ばけもの
着替えて外に出るとかなり離れたところに灯りが見えた。もう大丈夫ですよーと大きめに言えば近づいてくるのがわかる。
今日は馬車ではなく、馬しかいなかった。荷物など放棄して時間優先でなければない選択だろう。
そこまでする理由が全くわからなかった。
「あの、なんなんですか?」
「中央で異常があって、なにかあったのではないかと調べに来た」
ぶっきらぼうに言われたが、失態が恥ずかしくてというところだろう。
「変わらず、元気そうで良かった」
「村から人が来ないので、全然、良くないですよ」
そう言いながらひとまずは家に入れることにした。外はまだ暗い。
いつものように炒り豆茶を出すと渋い顔でそれを飲んだ。
「ああ、そう言えば言い忘れていました」
「なんだい?」
「おはようございます」
言われると役人は虚をつかれたように、私を見て、やはり気まずそうにおはようと返してきた。
これでなにか朝食を食べても許されるだろう。台所には火種は残しておいている。そこに大体芋類をつっこんでいた。朝から頑張ってなんか作る気力もない。そこに切った野菜を添えるのでもう十分すぎる。
「それだけで足りるのか?」
「ええ。十分です」
私の皿に向ける疑い深そうな視線はなんなのだろう。そこで気がついた。お腹空いてるのかも。
「食べます?」
「人のものを奪うほど飢えてはいない」
きっぱりと断られたので安心して食べることにした。
黙っていると判断されたのか、ここに来た事情を役人は語り始めた。
なんでも、王都の病がぶり返したのだそうだ。それも驚異的な勢いで。まさしく何が起こった!? と調査されたが、他者との接触に寄る感染でも飲食物でもなく、薬さえも効かなかった。以前は効いたものも効果はなくなったので、また、呪いや祟りなどいう話も出ていたらしい。
そこで、墓守を置いてから落ち着いていたことを思い出され、もしや、私のところで? と気が付き、王都から強行軍してついたのが今だそうだ。
「おつかれさまです?」
「本当にな」
頭が痛いと言いたげだ。
なにかあったのではないかと思っていた私はのほほんと寝ていたのだ。
「鎮魂は滞りなく、常に隙あらばしておりますのでご安心ください。
……まあ、食料事情が悪いので、いいもん食ってるやつ呪われろとは思いました」
「……本当に、誰も来なかったのか?」
「3週目から来ませんでした。1ヶ月とちょっと補給無しで頑張った私、偉い」
「近くの村の井戸が腐った」
唐突な話にちょっと面食らった。村人が来なかった理由を説明してくれたんだと思うけど。
それならまあ、仕方ない。井戸が無くなると生存条件が変わる。遠くの川まで水を汲みに行く作業が発生すると本当大変、らしい。母の幼少期の辛い思い出として幾度となく語られるくらいだ。まあ、だから、お近くの井戸まで汲みに行くのは辛くないはずと子どもを丸め込んだりしてたけど。
幸い、私、それは免除されていた。お前の指、稼ぐのに大変大事と思われたのはありがたい話である。
「3つあったんだが、もう2つはだめになり、最後の1つがもう濁ってきている」
「そこそこ大きい村だったんですね。
なにか、近くで変なもの掘り当てたり、地震があったりしたんですか?」
「心当たりはないか?」
「物理的距離考えてください。この足で行けると思います? それも見つからずなんて無理ですよ」
前よりはふっくらとしてきた足だが、棒のようという範囲は超えない。
それなのに役人の表情は真剣そのものだった。
「墓守が来てから、白いものを見かけるようになった。山の動物たちもこちら側をうろつき始めた。
あいつがやったに違いないと襲撃する予定を立てていた」
「……うへぇ」
「あんな小娘が、あんな場所で普通に暮らすなんて、化物に違いない」
「ひどい言いがかりですね」
「僕もそう思うが……」
そう言ってからなぜかジロジロと見られた。もう明らかに凝視。
「育ってないか?」
「へ? 成長期なんてとっくに終わってますよ?」
ひとまず立たされた。そして役人が目の前に、なんかくっつきそうなくらい近くに!
「ちょ、な」
「まえは、肩より下に頭のてっぺんがあった」
……。
今、肩越しに向こう側が見えた。
「お、おおっ! 謎の急成長!」
「普通、わからないか? 服が小さくなるとか」
「最初の服がブカブカだったので、ちょうどよくなったな、肉ついてよかったな、で終わりました」
「そ、それはすまなかったが、気がつけ」
「それはちょっと……。
ということはなんですか? 毎週会う事にデカくなる娘にびびった結果の化物呼ばわり」
「可能性はある。
あいつらも驚くだろうし……。この地になんかあるのか?」
「なんでしょーねー」
そう言って顔を見合わせる。なんか、近い。
「まつげ長いですね」
甘い感じのイケメンではあるんだよな。情けない顔が似合いそう。既視感あるな。ゲーム内のネームド、なわけないか。登場していたとしてあれから十数年たっているわけだし、こんなに若いはずもない。
「こ、」
どんどんっ!と壊さんばかりに扉を叩く音がした。
「やめてーっ、こわれるぅっ!」
慌てて私は戸を開けることにした。いざってときは役人を盾にする!
そこにいたのは、いつぞや畑を作ってくれたお二人となんか白い物体だった。
「おお、無事だったか。良かった、お嬢ちゃんはちっちゃいから心配だったんだ」
デルタ氏、大柄のため、私が大きくなっていることを認知せず。ヘクター氏は怪訝そうではあるが、なにも言わない。
「そっちは大丈夫だったか?」
私の後ろから役人がそう声をかけた。
「おう、解決してきたぞ」
「化物など信仰をもってすれば退けられますからね」
白いなんかがそう喋った。シーツを被るとあんな感じかなっていう。そのわりに明瞭に声は聞こえた。
宗教関係者だろうか。この世界でも宗教とは無縁だったからよくわからない。ゲーム的に言うと司祭とシスターはいた。どちらも回復ユニット。だいたい、足が遅い。
「村人たちは純朴なのでね」
なんか頭上を嫌味が通り過ぎてったな? まあ、いいや。そっちの争いは関与したくない。
「狭いですが、どうぞ、家の中へ」
ひとまずは、私を心配してくれたらしいので家に招くことにした。




