Episode.23
「きゃああああ!!!!」
「エリザベス様!?どうされました!?」
叫ぶと同時に布団から飛び起きると、部屋の前に待機していた女性騎士の2人が勢いよくドアを開け放ち、入って来た。
私は肩を大きく揺らし、息を整える。
「ごめんなさい。少し怖い夢を見てしまって。もう大丈夫よ。」
「そうでしたか。では、気を落ち着かせるために、紅茶などは如何ですか?」
「そうね。飲もうかしら。」
何とかして気持ちを切り替えようと、髪をかきあげながら、ベッドから降りティーセットの元まで向かおうとした時だった。
女性騎士の1人が、「私がやります。」と、即座に用意してくれた。
「こう見えても、私は普段皇后様付きの侍女兼護衛なので、一通りのお世話はお任せ下さい。」
「そうなの?皇后様について居なくて大丈夫?」
「はい。私含め5人で代わる代わる務めておりますので、大丈夫です。」
「女性騎士は基本の護衛業務に加え、侍女業務も担いますの。私は、まだ訓練兵の身ですが、今回侍女の訓練兼実習として参加させていただいております。」
言われて見れば、2人ともパッと見は騎士に見えない。侍女服の方が似合いそうな程にお淑やかな雰囲気だ。
お茶を入れてくれている騎士は頼れる真面目な侍女。訓練兵だという彼女は、何処かの上位貴族では無いかと思える程に所作も綺麗でふんわりした雰囲気がある。
「エリザベス様、お茶のご用意が出来ました。」
そう言うと、「失礼します。」と目の前で毒味をし、お茶の安全を証明してから私の前へ配膳してくれた。
丁度いい温度のお茶はとても美味しくて、さすが王宮侍女も務めているだけある。
一口飲んでほっとしていると、乱雑に扉が開け放たれた。
「エリー!大丈夫!?」
「ウィル様?どうされましたか?」
「先程、エリーの部屋から叫び声が聞こえたと報告が入ってね。ホワイト、何があったのか報告しろ。」
「はっ。エリザベス様は怖い夢を見られたらしく、飛び起きられた様です。すぐ部屋に入りましたが、部屋も荒らされておらず、窓もバルコニーも開いておりませんので、刺客の線は無いかと。」
ウィル様はとても慌てた様子で、それでいて自然に私の向かいの席に座り、目の前に出されたお茶を手に取った。
上位貴族のように見えた騎士の家名はホワイトと言うらしい。
辺境伯家のホワイト家。そりゃあ洗礼された所作の筈だ。
「そうか。これからも気を緩めず警備に当たってくれ。」
「かしこまりました。」
2人は最上級の騎士の礼をとり、ウィル様は残りのお茶を飲み切ると、別れの挨拶を告げ、部屋を後にした。
ウィル様、昼間と同じ服装だった。
まだお仕事しているのかしら?大変ね。
「って、貴女ホワイト家のご令嬢だったのね!?」
「はい。なのでここは実家ですわね。約2年ぶりの帰省です。」
「もう!早く言ってくれたら良かったのに!ご両親達と家族水入らずで過ごして欲しかったわ。」
「いえ!私は家族で過ごすよりも、こうして仕事を見てもらえることこそが何よりの交流です。なので、こうして働いている姿を見て貰う方がいいです。」
そう言って笑う彼女に、少しだけ辺境伯の面影を感じた。