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あなたを見送るための  作者: あかね


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12/19

幕間 4

「外は久しぶりなんですよ!」


 そう嬉しそうに話す当代の聖者様はまだ10歳。馬車の中だと運動不足と急ぎの旅なのに彼の歩調で時々歩かされる。

 確かに馬車に詰め込んで調子が悪くなられても困るので誰も止められていない。のんびりと歩くように見えて結構早いのも止めにくい理由だろう。


 いつもは大人しいが、時々頑固と世話役も諦めている。今はこれ以外は大人しいが、お外に行きたいと駄々をこね、神託をくだされたのは僕だとわめきちらしたという。

 歳の割に落ち着いていて大人という評のある人物と聞いていたのだがと面食らった。

 なお、教会も泡を食ったようでここまでのことは今までなかったのに! ということらしかった。そういった話を仕入れてくるのはデルタのほうだ。ヘクターのほうが物腰柔らかいが、逆に警戒されるそうだ。僕はそもそも雑談をするような仲になりようもない。


「それは良かったですね」


 何度繰り返したかわからない返答を返す。どこを気に入ったか知らないが、聖者様の話し相手を指名された。

 あなたからは清浄な匂いがします。と変な宣言をされ、その後は教会の関係者からは一目置かれているようだった。一人を除いて。

 今も鋭い視線が背後から突き刺さるようだった。


 良くはないと知りながらもそっと後ろを見ると想像の通りの相手だった。


「また見てます?」


「はい」


「すみません。言っても聞かなくって」


 僕は苦笑いで返答は避けた。

 視線の主はローデル卿という教会騎士という教会直属の騎士だ。騎士というのも、この十数年で意味合いが複数できたがローデル卿は先々代の王に任命された騎士だ。そのため、現在も騎士を名乗っても黙認されている。


