礼儀
「小鳥の籠を扱うようにゆっくりと!」
ご自慢のスプーンでぶっ叩かれそうで怖い。
猫目のメイド、リリシアと言うらしい。
「外国から来たこのリリシア、恋火様に正々堂々礼儀を叩き込んでいきますわ!」
…目が燃えてるよ。
「あのさぁ…もう所作とかいいから、服装決めない?」
なんかめんどくなってきた。
いやほんとにお茶飲むだけだって。
「あら!忘れていましたわ!さあ、ドレスルームに行きましょう!」
ドレスルームとかいう聞きなれない単語が飛び交った。
「ドレスルーム?うちにそんなのなくない?」
金で縁どりされた深いワインのカーペットを踏みしめて歩く。
メイドは、にやっと顔を歪ませて笑った。
「いえ、ありますわよ。…だって、作らせましたもの。」
その、「…だって」という意味深な響きに鳥肌しか立たなかった。
ここですわ、と声をかけられ、言われるがままにドアを開けた先に広がっていたのは、なんとウォーキングクローゼットというものだった。
「うわ!!ド、ドレスにアクセサリーに…リ、リリシア、こんなの作らせたのか?いつの間に?」
うふっと心底愉しそうに言った。
「ええ。そうですわ。だって、お嬢様の大切なお友達に誘われたお茶会ですもの。」
むにゅと薄い唇を歪ませてその言葉を放った。
「さあ、お嬢様に似合うドレスコード、探していきますわよ。」
この目は先程の燃えた目つきではなく、冷えきった真剣な目をしていた。
○○○
「あら、このドレスもいいわ!あとこれも!」
ウォーキングクローゼットの片隅に連れられた。
「だーかーらー。学校の友達に呼ばれただけだよ?なんでそんな動きにくい格好しないといけないんだよ。」
「…お嬢様、まだお分かりになられないようでしたら食事処へ行きましょう?」
食事処、その単語を耳に落とした時点で身震いは始まっている。
「わ、わかった!お、オシャレもたた大切だしな!」
ふふ、分かってくださればそれでいいのよと微笑まれた。
愉しそうに私に当てられたドレスは、深い薔薇のようなレッドのタイトドレスだった。
「このドレスにこのコスメとアクセサリーとヒール。うん。これがいい。お嬢様、早速着てみましょう。」
…え、着るの?
「当たり前でしょう?!ヘアセットとメイクアップは私が担当いたしますので着るだけですわ!」
そう言いつつも小さな更衣室に押し込まれた。
「…なにこのジッパー。手ぇ届かないんだけど…」
「は?!こんなアクセつけるのか?派、派手じゃないといいけど…」
ーーーそうてんやわんやしている恋火宅だが、
その頃理仁と爽太宅では。
「おい、理仁。お前、俺のレモンクッキー食ったな?」
爽太が怒りの形相で理仁を見下ろしている。
「い、いや、それはだな…うん。誤魔化せないようだな。悪い、食った。」
はぁ?!と爽太の怒号が飛び交う。
「お前…言い訳も何もなんかないのかよ!これ…わざわざ半年も待ってたんだぞ?輸入するのにも時間がかかるし…」
理仁は藍色の瞳が驚きで染みた雑巾を振り絞ったようにきんと締まった。
「そ、そうだったのか…ごめんな。必ず返す。」
それでも収まらないといった様子で爽太は言う。
「お前ってさぁ…俺が欲しいもの、全部とるよな。」
苛立ったように呟く。
「……恋火ともどこか馴れ馴れしいし。あいつは俺の幼馴染なのに」
自分の呟きにさらに苛立ったらしい。
「あーもう!やっぱりお前は俺の気に障ることしかしねぇな?!」
この発言には理仁も黙っていられない。
「なんだ。お前も俺の神経を逆撫でする甲高い声しかあげないのか。」
ふぅ、とため息を着く理仁。
「恋火と話してる時、すぐ割り込むだろ?あれが気に障るんだ。やめろ。」
爽太は今にも沸騰しそうな勢いで怒る。
「お前もそれはするだろ?!ただ話に乗っかってるだけなのによぉ!」
はあ、とわざとらしい息を吐く。
「お前は自分のしたことがよく分かってないんだな。じゃあいいもうお前なんて…」
爽太も負けじと言い返す。
「俺だってお前なんて…」
「「もう知らねえ!!」」
3人の間に蠢く感情は、まだ誰にも感じたことの無い生焼けの感情だった。
※作者は執筆当時11歳です。




