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「へえ、おまえもポチっていうんだ。ポチ!」

 ポーチカが嬉しそうに呼ぶと、桃色の子犬はきゃんと一声鳴き、ポーチカの足の周りをぐるぐると回る。

「ぼくは本当はポーチカって言うんだけど、ユランさんにはポチって呼ばれてる。ポチ仲間だね」

「おい、いつまでそれに話しかけてる。さっさと魔物を解体しろ」

「それって……ペットですよこの子。すごくかわいい」

 ついには抱き上げることまで許してくれて、その毛並みの気持ちよさにポーチカの頬は緩んでいた。

 じっとユランに睨みつけられ、「やりますよ」とポーチカはユランに獣を押し付けた。

「何で俺に渡す」

 ユランは不満げに眉根を寄せるが、受け取りはした。

「だってまた魔物に襲われでもしたらかわいそうじゃないですか。ちょっと見ててくださいよ」

「ポチ……」

 ユランの腕の中で、獣はきゃんと鳴く。

「ちがうおまえじゃない。くそ、ややこしい」

 そんなユランの様子にくすりと笑い、ポーチカは仕留めた魔物の解体に取り掛かり始めた。


 解体用のナイフで落ち着いて丁寧に刃を当てる場所を見定めれば、その硬い表皮も切り裂くことができた。

 魔物から取れる特殊な素材……ウルゴの奇晶は小さい。中級下位の魔物ならば仕方がない。

 甲羅は売れはするが、運ぶには大きすぎるしばらすには硬すぎるので、諦めることにした。薬の原料となる内臓の一部と食用になる肉の部分を切り分けて、保存用の布にしっかりと包む。

 解体に集中していてユランに預けた“ポチ”のことを忘れていたポーチカはふと顔を上げる。

 仏頂面で岩に座るユランの周りを、“ポチ”は構ってほしそうに走り回っていた。

「終わりましたよユランさん。行きましょう」

 素材をリュックに詰めて背負い、ポーチカはユランに駆け寄った。

「どうするんだ、これ」

 立ち上がったユランは目で“ポチ”を示す。

「セシリカの町までは連れて行こうかと。ここから一番近くの町ですし、そこから来た可能性が高いですからね」

「捨てられただけじゃないのか」

「首輪をつけたまま捨てないでしょう」

 反論できないのかユランはむっとした顔で黙り、セシリカ方面に向かって歩き始めた。

 その後を“ポチ”が小走りに追う。ユランは鬱陶しそうに溜息をついた。

「……町まであんたが面倒見ろよ」

「わかってますよ。おーい、ポチ」

 “ポチ”はくるりと振り返り、笑ったような顔で駆け戻ってきた。健気でかわいい。

 飼い主がいるなら、何とか家に返してあげたいものだと、ポーチカは心から思った。


 月が低く昇っていた。まだ林は抜けられていない。

 セシリカの町までは徒歩であと一日ほど。

 ユランとポーチカは今夜も野宿となった。

「この辺の土地は平坦ですね」  

 ポーチカは“ポチ”とランプを抱えて、暗くなった辺りを見回す。

 いつもユランが土の精霊魔法で洞窟を作るような崖地がない。

「寝床は地下だな」

 ユランが適当な地面に手を触れると、ぼこりと穴が開いた。土の階段が下へと続いている。

「じゃあ寝床も確保できたし、夕食にしましょうか」

 ポーチカはリュックから簡易調理道具を取り出した。

 ウルゴの肉をまな板で薄く切り、毒消しと香り付けの香辛料、適量の塩をすり込む。

 小さな鉄鍋兼フライパンで炒め、乾燥野菜と水を入れて煮込み、スープを作った。

 調理の様子を“ポチ”は興味深そうにうろうろしながら見ていた。腹が減っているのだろう。


「ユランさん、できましたよ」

 ランプの下で鉈の手入れをしているユランを呼ぶとすぐに作業をやめて食べに来た。

 スープを皿に取り分けて乾燥させたパンと共にユランに渡す。

 ユランは小声で食事前の祈りを呟き、勢いよく食べ始めた。

「ポチにはこれだよ」

 ポーチカは市販の携帯食料を大きめの葉に乗せて“ポチ”の前に置いた。

 “ポチ”はふんふんとその匂いを嗅いだあとで、ポーチカの持つスープ皿に近づいた。

「これ? いい匂いするかな。でもこれは味がないからね」

 少し困り気味に諭してみるが、“ポチ”はスープを食べたそうに鼻を鳴らしている。

「……」

 ポーチカは皿から肉片を取り出し、“ポチ”の皿代わりの葉に載せた。

 “ポチ”は喰らいつく。

 が、ぺっと吐き出すようにして、微妙な顔になる。

「あはは……やっぱり味がないのは変だよね」

 ポーチカは笑いながら、自分も温かいが味のないスープを口にした。

「その犬は舌が肥えているのか」

 ユランがぼそりと問う。

「さあ……首輪の感じからすれば、飼い主さんは裕福そうかもしれませんが」

「贅沢なやつだ」

 ユランは“ポチ”から目を逸らした。そして、「残りは食っていいのか」と鍋を指さした。ユランの皿は既に空だった。

「どうぞどうぞ」


 ──ユランさんには味覚が無い。


 それが生まれつきなのか後天的なのか、ポーチカは知らない。

 自分の無味の料理を何の抵抗もなく食べてくれる代わりに、おいしいと言うこともない。

 食べてくれるだけありがたいと、ポーチカは考えていた。


 “ポチ”は携帯食料をがつがつと食べていた。

「おいしい? よかったねえ」

 毛並みの良い頭を撫でながら、ポーチカは微笑ましく眺めていた。

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