Episode.24
「お世話になりました。」
「こちらこそ。お会いできて嬉しかったよ。エリザベス嬢。ウィリアム皇太子もお元気で。」
「あぁ。感謝する。」
私達は隣国へ向かうべく、辺境伯の屋敷を後にした。
真夜中のお茶会の時にホワイト辺境伯令嬢、アイリーン嬢との会話が弾み、少し寝不足だ。
馬車の揺れが心地よく、また今日も眠ってしまいそうだ。
「眠たいのなら寝てもいいよ。」
「では、お言葉に甘えて。」
私は目を瞑り、壁に体を預けた時だった。隣に気配を感じ、目を開ける。
「ウィル様?」
「昨日のように枕が必要かと思って。気にせずに寝ていいよ。」
そういうならとことん甘えてしまおう。私は目を閉じ、ウィル様の肩に寄りかかる。
ふと、昨日の出来事を思い出し、顔が緩んでしまう。
「どうしたんだい?」
「ふふっ。昨日の真夜中のお茶会を思い出しまして。アイリーン嬢が見かけによらずとても逞しくて。」
「それは気になるね。何を話したんだい?」
「辺境伯家にはご子息がアイリーン嬢しかいらっしゃらないでしょう?なのでアイリーン嬢ったら、独身の騎士団長を婿養子に貰うために来たと仰っていたんです。それがすごく素敵で。」
だいぶ無謀な挑戦だと思うが、あの二人がくっつく所を想像すると、屈強な男性が尻に敷かれているようにしか見えなくて、思わず笑いが込み上げる。
「確かに、辺境伯家は代々騎士団長が婿入りしているね。どういう訳か令嬢しか生まれない家系らしくてね。ご令嬢は婿探しのために王都の騎士団に入って来るんだ。だから皇太子が皇帝になるタイミングで結婚して2人とも引退する事が伝統になりつつあるよ。」
「そうなのですね。初めて知りましたわ。」
「無理も無いよ。貴族名鑑には特にそんな事書かれていないし、皇后教育でも習わないからね。ちなみに、ホワイト家のご令嬢は皇太子妃の護衛兼侍女を務めるんだよ。」
なるほど、昨日アイリーン嬢が訓練兵と名乗っていたのは、務めるべき役職がまだ無いためだったのね。
なんだか早く結婚しろと暗に急かされているような…
そんな雑談をすること数分。ウィル様の心地いい声が子守唄となり、私は夢の世界へ誘われた。
ここは…?気付くと、私はとある町の貧民街に居た。
周りを見渡しても見たことの無い景色。そんな中に、1人見覚えのある顔が居た。
エリーだわ!
私はどこかへ走り去るエリーを追った。
エリーは角を曲がろうとした拍子に、誰かとぶつかり大きくよろけた。
もう少しで転ぶと思い、目を瞑った時エリーの体を抱き抱えるように腕が伸びた。
その時都合よくフードが外れ、エリーを抱き抱えていたのはウィル様だった。
そうか、これ、小説の冒頭のシーン。またこんな夢を見て…それにしてもウィル様は何故、貧民街に来ていたのかしら?
って、2人とも見つめ過ぎじゃない?それじゃあまるで…まるで恋に落ちたよう…よ。そうよ、2人は恋に落ちるのよ。
私ったら。何を言っているのかしら。最近ウィル様との距離が近かったから、勘違いしそうになったわ。
って、勘違いでも無いのかしら?ウィル様は終盤に、私の事を監禁するし…
と、やるせない思いを抱いて、私は目を覚ますのだった。