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⑯5人の危険なNPC

「だけどその反応を見て、安心したよ。あんたはそっち側の人間じゃないみたいだな」


 先ほどまでとは異なり、柔らかな笑顔で言われた。


「当たり前だろうが! 俺が目指してんのは、まさに平凡なNPCだっつーの。……クソ! こうなったら一位を目指して、なんとしてもおとなしく平和な日常を送り続けてやる」


 指の先が白くなるくらい強く拳を握りしめたまま力説したら、ジョーはおかしそうにククッと笑って言った。


「付番されてない一般的なNPCは一律で、全員一位のはずなんだけどねぇ。ちなみにカイトが先週叩き出した25位が、現状最下位なんじゃないかなって俺は思ってる。だけど大きな問題を起こさなかったさえ、来週にはさらにランキングも浮上しているはずだよ。だからたぶん、そこまで気にしなくて大丈夫」


 それから彼は表情を曇らせ、少し迷うような素振りを見せた。

 だけどこうなりゃ、乗りかかった船だ。それに良いことでも悪いことでも、手元にある情報はちょっとでも多いほうがいい。


「それで? 先週の俺を、最下位だったと仮定した場合。一般のNPCが全員一位なんだとしたら、ナンバードは俺とお前を入れておそらく全部で24人ってことになる。前世の記憶を取り戻す前の俺も、ずっと一位の付番されていないNPCに含まれてたってことになるからな」


 俺の言葉を聞いたジョーの表情が、険しいものへと変わった。

 その顔を見て自分の嫌な予想が当たっているであろうことを確信しながら、一方的に質問を続けた。


「……だったら今週最下位をとったやつは、ひとりナンバードの面子が増えてることにもう気がついてるんじゃないのか?」


 するとジョーは、ちょっと困ったように笑って教えてくれた。


「ハハ、本当にあんたは勘がいいな。だけど俺も実は、その可能性が高いと思ってたところだよ」


 サイアクだ! うっかりあんなクソ雑魚勇者どもに手を出したせいで、まじで面倒なことになっちまったじゃねぇか。

 しかも今後最下位の人物が入れ替わるたびに、その情報を持つ者がどんどん加算されていくのだ。

 知らなかったこととはいえ、ほんとやらかした!

 

「……ナンバードの中でわざとランキング最下位を目指すようなクソヤバいやつらは、いったい何人くらいいると思う?」


「そうだなぁ……。これはあくまでも俺の推測に過ぎないから、話半分に聞いてほしいんだけど。おそらくまじでヤバい連中は、今週20位以下の下位5人だと思う」


 俺が苦虫を噛み潰したような顔を、していたせいだろう。

 ジョーはフォローするように、軽い口調で言ってくれた。


「まぁそんな深刻に、考え込むなって。逆にいうと残りの19人は、平和で普通な生活を望むNPCってことになる。このランキングで順位が上がれば上がるほど、生存確率も上がるわけだからさ」


 なるほど、たしかにそれは一理ある。

 それでもやっぱり下位の5人がどんな人間なのか気になってしまうのが、人の性というものだろう。


「ちなみにジョーは、そいつらに会ったことは?」


「たぶん、ないはずだよ。だけど絶対かと聞かれたら、ちょっと自信がないかな? だってあいつらは平凡な人たちに紛れて、今この瞬間も普通のNPCとして平然と暮らしてるはずだから」


 ……やっぱ、そうなるよなぁ。


 俺が愛する妹 アイシャのために目指す、平凡なNPC農夫への道。

 それが想像していた以上に険しいものになりそうだという現実を改めて思い知らされて、自然と大きなため息が出た。


「はぁ……。思ってたより、ハードモードだな。でもありがとう、ジョー。だいたいの現状は、把握できた気がするよ」


 ずっとアイシャのことをレオンに任せたままになっていたため、まだもう少し聞きたいことはあったけれど今日のところは礼を言って帰ろうとした。


 するとジョーは立ち上がった俺に、少し迷うような素振りを見せながらも告げた。


「ちょっと待って。ひとつだけ、見ておいてもらいたいものがある」


「……見ておいてもらいたいもの?」


「うん。カイト、あんたのナンバーの上二桁ってたしか、05だったよな?」


 言いながら彼が引き出しから取り出したのは、日本語で書かれた一枚の表だった。


 そこには01から12までの番号が書かれていて、01には剣士、02にはネクロマンサーといった感じでレッド・アースの世界における職業が記されていた。


「これって、まさか……」


 彼の手から、一覧を奪い取り凝視する。


「うん、そのまさかだよ。ナンバーの、上二桁。それが示してるのは、おそらく前世での職業だ。俺は過去に10の弓使いにふたり遭遇してるから、たぶんその理論で合ってる。……と、思う」


