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⑬ステイタスボード、再び

「おはよう、アイシャ。そろそろ起きようか? 朝ごはんの用意も、もうすんでるぞ」


「ん……。おはよう、お兄ちゃん。もう朝ぁ……?」


 まだ眠たそうに目をこすりながら、アイシャがベッドからのそのそと起き上がる。

 だけど家にレオンがいることに気付き、すぐに大きく目を見開いた。


 滅多に他人がうちに泊まることがないから、朝から誰かが家にいることに驚きながらもワクワクしたようにキラキラとアイシャの瞳が輝く。

 それを見て、ついプッと噴き出した。


「おはようございます、アイシャちゃん。まだ少し、おねむさんかな?」


 クスクスと笑いながら、椅子に座ったままレオンが声をかけた。

 ガバッとベッドから抜け出し、パタパタとレオンに駆け寄ろうとするアイシャ。


「アイシャ。まずは顔を洗っておいで!」


 苦笑しながら俺が言うと、アイシャはちょっと不満そうにしながらも素直に木桶のあるほうに向かい、バシャバシャと顔を洗ってから布で拭いた。 

 

「おはようございます、レオンお兄さん! ……でも、なんでうちにいるの?」


 不思議そうに、こてんと首をかしげるアイシャ。

 今日も今日とて、うちの天使はまじで可愛いな。うんうん。

 

「実は今日は、レオンさんにもうちで朝ご飯を食べてもらうことになったんだ。だからアイシャが、彼の分も食器の用意をしてくれる?」


「そうなんだ……。わーい、やったぁ! アイシャに任せて、お兄ちゃん!」


 ブンと大きくうなずき、意気揚々と棚からレオンの分の皿を取り出すアイシャ。

 この食器は両親がいた頃からずっと家にあるものだが、使う者がもう何年もいなかったため、うっすらとホコリをかぶっていた。


 それにちゃんと気付いたのか、さっきとは別の桶に汲まれた水を使い、すぐに丁寧に洗い始めるアイシャ。

 ……本当に、なんてお利口さんなんだ! これはあとで、いっぱい褒めてやらねばなるまい。


 少し前にレオンのことは叩き起こし、例のポーションで治療済み。

 だって血まみれのこいつの姿をアイシャの目に触れされるなんていうことは、教育上たいへんよろしくないからだ。


 ちなみにまたしてもレオンは悲鳴をあげそうになったが、アイシャかまだ寝ていることを伝えたら必死の形相で堪えていた。ヤバい、ウケる。


 三人で囲む食卓は、とても賑やかで楽しいものとなった。

 妹にはいつもさみしい想いをさせてしまっているものだから、嬉しそうにレオンに語りかけるアイシャの姿を見て、これからもこいつを時々家に招いてやってもいいかもしれない。


 特別に用意した卵を使っての目玉焼きにも、アイシャは大興奮だった。


 口の端に黄身をつけていたから拭いてやると、彼女はえへへとちょっとはにかむように笑った。

 ……こんなところまでも可愛くてたまらないと感じてしまう俺はおそらく、重度のシスコンに違いない。


 でも、いいのだ。俺の今世での、最大の目標。

 それはアイシャの笑顔を、守り続けることなのだから。

 シスコンのいったいなにが悪い? これは立派な、家族愛なのだ。


 なので引き続きレオンの育成に励みつつ、平凡なNPCを目指そう。

 だってこれが一番最適な、アイシャを幸せにする方法に違いないから。


 そんな未来をひとりこっそり脳内に思い描いていたのだが、そこで思わぬ事態が起こる。


 突如眼前に現れた、ネオングリーンの文字。

 そこに記されていたのは、まったく予想外の言葉だった。


【NPC_Kaito_050025 今週は24ランクダウンです。次週はもっと頑張りましょう】


「は……?」


 あまりの意味の分からなさに、思わず変な声が出た。

 だけどこのステイタスボードのようなものはやはり俺にしか見えていないのか、アイシャもレオンもキョトンとした様子でただ俺を見つめている。


 NPC_Kaitoというのはやはり、俺のことを指す言葉だろう。

 それはもう、ほぼ間違いない。

 なのに、24ランクダウンだと……?

 前回はたしかそのナンバーは、0500001だったはずだ。

 だったら単純にこれは、なにかのランキングだということか?

 でも、だとしたら。……いったい、なんの?


 単純にNPCの数を指すのだとしたら、やはり数が多すぎるように思える。

 いくらレッド・アースが大人気のVRゲームだといっても、これじゃあプレイヤーよりもNPCのほうが多い計算になってしまうではないか!


