Episode.11
そんな夜会も終わりが近づき、明日は昼にお茶会の予定があるため、エディを置いて帰ることにした。
「本当に送らなくて大丈夫か?」
「えぇ。エディもまだ仕事が残ってるでしょう?」
「分かった。ごめんな。気を付けて。」
そう言って私の手の甲にキスを落とし、馬車の扉を閉める。
窓越しににこりと微笑み、私が見えなくなるまで見送ってくれた。
……何あれ!!何あれ!?フリだって分かってるけど…あんな事されたら、勘違いしちゃうよ!
顔に熱が集まる。
それを冷やすように、冷たい手を頬に当てる。
嫌に心臓が早い。あんなの……本当にズルい。
今までエディに恋人がいたという話は、聞いたことがない。
だが、あれが恋愛未経験の動きだろうか?
前世でそれなりに青春してきた私だが、あんなスマートな男性は見た事がない。
エディがこの世界に存在していてよかった。
もし前世の日本にいたなら、確実に何人もの女の人を泣かせていたと思う。
それもそれで面白そうだし見たくはあるが…
いや。見たくないかも。
そんなことを考えていると、いつの間にか家へ着いていた。
両親はまだ帰ってきておらず、私は入浴を済ませ早々に眠った。
「おはようございます。お嬢様。朝ですよ。」
「おはよう。コニー。」
コニーは素早くカーテンを明け、水桶を持ってくる。
確か今日は、ハミルトン侯爵家でのお茶会の日である。
社交シーズンのお茶会は、大規模なものでは無いが、地方貴族も混ざり最低12人から開かれる。
普段5、6人で行われる雑談会とは違い、大人数での交流会。
夜会はコネクションを繋ぐ場だとしたら、お茶会は情報を交換する場。
夜会で知り合い、お茶会で関係を深める。これが基本的な社交の流れである。
そしてお茶会とは別に社交シーズン中はサロンも開かれている。
王宮の各広間に様々なサロンがあり、自分の好きな物又は興味のある事を行っているサロンへ出向くのだ。
サロンは歴代の皇后様が趣味として始めたのがきっかけで、代替わりする度に増えている。
内容によっては女性限定サロンもあるという。
このまま結婚することになると、私もサロンを開くのかしら。
趣味といった趣味もないし、開くとしたらどのようなサロンを……考えただけで気持ちが沈む。
いや、でももうすぐ婚約破棄する予定だし、そんな事考えなくてもいいわね。
陰鬱とした気持ちを切り替えるべく、首を横に振る。
「お嬢様、用意が終わりましたよ。」
あら、いつの間に。
考えに耽っている間に素早く用意をしてくれるコニー。とても優秀な侍女だ。
「ありがとう。では行きましょうか。」
私は羽やらレースやらがふんだんにあしらわれたボンネットを被り、会場となる屋敷へ向かった。