二 伯爵令嬢、王子に土下座される
だから、言いましたよね。
氷の乙女を聖女にしちゃあ、まずいって。
何度も忠告したのに、そのたびに聞き流したじゃないですか。
聞き流されたらまずいから、強めに警告し回ったら、今度はかわいくて若い氷の乙女に嫉妬しているって陰口たたかれて。
ひどくないですか。
そりゃあ、向こうの方がかわいいのは事実ですよ。
でも、同じ年ですよ。
誕生日は私の方が遅いですからね。
それで、聖女を決める選挙をしたじゃないですか。
前回聖女を務めたから遠慮しろっていろんな人に言われましたよ。
私だって、慣習どおりに連続で聖女になるのは避けるつもりでしたよ。
でも、私がやらなくちゃ、氷の乙女が聖女に決まるって。
やるしかないですか。
そしたら、みんなから嫌味言われまくって。
そんなに聖女の立場にしがみつきたいのかって。
ひどいですよね。
氷の乙女が聖女になったら、こうなるのわかっていたじゃないですか。
だから、私、言いましたよね。
こうなるって。
結局、私、選挙に勝ちましたよね。
私、聖女を続投することが決まりましたよね。
そしたら、選挙違反だって。
私、事前に、選挙管理委員に確認とりましたよね。
商品券は配っていいって。
後出しで、不正だって騒がれて。
私、世間でなんて言われているか知ってますか?
商品券配って婚約破棄された女ですよ。
バカじゃないですか。
いや、だから、土下座されても困るんですよ、王子。
やりますよ。やるしかないじゃないですか。
聖女に復帰して、魔王討伐しますよ。
でも、愚痴のひとつも言いたくなるじゃないですか。
王妃、土下座は止めてくださいよ。
やりますから。
やらないと人間滅びますから。
もう、この王国がどうとかの問題じゃないんですよ。
だから、人類そのものが滅ぼされるかどうかのレベルなんですよ。
いや、土下座はいいですって。
もう、魔王側に人間がたいした戦力がないってばれちゃったんです。
冬があけて、温かくなったら、すぐに人類滅亡させに攻めてきますよ。
いまままで、人間がけっこう手強い感じに思わせて、距離をとってきたのが台無しですよ。
いや、氷の乙女は悪くないですよ。
あの子が魔王対策を担当する聖女になったら、みんなを救おうとして全力でぶつかっちゃうのはわかっていたでしょう。
あの子は聖女になるには真面目すぎたんです。
私のように、多少の犠牲に目をつぶり、魔族と距離をとることができなかった。
私のせいです。
いままで誤魔化しで魔王対策をして、氷の乙女の時に問題が噴出してしまった。
いや、私は悪くないですよ。
その時はそれしか方法がなかったんですから。
みんなが悪いんです。
あえて、言うならばみんなが悪いのです。
国民ひとりひとりが、氷の乙女が、王子が、王妃がみなそれぞれに悪かったのです。
いや、私は悪くないですよ。