 なにか。……なにかヒントになるような情報が、少しでも隠れてないか?

  

 じっとその文字を、凝視する俺。

 手を伸ばしてみたものの、やっぱり触れることはできないようだ。

 ほんとなんなんだよ、これは!! ……クソ、さっぱり意味が分からねぇ。

 まじで説明書くらい寄越しやがれよ、このクソステイタスボード!


 叫び出したい衝動に駆られたが、こいつらにこれが見えていない以上、ここで騒ぎ立てるような真似はきっとしないほうがいい。


 レオンにはあとで相談してみるとしても、少なくともアイシャの前では。


 そのまま文字は前回同様あっさり消え去り、これがなんなのかは結局わからずじまいのまま。

 ほんと、勘弁してくれよ!


 だけどひとつだけ、分かったことがある。

 『今週の』と表示されていたことから、このランキングはおそらく毎週発表されるものと考えてほぼ間違いないだろう。


 日時計を確認したところ、現在は朝の7時過ぎ。

 しばらくの間眼前に表示されたままだったから、実際にあれが現れたのは7時ジャストくらいなはずだ。

 なので次回も、同じ時間に発表される可能性が高い。


 ランキングが上下することで、なにか生活に影響は

あるのだろうか?

 それにアイシャとレオン、それから記憶を取り戻す前の俺自身には表示されないかった理由はなんだ?


「お兄ちゃん、目玉焼きおいしいねぇ」


 アイシャの愛くるしい声で、我に返った。

 心配そうに俺を見つめるレオン。


 なので無理やり笑顔を作り、いつものカイトらしい言葉遣いで答えた。


「そうだな、アイシャ。そのうちまた、作ってやるからな」


 俺の言葉にアイシャは喜び、椅子の上でぴょんと跳ねようとした。

 だから彼女の肩を軽く押さえつけ、笑顔のまま告げた。


「こら、アイシャ! お行儀が悪いよ。ちゃんといい子にしてたら、また作ってやるから。約束な」


 少し唇をとがらせながらも、はーいとアイシャが元気いっぱい答えた。


***


 そこからの、数日間。

 俺はレオンに早朝は稽古をつけつつ、日中はこれまでどおり内職に勤しんだ。

 

 というのもいきなり内職のほうを辞めてしまっては、信用を失い来年以降の収入に関わってくる。

 それから働いてもいないのに暮らしぶりが変わらなければ、他の農民たちから変に思われかねないからだ。


 ……プレイヤー相手に師匠役をやって小銭を稼いでいますだなんてこと、口が言えても誰にも言えやしない。


 そしてあっという間に一週間が過ぎ、再び迎えたランキング発表の時。


 とはいえ今日はゆっくりその内容を確認したかったから、稽古後アイシャのことはレオンに任せてひとり出かけることにした。


 なるべく知り合いのいない場所で落ち着いてその時を迎えたかったから、早足で歩き続けてどり着いたのは隣町 アズールだった。

 そこはヴァルダの村とは異なりかなり栄えていて、まだ朝の早い時間だというのに市場は人であふれかえっていた。

 

 ……そろそろ、時間か。


 人の波から外れ、ひとり静かにベンチに腰を下ろした。


 俺の眼前に現れた、ネオングリーンの文字。

 よっしゃ、推測通り。ドンピシャのタイミングだな。


【NPC_Kaito_050017 今週は8のランクアップです。この調子で頑張ってください】


 ランキングは上昇していたが、その理由がなんなのか、とんと見当がつかない。

 それに、そもそもの話。これがなんのランキングなのかを、まず教えやがれってんだ!


 と、その時だった。満足そうな声で、小さくつぶやくのが聞こえた。


「……よしよし。今週も、いい感じだな」


 声のしたほうを振り向くとそこには、俺に負けず劣らずといっていいほど地味なモブ顔の若者がひとり。


【NPC_Joe_120003 今週はランキングの変動がありません。さらなる高みを目指しましょう】

 

 予想外の出来事に驚き、男の前に表示されていたステイタスボードの内容をガン見する俺。

 するとその視線に気付いたらしい男はハッとした様子で息を呑み、そのまま一目散に逃げ出した。


 絶対にお前、このランキングについてなんか知ってんだろ!!


「おいこら、ちょっと待ちやがれ! 止まれ! 止まれって言ってんだろうが、クソが!!」

 

 あわててその男の背中を追った。 

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