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Episode.1

 それが先程までの記憶。目の前には、自分をウィリアム・デュヴァルと名乗る、4・5歳くらいの小さな男の子。見た目が小説の皇子にそっくりだ。

 これは所謂、異世界転生というやつなのだろうか。

 と、とりあえず、挨拶をしなければ!


「お初にお目に掛かります。ロレーヌ侯爵が父の、エリザベス・ロレーヌです。帝国の太陽、皇子様にご挨拶申し上げます。」


 緊張で手が震えるが、何とか出来た。

 習ったばかりの拙いカーテシーをして、返事を待つ。


 大丈夫、私には、前世の記憶がある。

 皇子様をヤンデレに育てない。ヒロインと関わらない。この二つを守って、平和に、穏便に婚約破棄をするの!!!

 あわよくば円満に婚約破棄!

 そう心に決めた私は、静かに目を閉じた。


「顔をあげて下さい。もう婚約した仲なのですし、畏まらずにお互い愛称で呼び合いましょう。」


「え、ええ。そうですわね。では、(わたくし)の事はエリーと。」


 愛称は家族、親しい友達にのみ許された呼び方だ。


「エリー。私のことは、ウィルとお呼びください。」


「ウィル様。」


 はい。と少し満足そうなウィル様。まだ私はこの現実を受け止めきれていない…。




 疲れたぁ。顔合わせのお茶会が終わり、私は自室と思われる部屋のソファに座り込む。

 帰ってくるまで何を話したのか記憶が無い…。


「とりあえず、おさらいしよう。」


 私は人払いをして、テーブルの引き出しから紙と羽の装飾の着いたペンを取り出した。

 凄い…人生で1度はこんなペン使って見たかったんだよねぇ。

 なんて呑気に考えながら、死ぬ直前まで読んでいた小説の内容を思い出す。


 主人公は田舎に住む平民の女の子エリーゼ。相手役であるウィリアム皇子が地方視察をしに行った時に出会う事で話が始まる。

 一目惚れされた主人公は、城でメイドとして働くべく半強制的に連れてこられた所で私、エリザベス・ロレーヌと出会う。

 そして私が皇子の婚約者として居座っていて、皇子と主人公の仲に嫉妬して主人公に暴虐の限りを尽くす。

 その間、皇子はエリザベスの悪行を利用して主人公が自分以外信じれないように洗脳するのよね。

 その結果王妃には相応しくないと婚約破棄、からの主人公と皇子が婚約。そしてエリザベスは主人公に暗殺者を送るが失敗し、孤島へ幽閉エンド。

 その後は、結婚式を挙げて主人公も閉じ込めエンド。



「無理すぎる…」



 せっかく!せっかく大好きな中世ヨーロッパ時代に転生したのに!幽閉エンドダメ!絶対!


 勢いよく立ち上がり、志を胸に腕を高く上げたのだった。



 それから13年後

 婚約破棄出来ないまま、小説が始まるまで1ヶ月を切った。今日は週に一度のお茶会…なのだが、最近ウィル様は来たり来なかったりだ。

 そのおかげで今、私はウィル様が来れない代わりにウィル様の側近のエドモンド様とお茶会をしている。


「はぁ…」


「まだ婚約破棄しようとしてんのか。」


 お世辞にも貴族と言えない話し方の彼。エドモンド・カルリーニ公爵子息だ。

 彼はウィル様の従兄弟であり、父親は皇弟と言うこの国では王族に継ぐ身分なのだが……砕けた口調に軽い態度も相まって、今ではすっかり親友の域だ。


「そうなのよ。ウィル様はこんな調子で政務が忙しいってお茶会に来ないでしょう?私嫌われたのかしら。」


 昔から口酸っぱく誠実な人が好き。や、私の事を愛してくれる人が好き。と言いすぎて、とうとう嫌われてしまったようだ。


「それなら、いい案がある。お前ら、昔から好きな人が出来たら婚約破棄するって言ってたよな。」


「えぇ、そうだけど…」


「なら、俺らが恋人のフリをすれば。」


「貴方!!天才ね!!!」


 私は思わぬ提案に、興奮のあまり机に手をついて立ち上がる。

 淑女らしからぬ行動だが、幼馴染みとして気心知れた仲なので今更だ。

 エドモンド様の手を握り、瞳を輝かせる。


「お、おう。」


 そんな私を見て、引き気味のエドモンド様。今更なのに何を驚いているのかしら。


「じゃあ早速今日から始めようぜ。ウィルには来週の茶会にでも破棄するようお願いすればいいし。」


「そうね!そうしましょう!」


「じゃあ。恋人なんだし俺の事はエディで。」


「エディ。じゃあ私のことはリズと呼んで。」


 そう言って、差し出された手を握る。お互いに力を込め、握手をしてその日は解散した。

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