第3章:チュートリアル?
「……どうした!?」
そんな声と共に草むらから現れたのは女の人。
フードに隠れて顔全体は分からないが、隙間から覗く口元は厳しく引き締まっている。
手には剣、まるでアニメに出てきそうな真っ直ぐな剣。
僕を背に注意深く周囲を観察している。
「何に襲われた! どこにいる!」
僕に聞いているんだろうか?
でも、別に僕は襲われたわけじゃないから何がどこにいるという事もないのだけれど……
「……あっ、いえ。別に襲われたゎ……ゃ……」
だから、僕の声が小さくなったのも仕方の無い事だと思う。
しかし、それは彼女のお気に召さなかったようだ。
「何だ!! ハッキリ言え!!」
「勘違いでした!!!」
彼女はこちらを振り返り、僕に確認するように首を傾げてみせる。
僕はゆっくりと首を立てに振る。
「…………勘違……い?」
「はい」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「…………そうか……」
すると、彼女は気が抜けたのかため息をひとつつき、剣を鞘にしまった。
気まずい雰囲気が二人の間に漂う。
「すまない。どうも私の勘違いだったようだな」
そう言って、こちらに向き直り彼女は謝罪した。
「あっ、いえこちらこそ。勘違いさせるような事を言ってすみませんでした」
彼女は照れくささを隠すように、頬を掻きながら僕に言う。
「あぁ~……。ところで、見た感じお前はこの世界に来た所か?」
彼女の独特な言い回しで、彼女がここ以外の世界(多分僕のいる世界?)を知っている事に気付いた。
「えぇ。それで、少し気が動転してしまったみたいです」
「そうか。まぁ、そんな雰囲気をかもしだしていたからな。この辺りは雑魚しかいないが、たまに大型の化け物が出る。気を付けろ」
「大型の、ですか?」
「あぁ、私もさっき遭遇したが、取り逃がしてしまってな。誰か別の人間を襲ってるんじゃないかと思って勘違いした」
「それで、さっきはあんなに慌てていたんですね?」
「……言うな」
ふいっと顔を逸らす彼女の顔が若干赤くなっている。
照れたのかな?
キツイ印象だったけど、以外とかわいいかもしれない。
恥ずかしさを振り切るように彼女は森の方を指差し言う。
「ここを抜けると町がある。そこに……」
急に言葉を切る彼女。
次の瞬間、収めた剣を再び抜き放つ。
「ちっ! 構えろ。何か来るぞ!」
「え? いや…………えっ!?」
「お前もその腰の一物をみる限り戦士系だろう! さっさとそいつを抜け!!」
腰の……ってあぁこれか!?
「何をしている!」
「ちょっと、まって!」
僕は腰にある剣に手を掛けて引き抜く。
いや、引き抜こうとした。
「ぬ…………ぬけない」
「……なに!?」
後少しで抜けそうなんだけど、僕の手はいっぱいまで伸びきっておりこれ以上前に出ない。
「バカやろう!! 反対の手で鞘を引け!!」
鞘? 鞘って何だ?
あぁ、この入れ物?
「ん~……あっ、抜けた」
「来るぞ!」
僕が剣を引き抜くと同時に森から、鬼に似た巨体が姿を現す。
手には木の棒を持っていて、口からはキバを覗かせている.
……どこかで、見たことあるような?
「ゴブリンか」
「……あぁ。そっかゴブリンだ」
よく、デフォルメされたものをゲームやアニメで見るけど、現実? で見ると気持ち悪いな。
「……気を抜くなよ? ゴブリンと言えども油断すれば命を落とすぞ」
「あっ、はい」
これはチュートリアルの類だろうか?
僕は油断なく構える彼女のマネをして、切っ先をゴブリンに向ける。
「戦闘は初めてか?」
「はい」
「そうか、なら私がやつを引きつけるからその隙に奴に攻撃を加えろ。いいな?」
「えっ!?」
そう言って、彼女はゴブリンに向かって行き一撃を加える。
その攻撃はゴブリンの腕をかする程度だったが、ゴブリンは眼を血走らせながら彼女に無茶苦茶な攻撃を仕掛ける。
その全てを難なく回避する様はまるで、彼女の演舞を見ているみたいだ。
そんな彼女が僕に声をかける。
「おい、何をボケっと見ている! さっさと攻撃を仕掛けろ!」
「……えっ? あ、はい!」
そうだった。
彼女に見惚れている場合じゃなかった。
僕は気合を入れてゴブリンに向かって行った。
結果。
僕たちは10分ほどで、ゴブリンを倒す事が出来た。
倒れたゴブリンはそのまま消滅して後には何も残らなかった。
戦闘の間は無我夢中でほとんど覚えていなかったが、彼女の
「……戦い方は酷かったけど、初めてにしては良くやった方だろう」
という言葉から、だいたいの推測はつくと思う。