Episode.15
「そう言えば、コニー。公爵令嬢の涙って知ってるかしら?」
お茶会が終わり、帰りの馬車に揺られている時だった。
ふと、先程の小説が気になったため、迎えに来てくれたコニーに聞いてみた。
「えぇ。もちろんです。最近平民の間で流行りの恋愛小説です。突然どうされましたか?」
「今日お茶会で私とエディがまるで、公爵令嬢の涙のようだと言われて少し気になったの。」
コニーは少し困ったような顔をして、「お嬢様が気にする事ではございません。」と言った。
そんな事を言われてしまえば、俄然気になるのが人の性。
どうしても知りたい欲求に駆られてしまう。
「そんな事言わずに教えなさい。コニー。」
教えたくなかったとしても、主から命じられてしまっては教えるしかない。
こんな言い方はしたくなかったけど、隠すにはワケがあるはず。ごめんねコニー。と心の中で謝った。
コニーが教えてくれた小説の内容はこうだった。
主人公の公爵令嬢は、幼い頃から想い合ってきた幼馴染みの公爵子息がいた。
だがある日突然、幼馴染みの従兄弟であり、冷酷非情の暴君と言われている王子と、結婚する羽目になった主人公。
主人公は貴族としての勤めと、恋心を忘れ、王子に尽くす事を決めた。
しかし、結婚式の誓いの言葉の瞬間、僅かに残っていた恋心が取っ掛りとなり、神に結婚の誓いを出来ずに悲しみの涙を流すのだった。
参列していた幼馴染みは、その涙を見逃すこと無く、主人公をその場から連れ出し、駆け落ちすることに決めた。
その行動に怒った王子は、追っ手を遣わすが、所在は掴めない。
王子は自ら探しに行く事にし、捜索の末に2人の居場所を突き止める。
そして王子と幼馴染みとの一騎打ちが始まり、激戦の末幼馴染みが勝利する。
王子は国民の反感を買っていたこともあり、王位継承権を剥奪され、国外追放。
継承順位的に、従兄弟である幼馴染みが王子となり、そのまま王に即位し、2人は結婚して主人公は今度こそ幸せな涙を流すのでした。
と言った様な内容だった。確かに関係値は良く似ているし、今の状況も酷似している。
これを書いているのは、私達に近しい誰かなのではないだろうか?
「ねぇコニー、この小説の作者ってどのような方なの?」
「そこまでは存じ上げません。なんでも、デビュー作のようで、他の作品はなく、性別も、風貌も一切謎に包まれています。」
私達が恋人の振りを始めたのはつい最近の出来事だ。
執筆から出版、そしてたくさんの人が読むまでには長い年月がかかる。
と言うことは私たちの行動より、小説が執筆された方が先ということになる。
たまたま似てしまっただけよね。
未来の事なんて分かるはずがないし。他人の空似のようなものよ。
何かが引っかかるが、あまり深く考えない事にした。