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人神

作者: 日雀

それはいつからそこにいたのだろうか。私はそれを見たことがあっただろうか。それの顔を見た者はいたのだろうか。私たちはどう認識していただろうか。わからない。なにもわからないが確かに言えること、それを神にしたのは私達だ。


ある子供が言った。「お母さん、あの人ずっと座ってるね。いつも何してるのかな。」「いつも?いつもいるの?」「うん。いつも。」

それが初めて認識された時だった。

ある母親が言った。「あの人いつもいるんですって。気味が悪いわ。」「話しかけても何も答えないらしいわよ。」「動いているところも見たことが無いわね。」

人の噂は広がるのが早かった。

ある子供が言った。「なあ、あいつ気味悪くねぇか?実は死んでたりして!」「嘘だあ。ちゃんと座ってるじゃないか。」「だって、海賊の漫画でも座ったままのガイコツとかでてくるじゃん?…なあ、お前この石あいつに投げてみろよ。」

それは頭に石が当たっても微動だにしなかった。

ある父親が言った。「気味が悪いからあの公園を取り壊す話も出てるそうだぞ。」「ほんとに?でも確かに気味は悪いけれどあの公園、設備がとても豪華で子供の遊び場にはもってこいなのよ…。」「そうなんだよな。気味悪がられてるのになぜか新たに遊具が増えてるよな。」

人は与えられるものに弱かった。

ある子供が言った。「この間の台風大丈夫だった?パパ、仕事だったんでしょ?」「うん、大丈夫だったよ。それよりパパが言ってたんだけどね、あの人台風の日もあそこに座ってたんだって!」「うそ!変なの。…風邪とかひかないのかな。」

雨の日も風の日もそれはそこに存在していた。

ある老人が言った。「それは土地神のような存在なんじゃないか?それだけ気味悪がられても人が寄り付くのならそれぐらいしか考えられんじゃろ。」「いや、父さん。神じゃなくてなにかもっと悪いモノかもしれないじゃないか。」「なら、それに石を投げた子供らは大きな事故に巻き込まれたりしたか?何もなく、健康にいつものように悪さをしてるんじゃろ?」

それの存在を善と受け止めるか、悪と受け止めるか。


あれは神か?あれは災いか?あれは人か?あれはなんだ?あれは、あれは。

人の噂は言霊に。人の心は揺れる。恐ろしいモノか、恐ろしくないモノか。


ある日、自然災害の多いこの国にまた不幸な災害が発生した。震源はこの県から 1番近い海底のプレート。もちろん被害は壮大で、たくさんの死傷者が出た。だが、なぜかこの公園を中心に死傷者が出ず、家屋の崩壊も災害後でもすぐに復旧可能な程度の崩壊で済んでいた。人は絶望の中で希望の光を見つけた。あれだ。あれが護ったのだ。存在していることは知っている。どんな姿かも思い出せないが、その存在は知っている。あれは、あれは。



神だ。



そうして、それは人に神と認識された。皆の認識が一致し祀られ、祠が建てられ、人は前を向く。

また元の姿を取り戻し始めたこの街は、眠りにつくそれを神と崇め、互いに支えあう。あの奇跡を起こしたこの神に心でかえす。子供たちは祠の前で元気に遊び、親たちはそれを眺めて談笑し、老人たちはお供え物を。それぞれが今を生きる姿を神に見せる。


誰もこの神の姿も顔も記憶していないが、私にはこの神のあがった口角が見えるような気がした。


お付き合いありがとうございました。

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