Episode.2
そして決戦の日曜日。エディはわざわざお茶会の開始時間に合わせて、馬車で屋敷まで迎えに来てくれた。
「お手を。」
丁寧なエスコート。彼には婚約者は居ないが、この振る舞い。やけに慣れている。
「リズ、恋人の振りをするからには馴れ初めとか決めとかねぇとな。」
確かに、ウィル様の事だから色々質問してきそうだ。
馴れ初め…馴れ初めと言っても、私達は幼馴染みなので今更感はある。
「あのウィル様よ。何を言っても見破られてしまいそうだわ。」
「そこなんだよなぁ。まぁその時は俺が答えるから、適当に合わせてくれ。」
そう言って肩透かす彼。本当に側近が出来ているのか、不思議なほど適当だ。
昔一度だけ、エディが側近で仕事になるのか聞いたことがあるが、ウィル様は半々だと答えていた。
王城に着き、いつもお茶会が行われる庭園へ向かう。
「ん。」
エディはそう言って腕を差し出す。
恋人同士だから一応、ね。と軽く笑い、私が添えた手を反対側の手で包み込む。
ウィル様ともこんな風に腕を組んだことがないのに、なんだかこそばゆい。
お茶会の席には、ウィル様が座っていた。約1ヶ月ぶりの対面だ。
小さい頃は可愛らしい雰囲気だったのに、今やその面影は無く、とてもかっこいい大人の男性だ。
優雅に座り、ティーカップを口へ運ぶ姿に見とれていると、ウィル様と目が合った。
なんだか後ろめたい気持ちになり、思わずエディの腕を離す。
「帝国の太陽、ウィリアム皇太子様へご挨拶致します。」
最上級の礼をして、顔を上げる。
エディはと言うと、腕組みをやめたのが名残惜しかったのか、少し不服そうな顔をして、ウィル様の隣へ座った。
「お茶会は無礼講だろ?ウィル。」
なんて言いながら、好きなお菓子を手に取り、1口食べる。
「そうだね。エリー、久しぶり。忙しくてなかなか会う時間を作れなくてごめんね。ほら、座って。」
優しい口調で席へ誘導してくれるウィル様。
私は顔を上げ、空いている椅子へ腰かけた。
それから数分、無言の時間が流れる。
静かすぎて、茶器の音だけがその場に響いている。
「ねぇ、どうして2人は腕を組んでいたの?」
「あぁ。俺ら付き合う事にしたんだ。な?リズ。」
「っ!え、えぇ。」
ウィル様からの唐突な質問と、エディからの振りに、思わずお茶を噎せそうになってしまった。
が、何とか気合いで耐える。
「なのでウィル様、婚約破棄をして頂きたく…」
「付き合ったのは見て分かったよ。どういう経緯でそうなったの?」
私の申し入れに被せるように、ウィル様が質問する。
笑っているけど、目が笑っていない。
こんなに怖いウィル様は初めて見た。
私は助けを求めて、エディの方を見る。
エディは呑気にタルトを頬張っていた。
「俺が口説き落としたんだ。お前が出れないお茶会の時に何度もな。実はずっと昔からリズの事が好きだったから。」
そう言って私のことを見て、宝物を観るような顔で微笑む。
そう言われるとなんだか、本当に私を好きな気がして少し照れくさい。
顔に熱が集まるのを感じた私は、思わず顔を逸らす。
「そうなんだ。で、どうしてエリーのことをリズと読んでいるの?」
「どうしてって、エリーだとウィル達と被るだろ?恋人になったんだから、俺だけの愛称で呼びたくて。な?リズ。」
彼はそう言うと、私の隣へ来て、髪の毛を一束すくい上げ、キスをした。
普段は適当な振る舞いだからなのか、こういった紳士な対応をされると、不覚にもキュンとする。
「エディったら、恥ずかしいからやめてよね。」
ふんっと腕を組みそっぽを向く。
何だか、すごく恋人っぽいかも……。
前世では恋愛経験皆無に近い私、何が正解か分からないが、多分大丈夫。
「そうなんだ。」
「で、では婚約は破棄ということで…」
「しないよ?」
少し期待した顔でウィル様を見るが、冷たい声で遮断された。
どうしてですの!?と叫びそうになったが、流石に不敬だと理性が言っている。
「理由をお尋ねしても?」
「まずこの婚約は、家同士の取り決めだから、簡単には行かない。」
「ですわよね……」
「だからこうしよう。2人が本当に愛し合ってると僕が判断したら、破棄。流石に恋人を引き裂くなんて野暮な真似はしたくないからね。」
野暮な真似したくないなら、今すぐ破棄してくれてもいいんじゃ……という言葉を飲み込み、私は静かに頷いた。
「よっしゃ、じゃあリズ、これからは沢山ウィルに見せつけようぜ!」
「えぇ、そうね。」
いっちょやるぞー!と意気込むエディ。
でも私は見逃さなかった。そんな私たちを主にエディを憎しみの籠った眼差しで見つめる、ウィル様の姿を。