招かざる客
狭い家に男性が四人。ぎゅっと詰まっている。狭い家がより狭く……。
二つある椅子は白い人と役人が座り、ベッドには私が、残り二人は立っている。
圧力、あるなと思っていたらこそこそと二人が相談しているようだった。
ヘクター氏のほうが床に座った。それにびっくりした。
この世界、椅子文化が主であまり床に座ったりしない。野外は別だけど、それでもなんか手ごろな石とか探したりするし。
うち、外と同じ扱いされたんだろうか。まあ、粗末だけど。
ひとまず位置が定まったのでお茶を用意することにした。役人がいらないというが、外は寒かったでしょうからと押し通した。
初見の人がいるので麦茶のほうをだした。じろりと役人に見られたのは、炒り豆茶じゃないからだろう。
「ありがとうございます」
そう言って白い人はお茶を飲んでいた。どうやってるのか白い布を超えている。いやいや、さすがにそれはおかしい。じーっと見るとその白いものが布ではないことに気がついた。
うすい靄のようなもので幾重にもまとっている。
なんだろ、あれ。
見通せそうで見通せない。顔も輪郭までしか……。
「なにか?」
じーっと見ていたせいか聞かれてしまった。口元が三日月のように笑ったのがわかる。
「いえ、不思議な方だなと思いまして」
「よく言われます。
私はとりわけ加護が強いんだそうですよ」
自慢げに言われた。そうですかとひとまず返しておく。
「村の井戸の浄化はできそうですか」
役人が慌てたように話を振っていた。つまり、私は黙っていろということか。大人しくしてますよ、大人しくね!
「一つはなんとかなりそうですが、ほかは難しいでしょうね。ここの井戸は問題ないのですか?」
「はい。なにも変わったことはありません」
「ふむ。以前の行いが戻ってきたようなものでしょう。
放棄させ、他の地に移住させるべきでしょうね。進言しておきます」
「御心のままに」
役人が無表情で返答していた。ちらりと見るとデルタ氏が明らかに嫌そうな顔をしていた。ヘクター氏は涼しい表情のまま。ただ、握った拳に力が入っていそうだから、遺憾の意と言った風。
移住など簡単にできるものではないからだろう。ここでは土地を離れることはほとんどない。旅に出ることもなく、ここで生まれ、死んでいくのが普通だ。
街という人が流動しそうな場所ですらほとんどが街をでることもない。さらに流れ込んできた者はいつまでもよそ者扱いだ。
それくらいなら居続けることを選ぶ方が多いだろう。
この白い人はそんなことを想像もしないくらいの浮世離れしている方らしい。
「お嬢さんは安心してここにいてください。
あなたの存在が皆の安寧になります。どうか、祈りを」
雰囲気だけで言えば、胡散臭い笑みを浮かべていそうだ。私は答えず微笑んだ。言われんでもやるし、どこ行ってもやるし!
誰よりも真剣に祈ってるのは私だよっ! あ、異界にいるはずの同志を除けば、だ。救われる別ルートの共同幻想に余念がなかった。
救われはしなかったけど、救いたかった気持ちがあそこにある。
こっちは背負ってるもんがあるのよ。勝手に背負ったけど!
私の迫力の笑みに白い人がたじろいだ気配を感じる。
「……まあ、しばらくは逗留する予定だ。居たくはないないが、村の様子があれでは襲われかねない」
役人が渋々と言った態度で宣告した。
……嫌だという話をする余地もなさそうである。しかし、嫌だという気配は感じたのか説得されることになった。
嫌とはいってないじゃないか。
村の殺気立った様子をヘクター氏がのんびり告げ、危機管理がないと役人に嘆かれ、デルタ氏には心配なんだとド直球に言われる。
……なにか、乙女ゲーだったか? ここ、という気分になってきた。
しかしながら背景にあるのは、中央に蔓延している病を止めるためであり、その一助となるであろう私の保護である。
上層部が軒並み倒れていて、国としてもぎりっぎりのぎりぎりを超えそうな勢いらしいし……。
それこそざまぁみろではあるのだが。
言うと死にそうなので、大丈夫なのにという天然さを装って受け入れることにした。
「ところで、これはなんです?」
暇していたような白い人が壁の紙を指さしていた。それは今やなんか愛着の湧いてきた私のひどい絵だ。
くっ、人が来るとわかっていたら外したものをっ!
