杜鵑花
「リ、理仁って……」
驚愕だった。
底なしの湖を見ているような、不思議で、
それでいて奇妙だった。
「ええ。お嬢様のご友人の、理仁様ですわ。」
どこか似ていると思った。
嫉妬深いところも、掴みどころがないところも、
私を見つめる、こい瞳も。
「あのお方は第一王子と思って生きていられています。」
「本当は、違うのだけれど。」
そう呟いて俯く。
まるで、海の浅瀬を見つめるように。
「そんな昔の迷信なんて信じなくても良くないか?」
なんでわざわざ過去の人間の作り話にきゃーきゃーと騒ぐ時間を使わなければいけないのか、疑問だった。
やっぱり質問癖は直らない。
「……理仁様のお父上が、昔の教えを大切になさるお人でして。」
また、語り始めた。
理仁の父は凄く感慨深い人だった。
その父は、学園も運営している。
父の真仁は、古風な性格だった。
「車など使うな。馬車を使え。無駄だ。」
価値観の違いなどで何度も婚約破棄を繰り返し、やっと見つかったのがリリシアの叔母でもあり、理仁の母でもある羽春だった。
気弱で病弱、大人しくて意思表明の少ない人だという。
真仁の抑圧で病気が再発したのは、あの頃からだった。
真仁の邸宅で。
「羽春様?!ど、どうされましたか?!」
慌てた侍女がだんと障子を引く。
じめじめとした畳の埃がふわりと舞った。
「ごめんなさい。少し、吐いてしまって……」
布団は赤く染まっていた。
急いで処置をしたものの、急激に悪化。
それから、布団から身を引くこともままならず、より一層趣味の生け花に没頭するようになった。
「母上。」
見兼ねた理仁がすっと話をした。
「…また生け花を?」
指が細くて頬は薄い牡丹のように赤くそまっている。
「さぞかしお辛いでしょう。今、多量の薬を集めさせていますので。」
この時の母は、儚く消え入りそうなほど弱い花だと思った。
「ええ。生き甲斐ですもの。」
杜鵑花か。
「それは…宜しくない迷信があったのでは?」
父上に見つかったら、また叱られてしまうだろう。
それだけ信仰があるのは良いのだが。
「いいのです。ふふ。」
それからも生け花に没頭、最近は山に引きこもっていたという。
「も、もしかして、理仁が学園で火事が起こった時率先して動いていた理由は…」
やっぱり知らぬが仏という状況は実在する。
「ええ。学園の理事長のご子息ですもの。」
辻褄が合う。
普段無気力でぼーっとしていそうなのに、あの時はやけに協力的だった。
「あれは結局炎色反応なんだろ?」
ずっと思っていた。
色違いの炎なんてものはそうそうない。
「ええ。理仁様がお母様の為に集められていた、お薬で。」
理仁が協力的だったのはもうひとつの理由があった。
異国で取り寄せた薬を逃がさないように。
早く母に服薬させられるように。
そして、
放火した犯人を、探すために。
「これまで私が脇役で良いと思っていたことも、理由があるのです。」
「主人公は他人かもしれませんが…脇役にも、それなりのストーリーというものがありますので。」
そう言って、軋む廊下を重い足取りで踏みしめて行った。




