。


 まるで清盛の厨房に、そのまま立っていたみたいだった。


 「……っ、は……!」


 跳ね起きたとき、メンジロウの心臓は爆発しそうだった。


 あの味が——

 手の感覚として残っている。


 一方、ミナミナも妙に顔を赤くしていた。


 「なあミナミナ。お前も夢見たんだろ?」

 「……うん……」

「どんな夢だ?」

 「——言えねぇ!!」

 「な、なんで!?」

 「死んでも言えねぇッ!!」


 寝袋に潜り、耳まで真っ赤。

 

 翌朝、二人は下山し、ギルド長ラザルトの前へ立った。


 「霊験はあったか?」


 「……夢を見ました」

 「夢?」


 ラザルトは鑑定魔法陣を展開し、二人を包む。


 光の中でスキルが映し出され——


 メンジロウの新スキル

・絶対味覚

・アイテムボックス

・包丁の達人(NEW)


 ミナミナの新スキル

・乙女の馬鹿力(NEW)


 「……包丁の達人?どういう方向性の強化だこれは」

 「知らねぇよ俺も!!」


 「乙女の馬鹿力ってなんだよ!!もっとこう、あっただろ!?かっこいいやつ!!」

 「スキル名は選べん。諦めろ」


 だが、明らかに“二人に変化があった”ことだけは確かだった。


 「……よく耐え抜いた。二人とも、今日から正式にBランクだ」


 その一言に、ミナミナは空に向かって叫び、メンジロウは深く息を吐いた。



二ヶ月に及ぶ山籠もりの末、顔には疲労が刻まれていた。久々に風呂に入って疲れを癒したかった。

二人が向かったのは、夜泣きラーメンを出した湯宿。


暖簾をくぐると、番頭が目を見開いた。

「お帰りなさい! 山の修行、無事に……!」

その声より早く、厨房から女将のマルナが飛び出してきた。

頬は少しこけていたが、その瞳はまっすぐで――そして切実だった。


「お願いです、メンジロウさん。私を……ラーメン職人にしてください!」


場が一瞬、凍りついた。

「……弟子入り?」ミナミナが眉を上げる。

「はい。あの夜泣きラーメンをもう一度食べたいというお客が、毎晩のように来るんです。

でも、もう出せないと知って……皆、帰ってしまうんです」


メンジロウは腕を組み、しばらく黙った。

「……宿が潰れる前に、湯気を絶やすなってか」

マルナは頭を下げたまま動かない。

やがてメンジロウはため息をつき、

「いいだろう。だが、甘やかさねぇぞ」

「覚悟してます!」

ミナミナがニヤリと笑った。

「ようこそ、地獄の厨房へ」


――翌朝から修行が始まった。


マルナは手際はよいが、腕力がない。

こねるたびに息が上がり、顔は湯気と汗で真っ赤になった。

それでも一歩も引かない姿に、メンジロウは黙って付き合った。

そして自ら包丁を取る。


彼の動きは、もはや“切る”ではなかった。

刃が走るたび、麺が寸分違わず揃う。

新たなスキル――〈包丁の達人〉。

まるで自分の意思を刃が読んでいるような、完璧な切れ味だった。


「これが……スキルの力」マルナが息を呑む。

「力じゃねぇ。精度だ。けどお前の腕じゃ一日百食が限界だ」

「そ、そんなに……」

「商売にするなら足りねぇな。――機械が必要だ」


ギルドを通じて紹介されたのは、無骨な鍛冶屋・バロル。

武器職人として知られる頑固者だった。

「麺を打つ……機械だと?」

「そうだ」

「武器にも防具にもならねぇもん作って、どうすんだ」

「戦わずに人を救うんだよ」

沈黙のあと、バロルは口角を上げた。

「……気に入った。やってやる」


鍛冶場には火花が散り、鉄を打つ音が夜まで響いた。

バロルの誇りとメンジロウの執念が火花を交え、やがて“麺打ち機”が形を取った。


試作品が完成した夜、メンジロウは麺を押し出し、湯気の中で一口啜った。

「……悪くねぇ」

歯切れがよく、手打ちに負けないコシ。

「これならマルナでもやれる」

「当たり前だ、俺が打った鉄だ」バロルが笑った。


――そして三ヶ月後。


厨房には、白羽鳥の骨を煮出す音が響く。

鶏ガラを下処理し、三時間煮込む。

昆布、貝柱、干し椎茸を加え、出汁の香りが立つ。

塩をひとつまみ、魚醤をほんの数滴。

麺を湯切りし、スープに沈め、鶏チャーシューと柚子を添える。


透明なスープに白い湯気が立ち上がる。

マルナは恐る恐る箸を取り、啜った。

「……やさしい……けど、芯がある」

メンジロウは短く頷いた。

「人を温めるのがラーメンだ」


湯宿〈白湯の庵〉は、再び湯気に包まれた。

夜泣きラーメンの香りが、冬のヴァルグランに広がる。


その夜。

厨房の戸口に立つ影――長い髪、尖った耳。

「……エルシア?」

「シオラが危ないの」

「ガルザの店が?」

「メンマート商会が動き出したわ」


メンジロウは拳を握った。

「湯気の次は、炎の匂いか……」

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