 先代の王の幼馴染であり、親友であったことは黙殺されて。


「ランツを困らせてはいけませんよ」


 頃合いを見計らって穏やかに話をしてくるが、決まって聖者は僕の後ろに隠れる。ぎゅっと服を握り、どかねぇぞという強い意志があった。


「大丈夫です。ですが、そろそろ、馬車に戻りましょう」


「ランツも一緒」


「承知しました」


 子どもに好かれたこともあまりないのだが、仕方ない。これも仕事だ。

 ローデル卿がいなくなるとほっとしたようだった。


「なんで嫌なんです?」


 ふと尋ねたくなった。余計なことをと思うが、聖者が頑なに拒否するのはローデル卿だけだ。


「隠してもわかります。

 あの人は血と呪いがまとわりついています」


 聖者は硬い表情でそう告げた。

 なにかと悪い噂のある人ではある。

 噂によると王の首を落としたのは異国からやってきた英雄ではなく、ローデル卿であるらしい。どうして自分が英雄として凱旋しなかったのかは謎ではある。


「……そのうちわかります。

 僕は、あなたのような人が残っていてくれて良かったと本当に思っています」


「は、はあ……」


「本当の本当ですよ!」


 なにを言われているのかわからなかったが、それを指摘できるような立場になくごまかすしかなかった。

 聖者は緑の目でじっと見つめたあと笑った。


 なんだか、よく知っている目に似てる。あの青い目もそうやって見透かすようにした。何もかも飲み込んで、笑う。

 大丈夫、ではない。

 諦めたように、だ。


「それにしても、馬車ばかりでは体が痛くなりますね……。

 馬に乗せて貰えればもっと良いと思うのですが」


「慣れるまで尻と太ももの内側がやられます。大人しく馬車で我慢してください」


「長旅はつらいですね……」


 ぼやいて聖者は馬車に入っていった。


 それから数日後に目的地から一番近い村にたどり着いた。

 このあたりでは大きい村だった。ひとまずここで休憩をして明日にも尋ねる予定である。馬車でいくとそこそこ時間がかかる。もう日暮れが近く、あの場所は野営に向かない。

 迂闊に近寄って白いものも見たくはなかった。


「なにか騒がしいな」


 それに気がついたのはヘクターだった。聖者たちにここで待つように伝え、騒ぎになっている場所へ向かう。そこは村人が集まっていた。

 なにかの集まりではなく、明らかに殺気立っていた。


「どうかしたのかい?」


 威圧という意味で適性があるデルタが先に声をかける。そこで彼らは僕たちに気がついたようだった。よそ者には関係ないと返されるのも想定内だ。


「中央から視察に来た。

 村長を出してくれ」


 僕の声にああ、あいつ、見たことある等声があがった。数日、村長の家に逗留していたので見知っていなければ困るのだが。

 村長はすぐに出てきた。代替わりしてすぐのため、まだ若い。とはいっても僕よりも年上なのだが。


 村長が言うには、井戸が腐った。これは荒れ地の魔女のせいに違いない。だから追い出すために今から行く。とやや訛りのきつい言葉で語られた。


「魔女がいるとは聞いていない」


「あんたが連れてきた小娘は魔女だろ。

 あんなところに一人で住むなんてありえねぇ」


 村人たちは口々に奇妙なことを告げていく。荒れ地を覆うほどの草が生えてきた、そこだけ雨が降る、いや、長雨でもそこだけは降らない、山の獣もそこは避けていく等々。

 魔法が関与しそうななにかがなかった。


「まず、天候を左右できるような魔法はない。

 草も普通に生えるだろ」


「白い化物を使っているのも見た。あいつがこの村にやってきてうろついていたんだ」


「幽霊か? 呪われでもしたものがいるのか?」


 それに皆が黙った。

 以前滞在したときには普通の村に見えたが、なにか後ろめたいことがあるようだ。


「なにも」


「それならば、散れ」


 不承不承、皆が散っていった。それでも村を出ていくようなものは今のところいない。


「見張ったほうがいいぞ」


「同意する」


「今のうちに出立したほうがいい」


 デルタが心配そうにそういう。やはり、気になるらしい。ちっちゃいだろ、それにちっちゃいだろと子どもというより赤子かくらいの認識なのではないだろうか。あるいは、子猫か子犬。

 ヘクターは首を横に振っている。僕もそれには同意する。


「行動させてからのほうが咎めやすい」


「……嬢ちゃんが可哀想だ」


 そういいながらも否はないだろう。一度は止めたという事実が大事だ。自分たちだけではなく、他のものもいるならもみ消すことも難しい。


 そうして、その夜にこっそりと出かけようとした村人を発見し、説得を聖者一行に任せ僕は村を出た。聖者が見咎めて、嫌そうな顔をしたのがわかった。なぜだか貸しですからねという声が聞こえた気がしないでもない。

 あれも一種の魔法なのかもしれない。


 通り慣れた道を明るい月が照らす。灯りを頼りにするならばこうもうまくいくこともなかっただろう。

 順調すぎるほどに順調にたどり着いた家は記憶にあるとおりだった。それにひどくほっとする。しかし、自分の後ろから白いものがすーっと通り過ぎて行くのが見える。

 白いものが家に入っていったのが見えた。


 なにか考えるよりも先に体が動いた。


「生きてるか!」


「はへ?」


 間抜けとしかいいようもない声が奥から聞こえる。部屋のどこにも白いものはいなかった。

 ほっとして灯りを声の聞こえた方に向ける。眩しそうに目を眇めたのが見えた。そして、ほっそりとした首と大きく開いた胸元も。明らかにサイズの合わないシャツを着ていて、動くと色々見えてしまいそうなくらいなのに全く気にした風でもない。

 痩せこけた体とはもう違う女性のと気がついて、慌てて家を出た。

 言い訳がましいことを山ほど言ったように思えたが、なにか言ってない可能性もある。もともと女性と縁遠いのだから、適当に濁せる気もしない。


「子どもでもしないぞ。あんな格好」


 シャツ一枚で寝るなんて。

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