II セーフorアウト??
(し、死にました)
馬車に揺られることおおよそ一日。
私はなんと今、王城に招かれています。目の前には例の婚約破棄をされたはずのご令嬢、ジョセフィーヌ様が優雅にお座りになっているではありませんか! 優雅な金髪の御髪に赤のドレスを纏った姿は恋愛小説の悪役令嬢そのものでしたが、物腰の柔らかさは聖母のようでした。
「私、貴女にはとっても感謝しているの」
「は、はぁ」
話によるとこの一週間で王太子は失脚、第二王子とジョセフィーヌ様が良い仲になっていたそうです。それもこれも全て、この氷の参謀殿のご活躍ゆえだとか。
(やりますねフラミンゴ参謀!)
「本来であれば私の婚約破棄が大々的に笑い物にされる筈だったわ。それを貴女の機転が救ってくれたのよ。あの場をめちゃくちゃにしてくれてありがとう」
「えへへぇ、それ程でもぉ」
私のドジが実は一人の女性の心を救っていたようです。隣に直立するフラミ……氷の参謀殿も黙ったまま。
(私、逆に良いことしたんじゃ? セーフセーフぅ!)
「お礼の品も包んだの。良かったら持って帰って頂戴」
「ははーっ、有難き幸せ!」
「ふふ、あなたとは在学中関わりがありませんでしたけど、とても素敵な方なのね」
ジョセフィーヌ様はそう微笑むと、私とにこやかに握手をしました。
*
(あー良かったぁ)
一時はどうなるかと思いましたけれど、御礼を言われるために呼ばれたのであれば安心です。お土産を持って辺境に帰りましょう。お父様も心配しているはずです。
帰り道、スキップをしていると肩を掴まれました。先程も居た氷の参謀殿です。相変わらずニコリともしていません。
「それはそれとして。責任、取ってもらおうか」
「え?」
彼は私を誰も使っていない空き部屋に連れ込みました。胸元に収めていたらしい円筒状の筒から書状を取り出すと、くるくると羊皮紙を平らにしていきます。中に書かれていたのは、まんまるおめめが飛び出るような金額です。これは――名誉毀損にかかる賠償というものでした。
「あのような衆人環視の中で辱められたのだ。本来であればこのような金額では済まないが、同級生の誼でこの金額にしておいてやろう」
「こ、こ、これは……む、む、無理ですぅ」
「そうか。無理なら身体で払ってもらうしかないな」
彼は無表情で私に詰め寄ります。
(セーフだと思っていたらアウトだったんですかぁ!?!?)
私はこれだけは言っておかねばならないと、口を開きました。
「お酒もタバコもやらないので臓器は綺麗だと思いますぅ」
「ここで商品価値を上げるな。誰が臓器のバイヤーだ」
「臓器を人にあげるときは他人に憑依して蘇る気でやれって瓦版に書いてありました!」
「臓器から一旦離れろ」
ランティス様はそう言いますが、彼が氷の参謀と呼ばれる所以は彼が王族のために不要な人物を裏で処刑しているという噂があったからに他なりません。彼は頭脳明晰、冷静沈着、冷酷無比として広く知られてきました。
(まぁ、私がパンツお披露目をしてしまったので、この一週間でフラミンゴ柄パンツ参謀って呼び方変わっちゃいましたけど!)
そんな彼は耳元でこう囁きました。
「私の手駒になれ」