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Episode.5

「デュヴァル皇帝夫妻並びにウィリアム皇太子様のご入場です!」


 エディをシメていたちょうどその時、主催の皇帝陛下方の登場アナウンス。

 みな談笑を止め、大広間の中央にある大階段へ注目し、最上級の礼の姿勢をとる。

 階段を降り終わると、陛下は手を挙げて、端にいる音楽隊へ演奏を止めるよう合図する。


「面をあげよ。」


 陛下の言葉に一斉に顔を上げる。


「今夜は、社交シーズン最初の夜会である。みな楽しむが良い。」


 陛下はそれだけ告げると、玉座に腰掛けた。

 この国では社交シーズンに入ると、皇族主催の夜会が最初に行われる。

 その後は各貴族で夜会を行う。が、大体パーティーを催せるのはお金のある高位貴族だけ。

 下級貴族は招待されたパーティーへ行き、高位貴族とコネクションを繋ぐといった感じだ。


「リズ、挨拶へ行こうか。」


「そうね。」


 夜会では基本、主催者に挨拶は必須だ。が、それは爵位を持っている大人だけで、世継ぎの子供たちは婚約者あるいは目当ての相手とダンスを踊るのが一般的だ。

 しかし、エディは陛下の甥、私は皇太子の婚約者。

 挨拶をしなければ失礼に当たる。

 そもそも浮気している時点で、だいぶ不敬だが…ウィル様公認(?)のような感じなので大丈夫らしい。


 この国は基本恋愛結婚なのでむしろ、幼少の頃から婚約者がいるのは珍しいのだそう。


「帝国の太陽、皇帝陛下、皇后様にご挨拶致します。」


「久しいな。エドモンド、そしてエリザベス嬢。」


「ご無沙汰しております。」


 皇帝陛下の後ろに控えているウィル様。笑顔なのに目が笑っていない。


「今夜はウィルのエスコートではないのだな。」


「実は、エドモンド様とお付き合いさせていただくことになりまして、今ウィリアム皇太子様と婚約破棄のお話をさせていただいている最中なのです。」


 皇帝陛下と皇后様も恋愛結婚のため、その辺りは寛大なようで、エリザベス嬢が娘でなくなるのは悲しいが、エドモンドなら幸せにしてくれるだろう。と笑顔で祝福してくれた。


「私はまだ認めていませんよ。エリー。」


 冷たい声色でウィル様が呟く。

 そして私の隣へ来て、手を取ると、手の甲にキスを落とした。


「最初のダンスを踊る光栄を私にくださいますか婚約者様。」


 ……ズルい。自分の(武器)を最大限に利用して、ダンスを誘うウィル様。そんな顔をされてしまっては、頷く以外無い。

 助けてとエディに視線を送る。


「俺は少し陛下と話す事があるから。踊って来いよ。」


「なっ!……よ、喜んで。」


 くそう。裏切られた。

 面白いものを見るかのような笑顔でひらひらと手を振るエディ。

 私はウィル様に手を引かれながら、エディを睨みつけてダンスフロアの中央へ向かった。

 去り際に陛下が、エリザベス嬢も、面倒臭いのに捕まってしまったな。と呟いていたが、聞こえないフリをした。



 丁度1曲目が終わり、2曲目が流れ始める。

 私たちは互いに見つめ合い、礼をする。そして手を取り合い、ステップを踏む。


「素敵なドレスだね。エリー。」


「ウィル様の装いも麗しいですわ。」


 当たり障りのない会話。

 そんな会話に焦れったくなり、私は踏み込んだ質問をする。


「あの、いつになったら婚約破棄をしてくれるのでしょうか?ウィル様、今年の社交シーズンは地方視察へ向かわれると聞いたのですが。」


 そしてヒロインと出会い、愛を育み連れ帰って来るのだ。

 ウィル様がヒロインのエリーゼだけに見せる、素の笑顔や言動。小説の描写を想像する。

 ……?何故だか胸の当たりを突き刺すような痛みに襲われた。


「誰から聞いたのかな。そんな話も出ていたけれど、行かない事にしたよ。浮気中の婚約者を見張らないといけないからね。」


 そう言って、ウィル様はまた先程と同じように絶対零度の笑顔を見せた。


「僕はね、エリー。これからは我慢しないと決めたんだ。」


 彼がそう告げると、丁度曲が終わった。私たちは再び礼をして、エディ達の元へ帰った。

 地方視察へ行かない?それじゃあヒロインは…小説はどうなるの?

 私は幽閉されないのかしら?

 モヤモヤする気持ちを抱えたまま、エディともダンスを踊った。


「さっきよりも元気ねぇけど、どうしたんだよ。」


「え?あぁ、少し考え事してただけよ。」



 ウィル様が地方視察へ行かないとなると、この後の展開が分からなくなってしまう。

 小説の大半はエリーゼのいる村で展開されるため、王都での出来事は描写されていなかった。

 ウィル様がいない期間、家でぐうたらしようと思っていたのに、予定が狂ってしまった。



 私はこんがらがる頭を整理するため、今日は早めに帰る事にした。

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