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⑫強みと弱み

 雪で足場も悪いというのに、俺の攻撃を息を切らせながら必死に、だけどしっかり避けるレオン。

 でもやはりまだ応戦一方で、攻めに転じる余裕まではまったくないようだ。


「おいおい、レオン。それまじで、本気でやってんの? 俺が鎌とかダガーの武器を手にしてたら、秒で死んでるぞ」


「くっ……、分かってます。分かってますけど! アサシンランキング1位のカイトさんに、いきなり勝てるはずがないじゃないですか!」


 弱気な発言にいら立ち、勢いよく鉄棒をレオンの頭めがけて振り上げる。

 間に合わないと覚悟を決めたのか、ぎゅっと目を閉じるレオン。


「はい、今ので死亡確定な? ったく……。すぐに目を閉じんな、最後まで抗えよ」


 ギリギリのところで寸止して、軽くコツンとこついた。


「すみません、師匠!」


「……師匠呼びは、やめろ。キモい、寒気がする」


「はい、分かりました師し……。カイトさん!」


 寒気がするのも本当だがそれ以上に、うっかり他所でも師匠なんて呼ばれたらたまったもんじゃない!

 こいつは馬鹿ではないが無神経だし、感情にかなりのムラがある。

 なのでここでしっかり調教しておかなければ、後々後々面倒なことになりかねない。


「じゃあ、気を取り直してもう一回。はなから勝てるわけがないとかいう甘い考え方は、好きじゃねぇ。しっかり食い下がれよ。ほら、今度は絶対に勝つ気でやれや」


 手にしていた鉄棒を放り投げ、今度は素手で構えた。

 音もなく雪に沈む、鉄の棒。


「えぇ!? カイトさん、さすがにそれは無理がありますって!」


 あわてた様子で、棒を拾おうとするレオン。

 だけどさっき、手合わせをしてみて分かった。

 昨日は俺の手の内がすべてバレていると気がつけなかったからそこそこ互角に近いバトルになってしまったが、今のこいつ相手ならこれで充分だ。


「ほほーん、たいした自信じゃねぇか。でもそう思うなら、かかってきてみ? ほれ、ほれ」


 ぶらーんと両腕を下げ、完全にノーガードの状態であることをアピールしてみせた。

 するとさすがにプライドが傷付いたのか、彼はぎゅっと唇を噛み締めた。


 負けず嫌い、おおいに結構!

 まぁ今から俺が、コテンパンに倒すわけだが。


 剣を握る手に力を込めて、勢いをつけて俺に斬り込むレオン。

 だが、甘い。そんな闇雲に突っ込んでくるだけじゃ、ランカー相手に勝てるかよ。


 彼の肩に手をやり、その巨体を足場代わりに使って大きく跳ね上がる。

 唖然とする彼の首筋に、トンと手のひらを当てた。


「はい、これで一回レオンくんは死にました。なにが駄目だったか、分かるか?」


「えっと……。あの、カイトさんが素手だからって、僕が油断してしまったからでしょうか?」


「たしかに、それもある。だけど、ブッブー! ハズレです。正解を次回までに、考えておいてください。おら、次行くぞ! 次!」


 では今度は、俺のほうから仕掛けてやるとするか。

 姿勢を低くして駆け出した勢いのまま、レオンの懐に潜り込む。

 そしてレオンが避ける間もなくそのまま足を大きく振り上げ、彼の頬に蹴りを入れた。


 レオンの大きな体がぐらりと揺れ、そのまま雪の上に無様に転倒する。

 しかし攻撃の手を止めることなく、今度は彼の喉元に人差し指を当てた。


「はい、二回目。今度はなにが原因で、殺られたでしょうか?」


「……てっきり殴られるものだとばかり思い込み、足での攻撃は予想もしていませんでした」


「せいかーい! たいへんよくできました。じゃあ次な」


 するとレオンはあわてた様子で立ち上がり、不満の声をあげた。


「ちょっと待ってくださいよ、カイトさん! せめて態勢を立て直す時間……。くはっ……!」


 こいつが最後まで、言葉を発することができなかった理由。

 それは俺のグーパンが、あっさり彼の顔面をとらえたせいだ。


「はぁ? なめたことばっか、言ってんじゃねぇぞ! お願いしたら敵が、待ってくれんのかよ? 俺はもらった対価の分は、きっちり働く。このやり方が気に食わないなら、契約は破棄だ。破棄!」


