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Episode.6 ウィリアム視点

 彼女との出会いは、高位貴族の子供達を招いたガーデンパーティーでの事だった。

 当時、5歳になった僕の誕生日を祝うために開かれたパーティー。

 令嬢達は僕の婚約者になろうと、子息達は将来の役職へ繋げる為に、こぞって話しかけに来ていた。

 そんな場に辟易していた僕は、タイミングを見計らってその場から抜け出した。



 会場から少し離れた所にある、母上の庭園。

 母上は下級貴族の出ではあるが、貴族らしからぬガーデニングと言う趣味があった為、小規模ながらに自ら庭園を作っていた。

 僕も物心ついた時から手伝っており、この庭園はお気に入りの場所だった。



 その中でも、一角に置かれている鳥のための水飲み場。そこが一番のお気に入り。

 色とりどりの綺麗な鳥たちがやって来ては、楽しそうに歌っている。僕はその光景を見るのが好きだった。


「そこで何をしてるの?」


 一人になりたかったのに、よりによって先客がいた。

 僕と同い年くらいの女の子。今日のパーティーに招待された令嬢の誰かだろう。

 挨拶をした令嬢達を思い出してみるが、僕の記憶には居ない。


「ごめんなさい。少し席を外したら迷ってしまって。綺麗な鳥を追いかけていると、ここへ。」


 そう言って振り向いた彼女。彼女を見た途端、衝撃が走った。

 今までに見た事がないほど美しい女の子。

 月の光を閉じ込めた金髪に、宝石のように輝くミントグリーンの瞳。

 血色の良い唇はふっくらしており、唇を重ねてみたい。と、5歳ながらに、マセた考えをしてしまったのを覚えている。


「君は…」


「あ、ご挨拶遅れました。ロレーヌ侯爵が父の、エリザベス・ロレーヌです。」


 拙く、会釈をする彼女。そんな彼女を人目見た瞬間、僕は恋に堕ちた。



「僕は…アースです。」


 偽名では無い。僕の本当の名は、ウィリアム・アース・デュヴァル。

 ミドルネームは家族にしか明かしては行けない仕来りなので、本来は名乗ってはならない。

 が、ウィリアムと名乗ってしまうと、彼女も他の令嬢同様、僕に媚びを売ってくるかもしれないと考え、会えて知られていない名前を名乗った。


「アース様。初めまして。」


 家名を名乗っていないのに、何も疑問に思わなかったのか。

 素直に受け入れて笑う彼女。


「ここで何を?」


「鳥を眺めておりました。私、綺麗な色をした鳥が好きなので。」


「そうなんだ。鳥を飼っているの?」


「いいえ。飼っておりませんわ。自由に羽ばたく姿を見るのが好きですから。」


「へぇ。」



 普通、鳥が好きなら、飼いたいと思うものだ。

 何処にも行かないように、何処かへ逃げないように、捕まえて鳥籠の中へ閉じ込めておくべきだ。

 僕なら、そうする。

 好きな物はずっと僕の傍において、一生放さない。

 決めた、彼女を僕の婚約者にする。


 彼女を傍において、死ぬまで、永遠に。

 だって好きだから。

 その後、彼女の侍女が迎えに来て、彼女は帰ってしまった。

 そして僕は、ガーデンパーティーが終わってすぐ、父上にエリザベス嬢と婚約したいと伝えた。





 それから数ヶ月後、婚約の話が纏まり、顔合わせをすることになった。

 久しぶりに会った彼女は、僕の事を覚えていなかったのか、初めましてと言った。

 初めてじゃないよ。と思いつつ、挨拶をして、軽く話をしてその日はお開きとなった。



 婚約してからは、週に二、三度遊び相手のエドモンドを含め3人で会うことが多くなった。

 彼は従兄弟という事もあるのか、僕に対して皇子と家臣。と言う線引きをせず接する。

 そして彼女にはあくまで、友達の婚約者と言ったような態度で接する。

 そんな所に好感を持っていた。





 大きくなってから、エリーはことある事に、僕に理想のタイプを語ってきた。

 読んだ小説のヒーローが良かっただとか、誠実な人が好きだとか。

 だから僕は、彼女の理想になるべく、自分の黒い部分を徹底的に隠した。

 それでも彼女は僕に興味が無いのか、理法を語った最後には、お互いに好きな人が出来たら婚約破棄をしよう。と付け加える。

 僕はエリーが好きなのに。他の人を好きになることなんてありえない。


 5歳の頃からずっと、エリーへの重くて、強い、執着に似たこの感情。

 いつかエリーが、僕の事を好きになってくれるその日まで、黒くてヘドロのように沈んで溜まっていくこの愛を溜め込んでおくのだ。そう、思っていたのに。




 婚約してから十数年が経った。

 成人して立太子してからと言うもの、国政の一部を任され、仕事が忙しくエリーとのお茶会に顔を出せない日が多くなっていった。

 本当は毎日でも一緒に居たいのに。

 いっその事、エリーを城に住まわせようか。いや、流石にそれはダメだ。

 会いたい気持ちを我慢して、茶会の時間まで仕事をこなす。

 茶会に参加できるかどうかは、その時次第なので事前に断ることができない。

 エリーもそれを理解してくれていて、エディが僕の代わりに参加しても、文句のひとつも言わなかった。


 今日も、参加できそうにないな。机の端にある、置時計に目をやる。

 時刻はお茶会が始まる10分前。僕はエディを呼び、代わりに茶会に参加するように伝える。

 いつも僕が参加出来なかった茶会で行われる会話は、全て報告してもらっているので、今日もそうするよう伝え、茶会へ行かせた。


 しばらくして、下の庭園にエリーが現れた。

 仕事中でも姿が見えるように、執務室の真下にいつも準備させている。


 エリーはお茶を飲んで、なにか会話をしている。

 そして突然立ち上がった次の瞬間、エディの手を握った。

 僕はその光景を見た途端、頭が真っ白になった。

 エリーの綺麗な白い手が、他の男に触れている。エリーの手に握られたその手を切り落としてやりたい。

 そんな黒い感情に支配された。

 僕は頭を振り、直ぐに切替える。

 そんな事をしてしまっては、エリーに嫌われてしまう。

 それだけは絶対に嫌だ。

 僕はエディが報告に来るまで、仕事が手につかなかった。


 それからエディが報告へ来た。

 エリーと付き合う事になったと。そして今日の会話は恥ずかしくて言えない。と。

 冗談も大概にしろ。ふざけるな。

 僕の愛するエリー。彼女を横取りするなんて。許せない。絶対に許せない。

 やはり、3人で遊ぶのではなかった。

 僕の代わりに茶会へ参加させるべきではなかった。

 仕事を放り出してでも、彼女と会うべきだった。

 今更、後悔しても遅い。


 そんな怒りを隠して、僕は彼に一言。良かったね。おめでとう。と告げた。

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