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④NPC農夫、魔法剣士を圧倒する

 男に連れられて到着したのは、一軒の今は誰も住んでいない古い民家だった。

 そこではロジャー爺さんが椅子にくくりつけられ、目隠しをされていた。


 おそらく俺を連れてくる前に抵抗をしたせいで、少し暴力も振るわれたのだろう。

 彼の口元から滲む血のあとを見て、さらに強い殺意がわいた。


「ロジャー爺さん! 巻き込んでごめんね、今すぐ助けるから」


 俺の言葉を聞き、ドッと爆笑するプレイヤーたち。

 ……絶対に、全員処す!


 しかし俺の声を聞いた爺さんは、あきれたように言った。


「カイト……、なんで助けに来た。馬鹿なのか? わしの命なんぞ、お前の若い命の価値と比べるまでもない。アイシャのためにも、今すぐうちに帰れ。分かったな?」


 この人が優しい人間だというのは間違いないのだが、本当に口の悪い。

 このヴァルダの村の住人は、老人までツンデレ機能が標準装備されているのだろうか?


 そのためちょっと苦笑して、穏やかな口調を心掛け答えた。


「それはできないよ。ロジャー爺さんは俺ら兄妹にとって、育ての親みたいなもんだし」


「ハッ、小童が生意気なことを言いおって。わしとお前、なにもふたり揃って犬死する必要はないだろう。お前がもし死んだら、アイシャはどうなる? ……カイト、お前だけでも逃げるんじゃ」


 まったく……。本当に、なんて頑固な爺さんだ。

 それにしても絶対に俺がこいつらに俺なんかが敵うはずないと思われていると伝わってくるのが、なんとなくムカつく。

 とはいえ平凡なNPC農夫である俺が、6人ものプレイヤーを相手にして勝てると思うほうがどうかしているのかもしれないが。


「犬死なんか、するつもりはないよ。俺もロジャー爺さんも、生きてここから戻るんだ。……だって死ぬのは、このクソ野郎どものほうだからな」


 突如変わった俺の言葉遣いに、ロジャー爺さんが困惑しているのが目隠しをされていても伝わってくる。

 ゴクリと唾を飲む爺さん。ざわつくプレイヤーたち。

 

 このパーティーの新しいリーダーとなった男はゲラゲラと笑ったが、先日の俺の鬼神の如き戦いぶりを知るメンバーたちは目配せを交わし合い、本当に大丈夫なのだろうかと不安そうな面持ちに変わった。


 でも、もう遅い。手遅れでーす!

 お前らは全員、俺様の鎌のサビとなる運命なのだ。

 おとなしく死にさらせ。もう一回レベル1からやり直しの刑じゃい!


 バッグから鎌を取り出し、にやりと笑う。

 窓から差し込む雪明りで、薄暗い部屋の中鎌が怪しくギラリと光った。

 

 それを見たリーダーは、怪訝そうに目を瞬かせた。


「新しく入ったあんたは、魔法剣士だっけか? いい感じの剣を持ってるじゃん。この間のクソ雑魚勇者よりは、殺りがいがありそうだな」


「……なるほどな。ただのNPCじゃねぇらしいって話は、どうやら本当だったみたいだな」


 男の表情が、さっきまでのにやけ顔から真剣なものに変わった。


 スラリとした長身に、程よく筋肉質な体つき。

 美しい金色の髪に、エメラルドグリーンの宝石みたいな瞳。

 

 レッド・アースはVRゲームだから、当然のことながら顔のいいアバターがやたらと多い。

 実際俺も転生前は、黒髪つり目のイケメンをアバターに採用していた。

 ……残念ながら転生後のこちらの世界では、リアルな俺の平凡な顔面をコピペされてしまったようだが。

 

 それにしても、この男。美形揃いのこの世界でも滅多にお目にかかれないくらい、無駄にイケメンだな。

 そこがまた、なんとも腹立たしい。

 やっぱりこいつは一度殺しておこう、そうしよう。

 