 空欄のほうがまだまだ多いが、この答えには俺だけでは絶対にたどり着けなかったに違いない。


「ちなみに俺は12の、情報屋。じゃあ05には、いったいなんの職業が入る?」


 ここまで先に情報を開示されては、さすがに隠すわけにはいかないだろう。

 彼に信頼してもらうためには、あまり言いたくはなかったけれど素直に答えるしかあるまい。


「05は、アサシン。……暗殺者だよ」

 

***


「ただいま」

 

 自宅に到着し、帰宅の挨拶とともに扉を開けたというのに、今日は可愛いアイシャのお出迎えがない。


 それを不思議に思いながら家の中に入ると、俺よりも背の高くなったアイシャと目が合った。

 というのもアイシャはレオンに肩車をされて、ご満悦で家の中を掃除中だったからだ。


「あっ、おかえりなさいカイトさん!」


 満面の笑みを浮かべて嬉しそうにレオンに言われたが、俺が今欲しいのはお前の笑顔じゃねぇ!

 アイシャの面倒をみてくれていたのには本当に感謝しているが、それとこれとは話が別である。

 癒しが。……癒しが、足りてないんじゃい!


「ただいま。アイシャ、いい子にしてたか?」


 指を伸ばし、彼女の柔らかな頬に触れる。

 するとアイシャはくすぐったそうに、クスクスと笑いながら言ってくれた。


「おかえりなさい、お兄ちゃん。うん、アイシャお利口にしてたよ。レオンお兄さんに肩車してもらって、棚の上のお掃除をしてたの!」


 ドヤ顔で答える、マイエンジェル。

 それを見て、デレデレと頬の筋肉が緩む。

 だけどどうしても気に入らないことが、ひとつだけある。

 レオンめ。俺が留守の間妹の面倒を見ていてくれたのはたいへんありがたいことだが、ここまで手なづけろとは誰も言ってない!


「そっか、そっか。アイシャは本当にお利口さんだな! よーし、こっちにおいでアイシャ。今度はお兄ちゃんが、肩車をしてやろう」


 醜い嫉妬心を丸出しにして、彼女に向かい手を伸ばす。

 だけど彼女はちょっと考えてから、あっさり答えた。


「……やだ」


「へ……? いや、なんでだよ!? お兄ちゃんだって、アイシャに肩車してあげるぞ!」


 なのにアイシャは愛らしい唇を尖らせたまま、破壊力抜群なひとことを繰り出した。


「だってお兄ちゃんよりも、レオンお兄さんにしてもらったほうがずっと高くて楽しいんだもん!」


「くっ……!」


 すると生意気にもレオンは、俺を見下ろしたままフフンと得意げに笑いやがった。

 クソが!! ……こいつにはあとで、教育的指導が必要かもしれないな。


 涙目で、レオンのことをにらみつける。

 それを見た彼は、ちょっとあわてた様子で言った。


「大丈夫ですよ、カイトさん! だってカイトさんは、まだまだ成長期の真っ只中ですから!」


「うるせぇ、同情すんなバーカ! バーカ! バーカ!」


 するとアイシャは一瞬キョトンとしたように俺を見つめ、それから真剣な表情で言った。


「お兄ちゃん! 馬鹿って言ったら、駄目なんだよ。 レオンお兄さんに、ちゃんと謝って!」


 ……本当に、屈辱過ぎる。

 でもこれを大人げなく拒絶するのは、アイシャの保護者としてたいへんよろしくないだろう。

 そう思ったから、渋々ながらレオンにたいして頭を下げることにした。


「……レオンさん、ごめんなさい」


 だけど謝罪を受けた側のレオンは青ざめ、めちゃくちゃ顔を引き攣らせていたことから、きっとこの時の俺のこめかみには思いきり青筋が浮かんでいたに違いない。


 ……大人になるって、本当に難しいな。

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