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㉑ケイト召喚

「これだけ雪が続くと、外に洗濯物も干せやしない。乾きも悪いし、ほんと困っちゃうな」


 室内に洗ったばかりの洗濯物を干しながら、思わずぼやいた。


 それにこの世界には部屋干し専用の洗剤はおろか、ちゃんとした洗剤すらもないのだ。

 だけど生乾き臭のする服を、かわいそうだからアイシャにはあまり着せたくない。

 しかも氷点下の日が続くと川で洗うこともできなくなるから、本当に困ってしまう。


 するとアイシャの遊び相手をしてくれていたレオンが、思わぬ言葉を口にした。


「なら俺が、乾かしましょうか?」


「へ……? レオンさん、まじでそんなことができるの?」


 ニンマリと、ドヤ顔で笑うレオン。

 それから彼は詠唱をはじめ、強風を吹かせた。

 するとあっという間に洗濯物が乾き、アイシャが歓声を上げた。

 

 なるほどな、風乾燥か!

 はじめてこのポンコツ魔法使いを、うらやましいと思っちまったぜ。


「わぁ!! レオンさん、今のなぁに? すごい、すごい!!」


  ぴょんぴょんと跳ねながら、レオンを絶賛するアイシャ。


「魔法だよ、アイシャちゃん」


 クスクスと笑いながら彼は答えたのだけれど、最近ちょっとおませさんなアイシャは本当なのかと疑うような視線をレオンに向けた。


 そのやり取りを見て、思わずプッと噴き出した。


 日々成長しているのを嬉しく思う反面、こうした時ちょっとした寂しさを感じてしまう。

 とはいえレオンが魔法使いだというのは、嘘ではなくまじな話なわけだが。

 

「ありがとうございます。レオンさん、本当にすごいですね! はじめて役に立つなって、思いました」


 お礼だけ言えばいいところを、普段のカイトらしい言葉遣いを続けながらも猛烈な嫌味を込めて言ってやった。

 だけど鈍いこの男には、どうやらそれが伝わらなかったようだ。


「洗濯に困ったら、またこのレオンめにお任せを! カイトさんのためであれば、いつだって馳せ参じますよ」


 ……最近は呼ばなくてもお前、勝手にうちにほぼ入り浸ってるけどな。


 俺が忙しいときにはアイシャの面倒を見てくれることもよくあるから、その言葉はグッと飲み込んだ。

 

 というのも、この男。自由の利く時間が、とにかく多い。

 働いたり、学校に行ったりしなくていいのかと以前聞いたところ、とんでもない事実が判明したのだ。


 なんと驚くべきことに元々は外資系の有名企業勤めで、その時の収入を使い投資家に。

 得た利益をうまく運用し、その後はリスクのある投資もやめて賃貸マンションの経営で収益を得るように。

 不労所得で悠々自適な生活を送る、億り人様だったのである。

 ……どおりで金に、執着しないわけだぜ。


 しかも腹立たしいことにこのイケメン様の顔は、現実世界のものとあまり変わらないらしいのだ。

 俺はちゃんと見たことがなかったのだが、俺の仲間がいうには、生配信で見た顔はゲームのアバターと瓜二つだったらしい。


 それをこいつに確認してみたところ、アバターのデザインを考えるのが面倒だったからと答えやがった。


 ……平凡で地味なモブ顔の俺は、あんなにもワクワクしながらアバターを製作したというのに。クソが!!


***


 この日は村祭りがあり、アイシャとともに珍しく夜のお出かけをすることに。

 村祭りといってもここはド田舎の僻地にある村だから、たいしたイベントがあるわけではない。

 村を守り、豊作へと導いてくださるありがた〜い土地神様に食事とお神酒をお供えし、みんなで燃え盛るキャンプファイヤーみたいな炎を囲んで踊るという非常にシンプルかつ原始的なものだ。


 とはいえ季節的におそらくこれは、日本の正月にあたるものなのだと思う。

 本音をいうと俺は決して信心深いほうではないからあまり興味がなかったのだが、アイシャが絶対に行きたいというので連れて行くことにした。

 アサシンはプレイヤーには強いが、妹には激弱なのだ。


 屋台が出ているわけでもないのに、夜のお出かけという非日常のせいでテンションがいつも以上に上がっている様子のアイシャ。

 それを見て、連れてきてよかったなと心から思った。


 しかしその帰り道。運悪く酔っ払いのプレイヤーたちに、絡まれてしまった。

 本当にここは、ド田舎の農村か? ……治安が、悪すぎるだろ。


「お、ちょうどいいところにNPCがいるじゃん! 賭けに負けて気分悪いから、ちょっと殺らせてくれや」


 いいよ、なんて言うわけがないだろうが。アホなのか? 逆にお前を殺ってやろうか、このクソボケカス!


