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Episode.8 ウィリアム視点

 次の日、いつものように仕事をしていると、辺境伯からの手紙が届けられた。

 大方、昨日の手紙の続報だろう。

 早速封を開けて手紙を開く。


 “貧民街へ騎士を紛れ込ませていたところ、浮浪者が現れ捕まえることに成功しました。

 尋問し、分かったことをまとめます。

 浮浪者は隣国の民であり、闇市で雇われている末端の商人。組織の名前はおろか、所在地を知らない模様。

 隣国の貧民街に住んでおり、こちらの国の貧民街でアヘンを売り捌き、相応の報酬を貰っていたのだそう。

 隣国ではアヘンの他にも、危険な接種物が貧民街の中で流行しており、総称を麻薬と呼んでおりました。

 アヘンの原材料は、ケシの実という香辛料にも使われている実だとか。それ以上の事は知らないと申しておりました。”


 ……これはかなり厄介な事になってしまった。

 隣国での鍛治職人の優遇。そして、麻薬という物の流通。そこから導き出されるのは、戦争だ。

 隣国は戦争を起こそうとしているのでは無いか…考えすぎだろうか。

 いざと言う時に備えておいて憂いは無いが……裏社会の連中が、勝手に流している場合のことも考えられる。

 隣国では、平民の間でそのような物が流行っている。と、聞いたことがない。

 意図的に、我が国へ流しているのか……


 この考えが杞憂であれば良いが…

 辺境伯からの手紙は届けられるのに一ヶ月ほどかかる。

 昨日の報告書は一ヶ月前の出来事だとして、今日の報告書は早馬で届けられたもの。

 一人の人間が休息を取りつつ、馬を走らせ1週間と言った所だ。

 1ヶ月のタイムラグは大きい。

 これは直接辺境伯の元へ赴き、共に解決させた方が早い。


 僕は早速、部下達を召集させ、表向きに地方視察へ向かう旨を伝えた。


「僕が行くか、君たちの誰かが行くかは追追伝える。出張の準備をしておくように。」


 そう伝え、僕は再び椅子へ座る。目頭を揉みながら、盛大にため息を吐いた。

 エリーの事があるのに、隣国の事ともなるとは…早めに仕事をこなさなければならないな。




 それから2日後、珍しく今日は仕事が無いので、執務室から意味もなく空を眺めていた。


「今日はいい天気だね。青い空に、雲ひとつ無い晴天。それに、仕事もない。」


「ん?あぁ。そうだな。仕事も無いし、リズの事誘ってデートでもしようか……まさか。」


 僕の意図が伝わった様だ。テーブルの上に置かれた早急では無い報告書に目を通しながら、エディは適当に答える。

 そして少し恐れた顔で僕の事を見る。

 それに対して、僕は否定も肯定もせず、笑顔で返すのだ。


「僕もついて行こうかな。」


 そうと決まれば、直ぐに出発だ。僕たちは馬車に乗り、エリーの屋敷へ向かう。

 屋敷へ着くと、あえて僕は覇者の中で待機して、エディに迎えに行かせる。

 渋々承諾して、馬車に乗り込んだ時のエリーの表情。

 何故僕がいるのか。とでも言いたげに、口元が引き攣っていた。



 それから僕たちは城下の噴水広場へ向かい、朝市を見て回った。

 その中でも、エリーはとある店に興味が惹かれたらしく、その店の前で止まった。

 エディは不思議そうにエリーを見つめている。


「それ、ケシの実よね?」


 店主と会話をしていたエリー。ケシの実を指摘するエリー。これが今問題の渦中にあるケシの実。

 本物は初めて見たが、このような小さな物から、本当に麻薬なんて出来るのだろうか?

 見れば見るほど、この様なものから…信じ難い。

 どうして、エリーはケシの実を知っているのだろうか。



 私の考えが晴れないまま、昼食を摂ることになった。

 エディも先程から、僕がどこか上の空だったことに気付いていたのだろう。エリーにケシの実の事を聞いていた。


「あぁ。ケシってね、」


 エリーはケシの実に知っている事を淡々と話している。

 危険な成分が取れることは最近分かったことなのに。エリーはどこで知ったのだろう。

 ……父親から?エリーの父親は外交官をしており、特に隣国を任されている。

 侯爵からは、隣国が怪しい動きをしていると言う報告は受けていないが、一応警戒しておこう。


 それにしても、あの老婆はどこでケシの実を採取しているのだろうか。

 老人だからそう遠くへは行けないはず。

 この国で、しかも皇都で採取できるのだろうか。

 そうとなればとても厄介だ。


 これはますます、地方視察を急いだ方がいいだろう。



 昼食の後、僕達は再び街を散策していた。

 噴水広場は朝市と雰囲気が変わり、食べ物の屋台が並んでいた。

 食べ歩きのできる菓子の店から、果物や野菜など、平民向けの食材屋等がある。

 その中でも、エリーはある店を見て目を輝かせた。


「ねぇ!クレープ屋さんですって。」


 エリーは子供のように指をさしはしゃいでいる。

 普段城では見せない素のような行動に、眩しいその笑顔に僕は目を細める。

 昔に戻ったかのようだ。

 いつの間にかエリーは淑女教育で、感情を表に出さないようになったが、最近はエディと付き合い、影響されたのか、緩んできている。

 そんなエリーの素を引き出したのが、僕ではなくエディだなんて。

 やはり腹立たしい。地方視察へ連れて行くべきか?


 僕達はクレープを買い、近くのベンチへ座った。

 マッチャアズキと言う味のクレープ。お茶の味だと書いていたが、以外にもいつも飲んでいる茶葉とはまた違う味だ。

 少し苦くて、でもその苦さをアズキという、豆を少し磨り潰した甘いペーストが緩和させている。

 とても美味しい。


 クレープを楽しんでいると、突然エディがエリーにクレープを分け与えた。

 当然エリーははしたないと言って断ると思っていたが、なんの躊躇もなく齧り付いた。

 エリーは、そんな事もしてしまうのか。僕には何もしないのに……

 再び腹の中に黒くドロドロしたものが溜まって行く。

 そんな僕はお構い無しに、エリーは恥ずかしそうにこちらへ顔を向ける。

 本当に君はずるいよ。

 僕の差し出したクレープを齧り付くエリーを見て、永久に閉じ込める方法を考えていた。

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