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2.わたし、やる!?

「初めまして。クレコと申します。意地悪な方ですね。いらっしゃるなら、ご返事くださればよいのに♪」


 真っ二つに切り裂かれた愛しの我が家は崩れ落ち、無残にもただの木片の集まりとなった。

 私は崩れおちる間際にハミちゃんを抱えたままベッドから跳んで、声のする方から距離を取った。


 舞い散る砂埃の先には、にっこりと佇む一人の女。

 女は白黒のメイド服を着ており、頭には白いキャップを被っている。ブラウンの瞳で、髪はキャップの中に完全に収まっていて見ることができない。


 その服装と微笑みからはさも『敬愛するご主人様のためにハーブティーを淹れました』と言わんばかりであるが、実際にはエゲつない所業と言葉をぶち込んでくる。


「な、なななななななななななな!」


 一方の私の発言は酷い。目の前のメイドとは違った意味で。

 突然話せなくても仕方ないだろう。

 ほとんど一年間他人と出会わずに、ハミちゃんと暮らしていけたのだから。


「な、な、なん、……なん、ですか、急に……?」


「うわぁ、すごく鮮やかな青髪ですね。お目々もサファイアのように綺麗な青!」


 頑張って絞り出した言葉は当然のようにスルーされる。


 一般的に、魔法の適性は髪に表れ、より強く適性したものは目にも表れるという。

 彼女は私の髪と目を見て、私が水属性の魔法に非常な適性を持っていることを見抜いたのだろう。


「背は可愛らしく小さいですねー。うん、これは期待できますよー。ねえ、ご主人様?」


 メイドがそう言った、その時である。


 ……人の気配を感じた。


 メイドからではない。――真横からである。


「――!」


 その絶句は、家の倒壊の時と比ではない。


 肌が触れ合うほどの至近距離に、女が立っていた。


 背が高い。私の顔は女の胸元にあり、女から見下ろされている。

 見たことがないほどに一色に塗り潰された黒の髪。目の黒はもはや光の反射を許さぬほどに幾層にも塗り重なっているよう。

 死人のように白い肌に、黒革の鎧。腰には二本の剣の鞘。


 後ろ髪は腰に、かきあげた前髪は胸元にまで届いている。右手には抜き身の剣がある。


「あ、あの、、、あのあのあのあのあの!」


「ケケケ、ケケケケケケケケッケケケケケケケッケケ!」


 間近で女が笑った。

 普段の私の呪詛が裸足で逃げてゆくような、純正たる奇声。顔を気持ち悪く歪め、裂けんばかりに口の端を吊り上げて。

 一目で分かる。殺人狂のそれである。


 女の右腕が上がる。私は急いで距離を取る。空気を切り裂く音。躊躇いもなしに、女は私が元いた場所を狙って剣を振るった。


「よいな、よいな! 反応上々。殺しがいのあるやつだ!」


「おおー、ご主人様が喜んでます。ここまで来てよかったですねー!」


 剣を持った殺人狂の女と、その従者。訳がわからない。ただ怖い。逃げたい。


 たまらず叫んだ。


「あ、あの! ど、どうして私を殺そうとするんですか!? 私がなにかしましたか!?」


 キョトンとする二人。


 まず、殺人狂が答えた。至極、殺人狂然として。


「貴様は強そうだから殺す。屈服させ、私の方が強いということを証明した後に、心臓を八つ裂きにする」


 続いて、メイドが答える。これもまた、至極、メイド然として。


「ご主人様のお喜びが、私の喜びですから」


 ……おかしい。同じ言語で話しているはずなのに、会話が成り立たない。


 殺人狂が距離を詰めて、また剣を振るった。私はそれを避けて、抱えているハミちゃんを逃がすように降ろす。


 その様子を楽しげに見ながらメイドが言った。


「でも心当たりは一杯あるんじゃないですか? コココ・ミムヤさん」


 女に向き直る。右手に剣の柄を握るフリをする。フリというのは、実際にはまだ握っていない状態であるからだ。


 魔法の源は信仰であり、活用は想像である。


 ――大いなる創造主。全能の父なる神よ。碧く清らかなる水を御貸しください。


 ああ、久しぶりの……悔しいが、故郷に戻ったような感覚。信仰心を元に魔力を全身に行き渡らせると、先ほどまでのパニックが嘘のように静まる。


「私の名前をどうして知っているのですか?」


「その髪の、目の、青さはあなた以外にいないのですよ。

 帝国の最強の矛たる『ミムヤ』が一人、コココ・ミムヤさん。

 闘争における最高の魔法使いの一人にして、帝国の次代の柱。水の聖霊魔法に最も近き者。

 それともまたの名である『水氷の皇女(すいひょうのみこ)』とでも呼びましょうか」


 柄を握るフリをした右手に魔力が集まってゆく。

 それは水が巡る剣。

 

 手から清流が湧き出た。

 清き水が流れながら柄から刀身に到る形を作る。流れは回り続け、剣の形を成し続ける。


「ケケケケケッケケケ」


 鉄の剣を構えた女が私を見て気味悪く笑う。


 それに対して、私も薄く笑い返してやった。


 うん、分かった。この人らは私をコココ・ミムヤと知った上で襲ってきている。

 部隊にいた時は不意の襲撃はさんざん経験してきたし、そしてその全てで返り討ちにしてきた。


 見てろ。いまに余裕ぶった顔を驚愕と怯えに変えてやる。


 誰に喧嘩を売ったのか教えてやるとばかりに、私は叫んだ。


「こなこなこなぁ!」

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