第2章:水面に映る女の子
「……ぅ……ぅうん」
頭が痛い。
僕は倒れていた体を起こした。
無理やりお酒を呑まされた次の日みたいに頭が痛い。
目覚めたばかりのせいか、目も霞んで見え難い。
フラフラと立ち上がり、木に身を預ける。
(……………木?)
後ろを見上げると、目に緑が飛び込んできた。
葉の隙間から見える空は明るい。
しかし、その光の殆どを葉が覆い隠している。
近くに川でも流れているのか、水の音も聞こえる。
(……………………どこ、ここ? …………えっと、何があったんだっけ?)
僕は確か……そう。
学校に行ったんだ。
それで、学校から帰る途中でアイスを3つ買って、
田中さん家のポチと遊んで、
妹と姉ちゃんに1つずつアイスを取られて……
(そこから、どうしたっけ?)
思い出そうにも思考に霞が掛かって思い出せない。
……ゲームをしていた……する所? だった気もする。
兎に角、意識をハッキリさせるために顔でも洗おうと、足取り怪しく僕は水の音が聞こえる方に歩き出した。
しばらくもしない内に……というか、すぐそこに川があった。
歩数を数えたとしても、両の手で足りるぐらいの所に川が流れていた。
綺麗な川だ。
ほとんど波打つこともなく、底の浅い川は太陽の光を反射していた。
僕は膝を付き水に手を浸そうと、川を覗き込んむ。
すると、そこに一人の女の子が映っていた。
僕は慌てて後ろを振り返る。
その拍子に僕の髪の毛が一瞬視界を塞ぐ。
(…………?)
そこには誰も居らず、人がいた気配もない。
(……気のせい?)
首を傾げながら、もう一度水面を覗き込むと、またも女の子の姿があった。
再び後ろを振り返るも誰も居ない。
でも、2回も見たのだ。
どこかに居るはず。
僕は、思い切って声に出してみた。
「…………誰? ッ!?」
声が聞こえた。
直ぐ近くから声が聞こえた。
僕は左右を見渡す。
…………誰もいない。
「…………ねぇ、誰? どこに……い、る…………の?」
僕は気付いた。
自らの喉に手を当てて、
「あーー」
と声を出す。
声は近くから聞こえたんじゃなくて、僕がしゃべった声が耳に届いたんだ。
「……喉を痛めた?」
でも、別に喉が痛いわけでも、喉に何かが絡んだ様子もない。
触ってみても、腫れた所は全くなく。
おかしな所など、どこにもなかった。
(ん? あれっ?)
「何か……変だ」
女の子が後ろにいると思って僕は振り返った。
これはおかしな事じゃない。
だって、この川は底が浅いから潜るのは無理だし、水面に映っていたんだから。
(……水面に映ってた?)
何か嫌な予感がする。
振り返った後、僕はその子を見つけられなかった。
視界が一瞬隠れた時にいなくなったのだろうか。
(……一瞬、見えなかっ……た?)
最後に、僕は声を掛けてみた。
でも、喉の調子が悪かった。
喉自体には何の腫れもなく、顎から首の下まで、すっとしていた。
(……腫れてない……)
嫌な予感しかしない。
止せば良いのに僕は、再び水面を覗き込んだ。
長い髪をした可愛い感じの女の子がいる。
じっと、僕をみている。
蒼い瞳をした女の子の姿が映っている。
僕は、手を振ってみた。
女の子は手を振り返してくれている。
女の子が見える。
…………女の子しか、見えない。
僕の姿がそこには、なかった。
思えば、おかしな所だらけだった。
水面に映るのは女の子だけ。
視界を遮ったのは、短く遮るはずもない僕の髪の毛。
首には腫れが……喉仏がない。
再び水面を覗き込む。
女の子がじっとこちらを見ている。
水をバシャバシャと水面に映る女の子消す勢いで掻き乱しても、落ち着きを取り戻した水面に僕の姿はない。
つまり、この女の子は………………………………
「これが……僕?」
僕は、すっと息を吸い込んだ。
「どうなってんの~~!?」
女の子の悲鳴が…………僕の絶叫が辺りに響き渡った。