Episode.29
「エリー、帰ろう。」
そう言って僕はエリーの手を握り、帰路に着いた。
馬車の向かいの席でこくりこくりと船を漕ぐエリー。
前に倒れないか心配になり、僕は隣に移動して肩を貸す。
エリーはそれに気付いて体制を整えようとしたが、エリーの頭に手を添えて、肩へ誘導した。
「そのまま寝るといい。」
ウィリアムside
エリーは素直に従ってそのまま目を瞑った。
そしてエリーの寝顔を眺めて、昨日の事を思い出す。
隣国が何か仕掛けてくるとは思っていたが、予想よりも早い段階で来て、正直焦った。
証拠も完全に抑えられていなかった。
だが、馬鹿なことをしてくれたおかげで予定よりも早く方が着きそうだ。
しかし、僕のエリーに薬を盛るなんて。
僕は拳を強く握りしめた。
エリーは、本気で僕と婚約破棄をしたいのだろうか?
エディと恋人になった日から、気が気じゃない。
エディとは実際には恋人じゃなく、振りでしていた事も調べは着いているが、実際に目の前でイチャつかれると、エディに殺意が湧いていた。
僕のエリーなのに。
僕から離れようとしないで。
「絶対に離さない。」
寝ているエリーにそう宣言して、同じように眠りについた。
エリザベスside
いつの間にか帰って来ていたらしく、馬車は辺境伯領を走っていた。
それから一晩明かし、城へ着いた。
ウィル様はすぐに会議中の部屋へ乗り込み、公爵を捕まえた。
「ウィリアム殿下、これは一体何事ですかな?」
余裕の表情でそう訴える公爵。
そんな公爵を一瞥すると、捉えていた部下へ連れて行けと一言。
私は馬車をおりたあたりからウィル様に手を握られていて、されるがままに着いて行くしか無かった。
「父上の所へ行く。エドモンド公爵子息も連れてくるように。」
そして王の間へ着き、ウィル様は緊急故挨拶は省くと皇帝に説明した。
しばらく待つと近衛兵に連れられてエディと、ヒロインのエリーがやって来た。
二人は腕を組んでいたが、拘束されている公爵を見て、エディは顔色を変え、腕を離した。
「ここに、カルリーニ公爵並びにエドモンド・カルリーニ公爵子息を皇室転覆罪容疑で告発する!」
ウィル様は一言そう告げ、断罪を始めた。
私は何故エディも断罪される必要があるのか分からず、頭の中はハテナだらけになっていた。
「カルリーニ公爵は隣国から違法薬物のアヘン密輸と、皇太子の婚約者殺害未遂罪。そしてエドモンド公爵子息は皇位簒奪計画を企てた容疑がかかっている。なにか申し開きはあるか?」
「申し開きも何も、全く心当たりがございませんな。」
公爵は余裕綽々と告げる。
「連れてこい。」
ウィル様の合図で、拘束されて居た隣国の国王が連れてこられる。
公爵は国王を見て一瞬動揺するも、また表情を消した。
「これはこれは、国王陛下」
わざとらしく挨拶をする公爵。
「全部!貴様の仕業だったのか!!」
国王は今にも襲い掛かりそうな気迫だ。
私は目の前で起きている状況が、夢なのか現実なのか、段々と区別がつかなくなってきた。
「全て素直に認めていたら良いものを…そこまでシラを切るならこちらにも奥の手がある」
ウィル様はそう言ってエリーゼに目配せをした。
エリーゼはエディの隣からウィル様の前へ移動し、どこから取りだしたのか、書類を手渡した。
「こちらが、エドモンド様からご提供頂いた証拠類です」
そこには公爵が隣国の国王へ向けての手紙と、裏帳簿があった。
ウィル様は部下に持ってこさせた国王から公爵への手紙と照らし合わせ、確認する。
「ふむ。公爵が隣国への関税を勝手に引きあげ横領していたのは間違いないようだね。実際に公爵家で働いていた人達の証言とも食い違いはない」
「横領を資金に国内で紛争を起こし、皇帝陛下と皇太子殿下を殺す計画だったようです。話はエドモンド様から直接お聞き致しました」
エリーゼはウィル様の言葉に続き答える。エディは先程から何も言わず黙っている。
「エディ…嘘よね?」
優しかったエディがそんな事するわけない。婚約破棄するためにも協力してくれた、あのエディが。
「はぁ……全部バレてんじゃん。父上。そーだよ。俺らは正当な皇族の血を持った人間だ」
こんな扱い酷すぎる。と被害者面しているエディ。
そして私の方へ向き直る。
「本当はさ、婚約破棄なんてどうでも良かったんだよね。リズが俺とウィルと二股かけて評判落ちてくれれば、皇位も奪いやすかったし」
「残念だったな。エリーには、お前たちの動きを監視して貰うためにわざと演じてもらった。そしてエリーゼ嬢は俺が雇い入れ諜報員になってもらった。お前の好きそうなタイプだと思ったから。すぐボロを出してくれるとは思わなかったけどな」
ウィル様は少し自嘲気味に笑い、親友だと思っていたんだがな。と呟くと、衛兵達に皆を牢へ入れるよう指示した。
断罪、そして隣国と巡る薬物は無事解決したのだった。
一つ、気になることといえばウィル様の最後の言葉。
私、婚約破棄したくて手伝ってもらってたし、監視するためにしていたわけじゃない……
気が付くと、私はウィル様の部屋でお茶を飲んでいた。
微かにウィル様に手を引かれた記憶はあるが、ショックで思考停止していたせいであまり覚えていない。
「ウィル様、全て知っていたのですか?」
「もちろん。全部知っていたし、阻止していたよ。あぁ、紹介が遅れたね。彼女はエリーゼ。辺境伯領に住んでいる娘だ。王宮に臨時の侍女として大勢雇われたうちの一人だ」
「改めてご挨拶致します。エリーゼです」
ヒロインがお城で働き出すのは原作と変わっていない。変わっているのはウィル様とヒロインが出会うタイミングと、物語の期間中隣国にいた事くらい。
「あの、お2人は、惹かれあったりなどは……」
「……?エリー、僕は君だけが好きなんだ。他の女性に目移りするはずがない。エリーゼはエディの好きなタイプだったから諜報役として雇ったんだ。社交シーズンが終われば辺境伯領へ帰る。」
「その通りです。私たちの間にはそのような感情は一切御座いません。私など、釣り合わないですし、恐れ多いです。」
エリーはそう言って全力で首を振る。
じゃあ、本当に私はもう婚約破棄もされないし、監禁されることもない?
「さて、今日はもう疲れただろう。帰ってきて直ぐにすまないね。エリー、部屋を用意している。明日最後の夜会だ。泊まっていくがよい。」
「では、エリザベス様こちらへ。」
エリーは侍女へ戻り、ウィル様も何事も無かったかのようにお茶を啜る。
私はわけも分からぬままエリーに連れて行かれ、湯浴みをしてもらい、旅の疲れを癒すのだった。




