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Episode.3

 あのお茶会から3日が経ったある日、突然エディが屋敷を訪ねてきた。


「今日暇だろ?」


「予定は特にないけど…突然ね。」


 いくら恋人ごっこのふりだからと言っても、先触れくらいは欲しいものである。

 それに私のわがままに付き合ってくれているとはいえ、こんなに積極的に来られるのは慣れていないから困る。


「街へ行こうぜ!」


「街?」


 恋人らしく振る舞うには普段から、そのように行動しないとな!と得意げに笑っている。

 確かにそれも一理あるわね……

 私は直ぐに出かける準備をして、エディのエスコートで、屋敷の前に止まっている馬車に乗り込もうとした。


「やぁ。いい天気だね。」


 馬車の中にはそう、ウィル様がいた。

 聞いてない。という視線をエディに向けると、彼はバツが悪そうに目を逸らした。

 これは…

 ウィル様の圧に勝てなかったと推測する。

 私は考えるのをやめて、馬車に乗り込んだ。


「御機嫌ようウィル様。本当にいいお天気ですわね。」


「こんな日は街に出たくなるねとエディと話していたんだ。」


「リズを誘ってデートしようかなって答えたら、僕も行こうなんて言って着いてきたんだ。」


 付き合って初めてのデートなのによ〜と少し不貞腐れて外を眺めるエディ。

 なんだか本当にデートを楽しみにしてくれているようで、私も少し嬉しくなった。


「いいじゃない。3人でお出かけなんて。小さい頃を思い出すわ。」


「あぁ。あれな。リズ噴水飛び込み事件。」


「懐かしいね。あれは凄かった。」


「ちょっと!そんな恥ずかしいの忘れてよ!」


 リズ噴水飛び込み事件。とは、私達がまだ5歳の時の出来事だ。

 建国祭の日、城下で行われている平民向けの祭りに行った時のこと。

 初めて見る街の景色に、テンションが上がり、私は興奮気味になっていた。いや、前世を思い出してちょっとしてからという事もあり、かなり興奮していたと思う。

 前を見ずに歩いていた私は、そのまま広場の噴水へ落ちたのだった。


 次の日しっかり風邪を引いた。



 そんな事を思い出していると、馬車が目的地に着いた。

 ウィル様に手を差し出され、馬車を降りる。

 久しぶりに見た街は相も変わらず活気に溢れていながら、少し暗い。


「最近皇都の治安が悪くなってきてるらしいぜ。」


 だから人気のない路地は行くなよ。と忠告された。

 私はもう18の立派な淑女なのに。子供扱いしないで欲しい。

 誰も行かないわよ。と少し強めに答え、鼻を鳴らした。


 噴水広場には、朝市の露天商が沢山いて、一際賑わっていた。

 ハンドメイドアクセサリーに、不用品販売、他国の特産品、古書などが売られている。

 その中にたまに居るのが、お忍び貴族に買ってもらうことを目的とした骨董品店だ。

 大体偽物の割合が高く、本物だとしても大した値にはならない品が多い。


「リズ、気になる店とかあるか?」


「そうね…あのお店…」


 他のお店と明らかに雰囲気の違う、瓶やら葉っぱやらが並んでいる露天商。

 店主はローブを羽織っており、フードを深くまで被っているため、性別はおろか年齢すらも分からない。

 一言で言えば怪しい。


「ねぇ、このお店は何を売っているの?」


「……冷やかしならごめんだよ。」


 フードから見えた目は眼光鋭く、声は(しわが)れていた。

 いかにも魔女と言った風貌だ。


「これ、ケシの実よね?」


「………」


 カゴの中に大量に入っていた実を見つめ、尋ねてみる。しかし、返事は帰ってこない。

 仕方ないか。

 私は諦めて、直ぐにその場を離れた。



 それから一通り見終わった後、私達は貴族街に近い静かなお店で昼食を摂ることにした。


「なぁ、さっき言ってたケシの実って?」


「あぁ。ケシってね、実に体に危険な成分が含まれているの。取り扱いを間違えると危ないから。さっきのは全部成熟してたから大丈夫だけど。」


 ケシの実は、16世紀に流行っていたアヘンという麻薬の原料となるものだ。

 この世界にアヘンがあるかは分からないが、注意していて損は無いだろう。


「へぇ〜大変だな。ま、ご飯食べようぜ。」


「えぇ。」


 一人、とても静かなのが気になる。

 市場で私がケシの実を指摘してから、なんだかずっと心ここに在らずと言った感じで、考えに(ふけ)っている。

 なにか引っかかるのだろう。だが、面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。

 ここは敢えて気付かないふりをして、料理を楽しんだ。


 その後、私達は再び街を散策した。

 噴水広場は露天商と入れ替わりで、移動式屋台の食べ物屋さんが沢山並んでいた。

 その中で最も興味が惹かれたのは、クレープだった。


「ねぇ!クレープ屋さんですって。」


「クレープ?ナイフとフォークも無いのにどうやって食べるんだよ。」


「あの子達みたいに手で持ってかぶり付くのではない?」


 貴族のお菓子にもクレープはあるが、ナイフとフォークで丁寧に食べないと行けないものが普通だ。

 なので平民のように、手で持って食べるという発想は無いのだろう。

 私は2人の手を引いて、屋台に近づく。

 そしてメニュー表を見ながら、あれもいい!これもいい!!と楽しく悩んだ。


「俺はいつも家で食べてるバナナチョコにするよ。」


「僕はこのマッチャアズキと言うのにしようかな。」


「意外ね…」


 私の勝手なイメージでは、エディが新しいものや物珍しいものを好むタイプで、ウィル様は冒険しないタイプだと思っていた。

 だが実際は逆だった様だ。


「マッチャ?ってなんだ?」


「東の国の茶の事らしい。」


 と会話している2人を横目に、私は前世から大好きないちごチョコクレープにする事にした。

 3人ともクレープを受け取り、少し離れたベンチに腰掛けた。


「リズ。ほら。」


 エディは座った途端、自分のクレープを差し出して来た。

 私は、何も考えずに差し出されたクレープに齧り付いた。

 齧り付いた後に、淑女らしからぬ行動だと我に返る。

 違う。少し言い訳させて欲しい。

 今日1日、街へ出て貴族らしい事をしなかったから、前世の感覚が強くなっていたのだ。


 私は恥ずかしくなり、即座に顔を逸らした。

 が、顔を逸らした先にはウィル様。彼は少し意地悪な顔をして、


「エリー。」


 とエディ同様にクレープを差し出した。

 一度も二度も同じだ。と内心開き直り、私はクレープに齧り付いたのだった。

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