一 伯爵令嬢、愚痴る
おかしくない。おかしいでしょう。
私、伯爵令嬢なのよ。
伯爵令嬢って言えば、ドレスを着てさ、舞踏会で踊っているものでしょう。
なのに、なんで武道会で戦わなくちゃいけないのよ。
いや、私が出場を登録したんだけどさ。
でも、愚痴りたくもなるでしょう。
一か月前まで、私は、王子の婚約者だったのよ。しかも、聖女よ。
それなのに、婚約破棄されて、聖女の名前も剥奪された。
ひどくない。
いや、私が悪いんだけどさ。
悪くないよ。
そうよ。私は悪くないって。
婚約破棄された上に辺境領に追放されて、普通そんなときは、辺境領主とのロマンスがあるものでしょう。
ちょっと口が悪いイケメン辺境領主と、美人で性格のいい私とのラブロマンス。
なのに、なんで追放先の辺境領主が女性なのよ。
でさ、その私と同じ年の女は、私のことを心配してくれて、かまってくれたのよ。
ありがたかったよ。
聖女としてそれなりにがんばって王国に貢献してきたつもりだったのに追い出されて、メンタルがたがたになったところを救ってくれた。
恩人よ。
でも、馬鹿じゃないの。
私は敗北者よ。つきあったって何のメリットも無いのよ。そんな奴、辺境領のさらにすみっこに押し込んでおけばいいじゃない。
そんなお人よしじゃあ、辺境領主なんてやっていけないでしょ。
あとさ、辺境領地の人達、ちょっと遠慮がないわよね。
畑でとれた野菜をおすそわけとか言って、あがりこんでくるじゃない。
私、一応、伯爵令嬢の身分は残っているのよ。
いや、野菜はおいしいわよ。
おいしいけれども。
それとさ、ガキども。
お姉ちゃんお姉ちゃんって慕ってくれるのはいいけど、私は子供は苦手なのよ。
慕ってくれるのは嬉しいわよ。
でも、いままで年下の子供とふれあうことなんてなかったから、どうしていいかわからないのよ。
あとさ、あとさ、女辺境領主、考えが甘すぎるんだって。
貧しくても心豊かに生活をってよく言っているけど。
表向きでそれを言うのは大事だけど、本気でそう思っていたら駄目だって。
上にいる人間は責任があるんだからさ。
お金は大事なんだって。
辺境領の子供達に教育をするにもお金がいるでしょう。ていうか、教育はめちゃくちゃお金がかかるのよ。駄目よ、ちゃんとお金はかけないと。
教育格差ってのは残酷なのよ。
この武道会に、いろんな人が参加したわよね。
十年間武者修行した人もいたし、この武道会に人生をかけている人もいた。
でも、私が優勝した。
私は武道なんかに何の思い入れもない。
だけど、私が勝った。
お父様が私の子供の時に、伯爵令嬢の護身の一つとして、大金で武道の先生を雇ったからよ。
指導してくれる先生にお金を使ったから、私は勝った。
私に負けた武道家の人達にとっは酷い話でしょう。
武道にかける情熱も努力も、お金の力で踏みにじり、私が優勝を奪い取った。
教育にお金をかけないと、いたる場面で、辺境領の子供達に私に負けた武道家の立場を味合わせてしまうことになるのよ。
だから、辺境地の子供の教育にお金をかけてください。
お願いします。
それでなんだけど、女辺境領主さん。
はい、これ。
武道会の優勝賞金よ。
これを子供達の教育資金にしてほしいの。