役人が魔除けみたいなと適当なことを言っていた。私に振らないというからには何か察するところがあるのだろう。
「そういえば、なんでこんな大人数なんです?」
私一人を確認するなら人数は絞ったほうがいいだろう。もし、私が死んでいて他の誰かを探すにしても身軽なほうがいい。それは墓守をしばらく一人で探していた役人を見ててもわかるし。
「ちょっと野暮用」
役人にがっつり濁された。お前に言えないとわかったぶん、楽は楽だ。そーですかーと軽く流すのがわかっていたせいだろうか。
ひとまずは外に野営するというから家の外に出ることにした。
外はもう明るい。
「……おい」
「なんでしょ?」
「なんだ、この畑はっ!」
畑である。
朝日に照らされるなんかものすっごい育った畑。変だよなと思っていたけど、やっぱり変だったらしい。
「うわ、この季節に秋瓜か……。これは、冬芋」
なんかヘクター氏が詳しかった。私を呼ぶとこれは秋のもので、これは春先に旬などと教えてくれた。目が、全く、笑ってない。怖すぎる。
なおデルタ氏は私と一緒に横でふんふん聞いていて、育てるのが上手だな、と褒められた。たぶん、なんか、違う。
白い人が衝撃を受けたように固まっていて、まさか、そんなと呟いている。
役人はどうすんだよと頭を抱えている。
視界に白いものがよぎっていく。
うん? と視線で追うとその白いものは空をくるくると回っていた。
「どうした?」
「え、なんでもないです。
なんか、白いものがよぎったようで」
その白いものは白い人の上をくるりと一周した。白い同士だけど色味が違うなとぼんやり見ていると空気に柄が滲んできた。
いや、あれは文字だな。
「沈黙せよ、沈黙せよ、見つからぬように」
そうそう、そんな感じ。
……ってなんで私の口が勝手にしゃべった!? 視界をずっとしろいものがよぎる。今まで全く出てこなかったのにどうして今?
そう思っていたら目の前に別の文字が出てきた。
「地より離れる者はなく、地に知られぬ者もない」
だから、なんで! 妙なものに支配されていることに焦っても私の意思では少しも動けない。
意識だけ残された。見ていろよとでも言わんばかりに。
「地の主たるわが目を欺くことはできず」
その声を合図にしたように白いものが矢のように飛ぶ。
そして、白い人にぶち当たったと思えば白い光がぱーっと散っていった。まぶしっ! と目を閉じることができて、自由が戻ってきたことを知る。
その光った場所に視線を向けると白い人がいなくなっていた。
いや、その白い布が消え失せていた。
壮年の男性がそこにいた。どこかで見たようなと記憶をたどる。それは忌まわしくて、覚えていたくなくて、でも、覚えていた。
「……ああ、そうなんだ」
おまえ、まだ、生きてたんだ。かつての王の側近で、幼馴染で、親友で。なにもかも間に合わなかった男。
そう確かに生きていてるはずだ。隠しイベントで新作主人公に対応していたもの。すっかり忘れていた。
知らずに口元に笑みをうかべた。
死にぞこないが、いっぱいいる。
「セリエ。どうした」
「え?」
突然呼ばれた名に驚く。役人が嫌そうな顔をしていた。
……あれ? 今、名前呼ばれた?
今まで一度も名を聞かず、知れたはずなのに呼ばなかったやつが。
「名前知ってたんですか。それは驚きです」
「あのな……。
言い忘れたが、追加で三人来る」
「はい?」
「聖者がどうしてもお外みたいってごねにごねて」
うんざりしたような声はヘクターの方だった。
聖者とは司祭の上位クラスだ。
「嫌ですよ。うちは人を養う余裕がありません。お帰りください」
「といってももう来る」
平坦な土地というのは遠くからでも人影が良く見える。それが大きな馬車ならなおさら。
「……ほんと、滞在費置いてってくださいね」
権力とかそういうの、ほんとやだ。私のような取りえもない一般人は何もできない。うっかり、激情に任せて色々やってしまおうものなら何もかも失う。命さえ一瞬だ。
「そういえば、さっきの歌はなんだい?」
デルタ氏がそう尋ねてきた。うた? というのは思い出せないが、あの言わされた言葉のことだろうか。
きれいだったなとヘクター氏も同意する。
「良く育ちますようにというおまじないです」
大嘘をついておいた。私だってあれがなにか全くわからない。あの白いものがうろついているっていうことも全く何も。
次話より一日一更新となります。
だいたい朝を予定してます。よろしくお願いします。




