祈りとちょっとの呪い
ここに来て一か月がたち、私はぴんぴんしている。
そのことに役人が号泣していた。これで故郷に帰れるらしい。
がしっと両手で私の手を握って、ありがとう!と感極まっているところを見るとほんと悪い人ではないんだよなと遠い目をした。
ちょいとばかり、世間知らずで、人の良さがあって、たぶん、ちょっと抜けてる。
お友達も心配するわけである。
性能的な話は問題なさそうなので中央では冷や飯食うの当たり前といったところだろうか。
戻られてもお元気で、と当たり障りのない返答をしておいた。苦節一年と言っていたが……意外と短くないか? という疑問。
ま、まあ、それはさておこう。
私への食料提供や監視の引継ぎはご近所の方となったらしく。本日、同行してくれているが、そちらはかなりビビったように私を見ていた。大丈夫か、これ。
「よろしくお願いします」
そう挨拶しておいたのだけどね。にっこりとね。
「よ、よろしく」
父ほどの年の男が小娘をビビる現状、ちょっと不安過ぎる。
案の定、三週目から来なくなった。それを考えると前の役人、まじめだった。まじめだったから貧乏くじ引いたんだなと思う。
どうしたものかな。そう思いながらもあせらないのは畑から収穫物でしばらくはしのげるからだ。イモ類と葉っぱ系。肉類が欲しいが元々そんなに食べていなかったし、保存性のある干し肉はケチっていたので残っている。
畑の肉と言われる大豆っぽいものも育っているし、悲観はしてない。飽きる心配はあるが。
それにしても感謝しているならもっとましな引継ぎ相手を用意しなさい。祭壇に怨念を込めて祈っておいた。食い物の恨み忘れるべからず。
さらに次の週も誰も来なかった。
「ほんと、ろくでもない」
期待はしていなかったが、ひどいもんである。村に行けばいいんじゃないか、というところだが、歩いていく距離じゃない。もともとここが別の村だったというから、普通の距離感である。
ため息をつきながら、畑の世話をする。素人のお世話で頑張ってくれる可愛い子ちゃん揃いだ。
「大きく育ちなさいね」
声をかけるとわさりと葉が揺れた気がした。
「うん?」
と思った時にやめておけばよかったのだ。
毎日、声をかけて育てた。
その結果……。
「おかしくない!?」
毎日トマト取り放題! 枝豆豊作! じゃがいも育ちすぎ!
その他、玉ねぎ、にんじんとやる気がある。いつの間にか混じっていたのかハーブ類も俺も俺もと主張が強い。
花咲いてから収穫まで異常に早い。
最初は保存用と冷暗所に保管していたが、もはや売るほどある。なのに売る先がない。
近くの村の近くは近くない。田舎の人の言う近くと同じくらい近くない。車ではないが荷馬車とか使うから。
ここには馬もいないのだから、どこかに行くのにも向いてない。ほんとにどこにも逃げるなよという固い意志がある。
運べない以上、かわいそうだが廃棄するしかない。肥料にでもすればいいかな。
「ありがとう。もう十分だから、ゆっくり育ってね」
礼を述べて、労うことが役に立つかはわからないが……。
それにしても、この土地、なんかあるのだろうか。幽霊の加護でも? 首を傾げるが答えはなかった。
そして、次は、やけに花が咲くようになったのである。綺麗ねとは言った。祭壇を飾るから少し切るねとも断った。切った翌日にはもう生えてた。
絶対おかしい。
でもなにが原因なのかはさっぱりわからなかった。
もしや、祭壇だろうか? 祭壇を作ってから始まったような気がするし。時間を見つけてはお祈りしていた効果が!
推しが神になったかもしれない。
そうすると私が司祭!?
「いいかもしれない……」
墓守改めて、司祭。どうせ、誰も来ないし、勝手に名乗っても良いはずだ。
……では、司祭として、ちょっと呪いを贈っておこう。
受け取れ! 推しの恨み!
……なんてね。効果もあるわけもない。大体、恨みも呪いもできるならもっと早くからできたはずだ。物心ついた頃からの恨みつらみである。
その死に関わったものは、きちんと国を運営する義務がある。奪ったのだから、ちゃんとしてほしい。
あの人が願ったのは国のことばかりなのだから。
さて、ここにきて3か月。役人が去って2か月の現状と言えば、相変わらず、放置である。人っ子一人見かけもしない。野生動物もいるのか? というほどだ。……まあ、虫はいる。こっちのほうがいなくてもいいんだけど。
今のところ食料は困っていなかったりした。そもそも、元の家でも肉がちゃんと出てくる日はなく、お祭りの日など特別な時に振る舞われる程度だからそこまで辛くもなかった。ステーキなんてこの世界でみたことないし。
ただ、植えた覚えのない植物がめっちゃ生えて困惑している。
昔、畑だったっていうから、その頃の種がやる気出したのかな……?
食料以外で言えば、石鹸が少なくなってきたとか、塩の増量求むだったりする。腹をくくって山に岩塩を探しに行かねばならないと思っていた頃、早朝にどーんと扉が開けられた。
「いきてるか!」
誰!? とビビって起きたが、部屋が暗すぎてよくわからない。
「い、生きてますよ?」
「よかった」
声で役人であるというのがわかった。
よかった、じゃない。何だこの強襲。灯りを掲げられてその眩しさに目を細める。
「中央で異常が……」
灯りがちょっと遮られた。
「その、わざとじゃない。着替えをしたら、教えてくれ」
そそくさと家を出ていった。
「え? なに?」
全くわからない。
それにしても鍵じゃないけど簡単にあかないように扉にお手製ドアストッパー噛ませていたはずなんだけど……。馬鹿力というか。どこ消えたんかな。
着替え、着替えね……。
あ、この世界的にはしたない格好で寝てたわ。誰か来る予想もつかない時間だし、仕方ないだろう。お互いもらい事故ということで。
ひとまず着替えることにした。