 その言葉が口から飛び出しかけたが、今は可愛いアイシャと一緒なのだ。

 なので今回は、なんとか穏便に済ませたい。


「お兄ちゃん……」


 不安そうに俺の服の裾を掴む、アイシャの小さな手。

 瞳を潤ませ、俺を見上げるそんな表情を見たら、こいつらに本気で殺意がわいた。


 だけど祭りの後ということもあり、アイシャだけでなく夜であっても知り合いに見られる可能性もある。

 ……めんどくせぇな、まじで。


 そこでふと、妙案が浮かんだ。

 先日ケイトに、服従の契約魔法をかけさせた際。

 おまけでレオンから渡された、魔力が凝縮されたネックレス。

 それはふたつペアになっていて、なんと俺が望めば対になるものを持つ相手を召喚することができるのだ。


 これがいくらしたのか考えるだに恐ろしいが、くれるというのだからありがたく頂戴しておいた。


 ちなみに彼はもう片方を自分で持つつもりだったようだが、野郎とペアアクセを持つ趣味は俺にはない。

 それにそもそもの話こっちの世界にあいつがいる時は大抵うちに入り浸っているのだから、必要がないのだ。

 とはいえケイトとおそろというのも、正直あまりいい気はしないわけだが。


 別にわざわざ口でなにか唱える必要はないが、やはりこういうのは気分が大事だろう。


「ケイト、召喚!」


 ネックレスを片方の手で握りながら、もう一方の手を天に掲げる。

 すると目の前にキラキラと輝く魔法陣が現れ、顔になにやら布のようなものをかけて椅子に座っていたらしきケイトが姿をあらわした。


 上機嫌な様子で、少し前に流行ったK-POPソングを口ずさむ彼女。

 しかし突如椅子が消え、空気椅子状態になってしまったのであろうケイトはそのまま体勢を崩し、ダイナミックに尻もちをついた。


「ケイト、召喚完了! 今すぐこいつらを、全員墓地に送れ!」


 顔にかけていた布のようなものを放り投げ、立ち上がりながら俺を思いきり睨みつけるケイト。


「いきなり召喚しないでよ、あと勝手に私をデッキに組み込まないでちょうだい!」


「危機的な状況だから、召喚したんだろうが! ずっとお前のターンでいいから、さっさとターンエンドにしろよ」


 突然の展開に驚き、唖然とした様子でただ大口を開けて俺らのやりとりを見つめる暴漢ども。

 つい言葉遣いが荒くなってしまったが、アイシャは突然現れたケイトに目が釘付けなため、セーフということにしておこう。


「ケイトお姉さん……? お姉さん今、どこから来たの!?」


 大きな瞳をぱちぱちと瞬かせ、心底不思議そうにアイシャが聞いた。

 先日家にケイトを連れ帰った際、アイシャのお昼寝中にレオンに依頼して魔法をかけさせた。

 だけどそのあと起きてきたから、ふんわりとではあるがケイトのことは妹にも紹介してあった。


「ここだけの話だけど、ケイトさんは魔法使いなんだ。だからこの悪いお兄さんたちを、お姉さんに退治してもらおうな」


 ポンポンとアイシャの頭を撫でながら、早くやれと笑顔のまま顎先でケイトに指示を出す。


「はぁ……、仕方ないわね。殺ればいいんでしょう? 殺れば!」


 ケイトの表情が、NPCから狩人へと変わる。

 それを見てプレイヤーたちは、ゴクリと唾を飲み込み数歩後ずさった。


 とはいえさすがにケイトの残虐な戦闘シーンをアイシャに見せるわけにはいかないから、その愛らしい瞳を手のひらで覆い隠した。


「私のご褒美美容タイムを邪魔した罪は、重いわよ?」


 妖艶に笑ってスカートの裾をまくり上げ、真っ白なガータベルトの隙間からナイフを取り出すケイト。

 そのまま迷うことなく、さっき俺に殺らせろと理不尽な要求をしてきたクソ野郎にまずは斬り掛かった。 

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