表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/26

Episode.7 ウィリアム視点

 それから1週間が経ち、今日はエリーとのお茶会の日だ。


「今日、お茶会の日だね。」


「ん?あぁ。そうだな。」


「エリーを迎えに行かないの?恋人なのに。」


 少し圧をかけてみる。

 エリーと付き合ったのは冗談だったと言って欲しい。ドッキリだと。

 確かに、仕事を優先して蔑ろにしてしまっていた自覚はある。

 そのせいで、寂しい思いをさせてしまっていたのかもしれない。


「確かに。恋人なら迎えに行くのが普通か。」


 エディはそう言うと、んじゃ迎えに行ってくる。と早速行ってしまった。

 しまった、余計な事を言うべきではなかった。

 こんな風に迎えに行くのが習慣化してしまえば、彼女達の仲はさらに深まってしまう。

 後悔先に立たず。僕は茶会の用意を命じ、それに間に合うように仕事をこなした。


「失礼します。辺境伯からの定期報告が届きました。」


「ご苦労。」


 エディと入れ替わり、もう1人の側近が分厚い封筒を持って来た。

 僕の仕事は主に国境側の領地の総括。僕の仕事が忙しくなってしまったのも、辺境伯から届いた報告書のせいだった。


 ペーパーナイフで封筒を開け、早速中身を確認する。

 最初の報告書から変わりなく、隣国の動きが怪しいという旨の手紙だ。


 武器の調達を始めるために、鍛治職人をたくさん集めていること。我が国からも数十名の職人が移住した事が記載されていた。

 その中でも、特に気になる報告が。



 “最近、地方の貧民街にて怪しい吸い物が流行っております。使用していた貧民を捕まえ、入手経路を尋ねたところ、素性の分からない浮浪者が週に1度やって来て、興味を持った者たちへ配り歩いていたそうです。

 それを吸うと、痛みや悩みが消えて陶酔感や性的快感に浸れるとの事。

 それでも回数が多くなればなるほど、効き目が弱くなったと感じ大量に吸いたくなるそうです。

 完全なる中毒となっておりました。

 浮浪者はその吸引物を「アヘン」と。

 こちらでも調べ、またご報告させていただきます。ですが、場合によっては皇太子様に足を運んでいただく必要があるかと。”



 アヘン…聞いた事の無いものだ。そのような危険な物が出回っているとは、王都の方、特に貴族にまで回らないように注意しなければ。

 そんなことを考えながら、時計を見る。時刻は茶会の始まる5分前。


 丁度キリのいいところまで終われたので、僕は用意された席へ向かう。

 椅子に座るなり、目の前のティーカップに侍女が紅茶を注いでくれる。

 僕はそれを手に持ち、ありがとう。と軽く微笑めば、侍女は顔を赤くして頭を下げる。


 今まで僕を見て顔を赤く染めなかった女性はいなかった。エリー以外は。

 自分で言うのも何だが、僕の顔、スタイル、振る舞い、どこを切り取っても完璧な皇子だと思う。

 だって、小さい頃からエリーはそんな人が好きだと言っていたから。

 なのに、どうして、粗雑なエディなのだろうか。

 僕とは真反対だ。僕の今までの努力は……


 そんな事を考えていると、遠くから彼女達が歩いてくる姿が見えた。

 腕を組み、楽しそうに笑い合う姿は誰が見ても想い合う二人だ。

 腹の奥からふつふつと燃え上がる怒りを抑え、紅茶を一口頂く。

 彼女達は立ち止まり、僕を視界へ捉える。

 エリーは僕と目が合った瞬間、腕を離し少し後ろめたそうに目を泳がす。

 そんな姿もとても可愛い。でも、可愛い以上に憎い。

 僕以外の男にエスコートなんかされて。

 僕以外の男の腕に腕を絡めて。

 エリーは、僕がどれ程君を愛しているのか知らないから、そんな酷いことが出来るのだね。


「帝国の太陽、ウィリアム皇太子様へご挨拶申し上げます。」


 そう言って軽くカーテシーをする彼女。

 約1ヶ月ぶりに聞く声。可愛い。ずっと僕の隣にいて、小鳥のように(さえず)っていて欲しい。

 誰にも聞かせず、ずっと僕だけの為に話していて欲しい。

 そんな事は、一生叶わないのだろう。


 エディはと言うと、席に着くなり菓子を平らげ、やりたいがままに振る舞う。

 そんな性格が、立場が、少し羨ましく感じた。



「ねぇ、どうして2人は腕を組んでいたの?」


 エディの事だから、僕へ報告していることはエリーに黙っているのだろう。

 それは仕事上当然のことだが、何も知らない体を装って聞いてみる。


「あぁ。俺ら付き合うことにしたんだ。な?リズ。」


 リズ……初めて聞く愛称に、紅茶を飲む手が一瞬止まる。

 彼女の方を盗み見ると、突然の振りに紅茶を噎せかけていた。

 そんな少しそそっかしい姿も、とても可愛らしい。


「えぇ。なのでウィル様、婚約破棄をして頂きたく……」


 最後まで言わせるものか。絶対にそんなことは許さない。

 僕は焦りに身を任せ、エリーの話を遮ってしまった。


「付き合ったのは分かったよ。どういう経緯でそうなったの?」


 身を任せすぎただろうか。レディーの話を遮る事は、侮辱にも当たる行為だ。

 だが、ここは何としても話題を変え、押し通さなければ。

 焦りを隠すために笑顔を作る。


「俺が口説き落としたんだ。お前が出れないお茶会の時に何度もな。実はずっと昔からリズの事が好きだったから。」


 へぇ。この前聞いた時は秘密だと言われたのに。

 エリーの前ではあっさりと答えるのか。

 エディの言葉に顔を赤くする彼女。その顔は僕がさせたかったのに。

 あぁ。本当に腹ただしい。僕のエリーを奪いやがって。

 そのリズと言う愛称も。どうして違う愛称で呼んでいるんだ。


「そうなんだ。で、どうしてエリーのことをリズと呼んでいるの?」


 ただ質問しただけなのに、黒くドロドロした感情が溢れてくる。

 こんな事になるのならば、本当に、早く捕まえて僕だけが知る場所へ閉じ込めて置くべきだった。


「どうしてって、エリーだとウィル達と被るだろ?恋人になったんだから、俺だけの愛称で呼びたくて。な?リズ。」


 そう言ってエリーの髪の毛にキスを落とす。

 あぁ。今すぐ髪の毛を洗ってやりたい。変な虫の成分がついてしまったではないか。

 こんな質問するのではなかった。あぁ、本当に。

 最近は後悔する事が多いな。


「そうなんだ。」


 怒りを悟られないように、出来るだけ、冷静に。

 そんな僕の気持ちを他所に、彼女は期待の籠った瞳を輝かせ、再び僕に言い放つ。


「では、婚約破棄という事で…」


「しないよ?」


 怒りから、再び言葉を遮ってしまった。

 あぁ、本当に今日の僕は子供じみている。

 エリーは残酷だ。理由なんて尋ねて。そんなの僕がずっと。ずっとずっっと、君を愛しているからに決まっているのに。

 こんな状況で、言えるわけが無い。

 本当に、エリーは残酷でいて、とても綺麗なのだから。愚かな存在だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