Episode.13 ???視点
ずっと、ずっと兄が憎かった。いや、兄とも呼びたくない。あの男が。
父上は私のことをとても大切にして可愛がってくれた。
母上は私を見て、恨み嫉みを口にした。
「なぜお前はもっと早く産まれてこなかったの?私がもっと高い地位の貴族なら...お前があいつよりもっと優秀なら...」
母上は、父上と結婚せずに私を産んだ。いや、結婚できなかった。が正しい。
父上は母上の事をこの世の何よりも、誰よりも愛していた。しかし、身分が違いすぎるが故、結婚出来なかった。
それでも父上は母上への愛情を貫いていた。しかし、そうもして居られなかった。
父上は政略結婚をさせられ、しばらくして後継ぎも生まれた。
その事に対して母上は裏切られたと感じたのだろう。
「私も子供が欲しい。貴方が子供を作ってくれないなら、貴方を殺して私も死ぬ。」
と脅迫して、私が生まれた。不幸な事に。男児である私が。
母上は本当に愛しているなら、後継ぎは私との間に出来たこの子にしてと頼んだが、当然、本妻の子供が優先になるため、叶わぬ願いだった。
その代わり、父上は私を私生児としてだが、籍へ入れてくれた。
母上と二人、離れで暮らせるようにも手配をしてくれた。
しかし、母上は下級貴族の準男爵。私はそんな二人の間に出来た不貞の証。
当然ながら、使用人達が受け入れてくれるはずが無かった。
母上は父上に愛されている事に胡座をかき、毎日散財放題。
ドレスや高価なアクセサリーを強請っては、父上が行商を呼び、買い与えていた。
そして私にも沢山のものを買い与えてくれた。
大きくなるにつれて、私は自分がどういう存在なのか、理解するようになった。
私は腹違いの兄と呼ばれる存在を脅かす、厄介な存在だと。
使用人達は私に聞こえるような声で、陰口を言い、母上は兄と私を比較して、出来損ないだと詰った。
そんな母上を見兼ねて、父上も離れに顔を見せる頻度が減って行き、仕舞いには来なくなった。
そして顔を見せる頻度が減ることに比例して、母上からの暴言は多くなった。
それこそ、最初は傷付いたりもした。だが、そのうち母上が言っていることは正しいと思い込むようになった。
私が出来損ないだから父上は来なくなった。
私がもっと早く母上の元に生まれなかったから、父上はほかの女を作った。
私こそが、父上が愛した女の子供であり、正当な後継ぎだ。
兄という者はたかだか2年早く生まれただけの事。
愛されたのは私だ。
完璧に父上が来なくなった頃、母上は病に倒れた。
当然、面倒を見てくれる使用人はおらず、診察をしてくれる医者もいない。
暫くして、母上は死期を悟ったのだろう。私を部屋に呼んだ。
「母上。私です。失礼します。」
ベッドに横たわる母上は、改めて見るとすごく醜かった。貧相にやせ細り、髪の毛は乱れ、顔は痩け、それでいてすごく美しかった。
母上は私を側まで寄せ、手を伸ばし、優しく抱きしめてくれた。
離れに住む前の、元気で愛情に溢れていた頃のように。残りの力を振り絞るかのように、強く抱きしめてくれた。
「母はもう長くありません。母の願いはただ1つ。どんな手を使っても、貴方がこの国の、王になるのです。正当な後継ぎは貴方なのですから。どんなに時間がかかっても構いません。必ず、あの憎き王太子を引き釣り下ろし、王に。貴方が無理なら、貴方の子供。そのまた子供。と、王を目指すのです。」
母上は、そう告げると、静かに息を引き取った。
そうだ、私こそが王になるべく生まれて来たのだ。どんなに汚い手を使ってでも、必ず、この国の王に。私こそが正当なる王太子なのだ。
母上が死んだという知らせを聞きつけた父上は、すぐさま離れへやってきた。
母上の亡骸を抱き、咽び泣く父上。父上に会うのは5年ぶりだった。
そして私は王宮へ住む代わりに、王位継承権を破棄させられた。