馬車の中で
「ええと…わ、私、どこに座れば…」
こんなことを聞いても俺の隣だと言うだけで、解決にはならないのはわかっているけど。
「この先馬車が揺れますのでご注意くださいね。」
従者の声が場違いに響いた。
虚無の心に静かに割れてく。
「獅子喰の道かな。なんか酔うわ……」
ガッタン、ゴトン、ゴロロロロ……
よろけた先にあった手は誰か。
「大丈夫か?恋火。」
ぎゅ、と、爽太に抱き寄せられる。
心臓からいつかの日の、抱きしめられた時と同じ音がする。
「あ、ありがとう……」
声が上ずって、顔が熱くなって、上手く呂律が回らない。
頭も、回らない。
「酔った…吐きそう…」
「だ、大丈夫か?!こ、これ飲め。お茶だから。」
そういってくいっとお茶を流し込んでもらった。
「…おい、爽太。」
今までピクリともしていなかった理仁が呟く。
「それ…お前がさっき、飲んでいたものではなかったか?」
理仁の怒りが馬車のシートにも染みている。
「…って、ことは…」
「「間接キス?!」」
一気に顔に炎が駆け巡る感覚。
「ご、ごごごごめん恋火!悪気はなくてーー」
「いや、そんな…でも…」
そう慌てふためいていると。
「この先揺れるぞ。…かなり、な。」
そう呟いた時には、遅かった。
「「うわぁぁあ!」」
ガタン、ゴト…ドンッ!
…何か、唇に柔らかいものが当たっている。
生暖かい。クッションか?それも違うな。
目を開けてみると、熱っぽく潤んだ瞳で私を眺める爽太だった。
「「うわぁぁああ!」」
ばっと飛び退ける。爽太はぴくりともせず、名残惜しそうにこちらを眺めている。
「だから言っただろ。俺の近くにいろって。」
はぁ、とため息をつく理仁。
「うぅ…でも、もう着くから…」
そんな“事故”も束の間。家に到着した。
「じゃあな。」
いつも通りに手を振る爽太と、むくれている理仁。
「ばいばい、爽太。…なんかあったのか?体調でも悪い?」
心配だなあと思いながら、理仁を見上げたその瞬間。
ぐいっと腕を引っ張られ、肩口に顔を埋められたと思うと、ちりっと焦げるような痛みが舞い上がる。
「いてっ…な、なに?理仁…ーー」
鎖骨を見てみると、赤い花が咲いていた。
「さっきの、上書き。気に食わなかった。」
ちらっとウインクする理仁。
顔が熱い。
燃え盛るような火の中で、
たった一つの闇を見つけた。
埋め合わせとして急いで書いたので比喩など使えませんでした。ごめんなさい。