 口の端からにじみ出た血を拭いながら、レオンがよろよろと立ち上がった。


「たしかに、カイトさんの言うとおりですね。次、お願いします!」


 まだ気持ちは、折れてないみたいだな。

 ほんと、教え甲斐のある生徒だ。


「ほいよ。んじゃ、次な」


 再び足を大きく足を振り上げ、蹴りを入れるふりをする。

 それに反応してすぐさま避けたのはたいへん優秀だが、甘いよ。同じ攻撃を、二度も繰り出すはずがねぇだろうが。


 完全にこいつの意識が俺の足に向かっているのを承知の上で、足を下ろすタイミングで今度は腹部に拳で一撃。

 

「はい、3回目。今度の敗因は……。もう、分かるよな?」


「……完全に蹴りがくると思い込み、腹がノーガードになっていたせいです」


「おっけ。よくできました。けどさぁ、レオン。俺は別にお前に、身体強化の魔法を使うなって言ってねぇだろ? なのになんで馬鹿正直に、俺とまともにやり合おうとしてるんだよ? ほんと、そういうとこだぞ」


 ハッとしたように見開かれた、エメラルドグリーンの瞳。

 ……だけど、甘い。瞳を閉じて素直に詠唱を開始した彼の背後に回り、こめかみのあたりに一撃入れてやった。

 

「すぐさま詠唱を開始したところは褒めてやりたいが、詠唱中は完全に無防備になる。なので今そのスキルを使うのは、不正解。ってレオン、ちゃんと聞いてるか? おーい、レオン? レオーン!」


 あちゃあ、さすがにこれには耐えられなかったか。

 こめかみのあたりを攻撃すると、脳が揺れる。

 その結果、軽い脳しんとうを起こさせることが可能だ。

 俺の呼びかけに、応えることなく。レオンはそのまま再びぐらりと倒れたかと思うと、完全に意識を飛ばした。


***


 レオンの大きな体を背負い、自宅へと連れ帰る。

 少しやりすぎてしまった気もするが、初日からぬるい指導をするのは俺の主義に反する。

 レオンにもさっき伝えたように、給料分の仕事はきっちりこなさねば。


 こいつには言っていないが、俺がこのバイト中に考える到達点は、こいつを世界ランキング30位以内に入れること。

 魔法剣士だけのランキングでは、10位以内も射程距離内にあると考えている。

 魔法剣士は人気の職業だからハードルは高いが、レオンが真面目に修行したさえ全然余裕で狙えるはずだ。


「はぁ……、この大男めが。なにを食ったら、こんなにでかくなるんだ? ……今度からはまじで、ちゃんと強化魔法を使わせてから修行を始めないとだな」


 俺のベッドに寝転がらせると、レオンはムニャムニャと『師匠……、俺まだやれますよ』とつぶやいた。

 寝言は、寝てから言いやがれ! ……いや、ちゃんと寝てるか。


 もう少ししたらアイシャが起きてくる頃合いだし、今日はレオンと三人で朝食をとるのもいいかもしれない。


 いつもは俺とアイシャ、ふたりで食べることがほとんどだから、きっと喜ぶに違いない。


 レオンから報酬は先払いでもらっておいたから、それを使って買った卵も焼くとしよう。

 普段は口にできない贅沢品だから、きっとアイシャはびっくりするだろうな。


 ククッと笑いながら、熱したフライパンに三つ分の卵を割り入れた。

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