 しかしパワーでゴリ押ししてくるタイプのただの脳筋野郎かと思いきや、意外と冷静さも持ち合わせているらしい。

 しかもただの剣士ではなく、魔法剣士。いっぽう平凡なNPCである俺の武器は、本当に普通の農業用の鎌のみ。

 ……ヤベェ、わくわくしてきた。


 純粋にロジャー爺さんのことを助けにきたはずなのに、ゲーマー時代の血が騒ぐ。


「平凡なNPCだよ? ……今世ではな!」


 俺の言葉を聞き、男の眉間に深いしわが寄る。

 しかしそれには構うことなく、鎌を使っていきなり斬りつけた。


 素早い動きで、それを避けるリーダー。

 なるほどな、でかい図体をしている割に俊敏さも兼ね備えてるってわけか。


 明らかに困惑している様子の男に、休む間を与えることなく再度斬りかかる。

 しかし今度の狙いは男自身ではなく、彼の持つ大剣のほうだ。


 鎌を使って器用に剣を弾き飛ばすと、それは勢いよく床に突き刺さった。


 剣に向かい手を伸ばし、呪文を唱える男。

 すると剣は床から抜け、クルクルと回転しながら男の手へと戻った。


 パーティーのメンバーたちが、わぁと歓声を上げる。

 武器を失った時の対処も、冷静。……悪くない、面白い。


「へぇ……。魔法剣士ってのは、ガセじゃなかったみたいだな。なかなかやるじゃん」


 ヒューと口笛を吹くと、男の瞳が戸惑ったように揺れた。


「……あんた以前俺と、どこかで会ったことがないか?」


 本気で不思議そうに聞かれたが、そんなのあるはずがないだろうが。アホか。

 このレッド・アースの世界において、プレイヤーは俺たちNPCの敵だ。

 そのため前世の記憶を取り戻す前にもしこいつに会っていたら、間違いなく俺は殺られていたはずだ。

  

「ねぇよ、馬鹿じゃねぇの? 使い古されたナンパはやめてくれ、悪いが全然好みじゃねぇんだわ」


 中指を立て、ベェと舌を出してさらに煽った。

 チッと舌打ちをひとつして、男は大きく声を張り上げた。


「調子に乗ってんじゃねぇぞ、NPC風情が! うまい具合に俺から武器を奪おうとしたみたいだが、裏目に出たみたいだな」


 男の唇が、楽しそうにゆがむ。

 たしかにこいつのいうように、俺の武器である鎌は男の持つ剣の柄部分にぶっ刺さったままだ。

 ……だけど。


「……甘いな」


 男の片方の眉が、ピクリと上がる。


「ジャーン! 鎌がひとつだって、誰が言った? 腕試しは終わりだ、こっからは全力でいくぜ」


 元々俺が用意してきた鎌の数は、三本。ギャハハと笑いながらバッグから残り二本の鎌を新たに取り出して両手に持ったまま斬りかかり、今度は男の肩にぶっ刺してやった。さらには反対の手の鎌を使い、足にも斬りつける。

 その場に崩れ落ちるようにしてうずくまる、男の巨体。

 これが前世で使っていた例の武器であれば、確実に男の足はきれいに切断されていたところだろう。

 ほんと鎌でよかったな、どの道殺るけど!


「ハッ、ざまぁねぇな! でもまだ終わりじゃねぇぞ。さっさと立って、俺をもっと楽しませてくれよ」


 相当なダメージを負わせたはずなのに、それでもふらふらと立ち上がり再び闘志をみなぎらせる男。

 ヤル気もあるみたいだし、ポテンシャルも感じる。

 こんなところでクソ雑魚パーティーのリーダーをやらせるには、惜しいほどの資質だ。


 とはいえ今からこいつは俺がぶっ殺す予定だから、またレベル1に逆戻りなわけだが。


「リーダーひとりだけが敵だと思うなよ、俺らだっているんだ!」


 パーティーのメンバーのひとりが俺に向かい、爆弾のようなものを投げ付けた。

 しかしそれはリーダーが大剣で真っ二つに斬ったせいで、空中で爆発した。


「……これは一対一の戦いだ、お前らは終わるまでおとなしく部屋の端っこのほうで見てろ」

 

 気概も充分。爺さんを人質に取ったのだけは気に食わねぇが、ちゃんとプライドもあるみたいだし。

 転生前にもし出会っていたら、パーティーのメンバーに勧誘したくなりそうなくらいの逸材だ。


「いいねぇ、ヤル気のある若者は。だけどこのままお前は、今すぐここで死ね!」


「は? 若者って……。お前のほうがその若造より、ずっと子どもじゃろうが!」


 ロジャー爺さんの的外れなツッコミが、虚しく木霊した。

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