Episode.20
「エリーゼさんは、どうして王宮図書館にいらっしゃったの?」
エリーゼが席に座り、一段落したタイミングで話を振る。
紅茶を持ち上げる手が少し震えている。
招待状を渡す時点で何故原作ヒロインだと気付かないの私!!!馬鹿!!ほんとに私の馬鹿!!!
「実は、私地方の村に住んでたんですけど、生活があまり豊かではなくて……それで、社交シーズンの人員不足に合わせて短期で雇って頂いてるんです!そして、休憩の時に国立図書館で本を読んでいたら、エリザベス様から招待状を頂いたんです。」
「そうだったのね。何か面白い本はあったかしら?」
「えぇ!もちろん沢山!!思わず入り浸っちゃうほどに!」
そう言って笑う原作ヒロイン、エリーゼ。
光属性の笑顔だ…恐ろしや。
地方視察へは行っていないから、出会わないと思っていたのに!!まさかのまさかで、自分からお城へ来るパターン!
完全に想定外だ。
そしてエリーゼのここに至るまでの経緯を軽く聞いた所で、本の紹介へと移った。
私のお茶会では特に指定席はなく、早く来た人勝ちで好きなところに座れる。
もちろん主催は私なので、上座は自然と私になるが、それ以外は自由だ。
「じゃあ、まずは私から。今年の1冊はこれ。公爵令嬢の涙よ。」
私は一冊の本を取り出した。実はコニーからあらすじを聞いた後、本編が気になって取り寄せたのだった。
「とてもいい作品だわ。お話はもちろん、心理描写がよく出来ていて、文体も丁寧で美しい。流行る理由が分かる一冊ね。デビュー作だとは思えないくらい良いものだわ。このノムデッドって作者かなりの逸材よ。」
「分かる!ほんとにいいよね!」
そして各自紹介し合い、エリーゼで紹介時間は終了となる時だった。
突然、図書館の扉が開いた。
お茶会をしている間は誰も入って来ない筈……不審に思い、コニーに様子を見に行かせた。
コニーは扉の外に居た人物と少し会話をすると、こちらへ戻ってきた。
何やら少し困った顔をしている。
「お嬢様、エドモンド様がお見えです。」
「え!エドモンド兄様本当に来たの!?」
「アナスタシア嬢?」
「ごめんなさい。エリザベス嬢。実は……」
アナスタシア嬢がこのお茶会に来る前に、アナスタシア嬢はエディに私のお茶会へ行くことを伝えたら、エディは冗談交じりに参加しようかなと言っていたそう。
アナスタシア嬢も軽く流して居たのだが、結局来てしまったのだった。
「よぉ。リズに会いたくて来ちまったぜ。」
いつものように軽い口調で言い、いつの間にか私の隣に立っていたエディ。
みんな、これが噂の……と言わんばかりに嬉々とした視線を私たちに向ける。
その中に1人、エディへ恋する乙女かの如く煌めいた視線を送る少女が一人。エリーゼだ。
そして、エディもまたその視線に気付きお互いに目があった。
エディは原作の当て馬ポジション。
一目惚れするのは分かるが、原作ヒロインであるエリーゼまでエディに一目惚れするのか。
「ね、ねぇみんな!せっかくエディが来てくれた事だし、エディにもおすすめの本を聞きましょう!」
「それいいな!俺のおすすめはねー。」