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13.わたし、ばれる!?

 街道から外れた林の中を三人で進みながら、私は抱いていた違和感を抑えきれずにクレコに聞いた。


「あの人は盗賊の拠点を知っていたのですか?」


 ユタゲはクレコからこの辺りに盗賊がいることを聞くや否や飛び出していった。

 具体的な場所や規模を聞かなくてもはその言葉だけで全てを理解したようであった。


「いえ、でも分かるのですよ、ユタゲ様には。

 魔法ではないですよ。第六感と言いますか、その道だけを見て生きていた方だから感じられることがあるようです」


 その道とはどの道なのだと言いそうになったが、ぐっと我慢した。

 どうせろくでもない返ししかこないだろう。殺人道とか、そんなもの。

 

 暫く草をかき分けながら道なき道を進むと、やがてそれらしき雰囲気が醸し出てきた。

 具体的に言えば、木々に飛び散った赤い血と、新鮮ながらも微かに漂う死臭の臭い……まさに殺人鬼の通った道と言わんばかりである。


「ここの盗賊団は長年に渡って近隣の村や行商人から略奪を行ってきて、まるで領主のような振る舞いをすることもあったとのことですから。

 みて下さい。彼らの装備も真新しいでしょう」


 落ちていた枝で死体をつんつんとつつきながらクレコが言う。

 確かに正規の騎士団と言われれば納得できるほどに盗賊らしかぬ装備である。


「ここからは少し周囲に目を配りながら行こうかの」


 ジルさんがそう呟きながら横目で私を見てくるので、黙って頷く。


 クレコを囲むようにジルさんが先頭に、私が後方につく。


 血に塗られた道。

 歩けばあるくほどに盗賊の死体の数が増えてゆく。

 中には元の形状が分からないほどにぐちゃぐちゃにされたものもある。


「嬢ちゃん、大丈夫かい?」


 惨憺たる状況に気を遣ってか、ジルさんが聞いていた。


「はい、これぐらいであれば問題ないです」


 なんとなくこの程度で心配されることに気恥ずかしい思いをしながら応える。


 その実、私が抱くのは懐かしい感覚である。

 一年以上前にミムヤにいた時は頻繁に見ていた……ともすればその実行者となっていた光景。


 ある種、故郷に帰ってきたような、自分の価値を最も見出してくれる場所に出会たような思いがある。

 

 しばらく進むと、木の上から微かな音が聞こえた。


 瞬時にそちらに目をやる。


 木の陰に妖しい黒い影があった。

 それは気配を殺しながら、すっと腰から短剣を取り出している。

 抑えきれぬ敵意を肌で感じた。


 影の中で銀の煌めが目を射った。


 咄嗟に右手をそちらに向け水の防壁を作り、左手で流水剣を作ろうとした。


 しかし、次の瞬間にはその選択の過ちを理解する。


 今は私には巨大な岩のような奴隷の軛が私の魔力に刺さっていた。

 この状態でいつもの感覚で三人を覆う防壁を作ろうとしたが、実際に込められた魔力は想定より遥かに少なく、一杯のコップで樽を満たそうとしているようなものであった。


 魔力の調整を誤った魔法は、それが過多であった際には暴走し、少なくなった際にはしゅっと火に焙られた水滴のように消えてしまう。

 この時私に起こったのはもちろん後者である。


 ――やばい。

 魔法使いとして生死のやり取りを行っている時に最もやってはならないことをやってしまった。

 魔法の行使が失敗し、結果として無防備な姿をさらすことになった。

 

 敵は右手に構えた短剣を投げようとしてきている。目標はクレコか。

 そうだろう。私とジルさんは明らかにクレコを守っているということが分かる配置にいる。


 仕方ないのでクレコに体当たりをして回避しようとしたとき、――天地を揺るがす音を聞いた。


 “ダン!!”


 鋭い音が耳を刺した。

 音と共にとんでもない衝撃が敵の胸を圧っした。


 私は混乱した。


 仕方がないだろう。

 その音は、その威力は、最強の軍を持つと言われる帝国の中においても滅多に目にするものではなかったのだから。


 掴まっていた木の幹に叩きつけられた敵は、一拍の後に重力に従って地に落ちてきた。


 無防備に落下した敵に近づくジルさん。


 私は固まったまま、彼の背中を見る。

 ジルさんが両手に持っている白い布で覆われた長物は先端から一条の白煙を出している。


「あらぁ、びっくりしましたねー。大分慣れたと思っていましたけど、突然だと、まだ心臓がひゅんってなります」


「クレコさん、あれは……」


「ええ、恐らくコナさんが想像している通りのものですよ」


 落ちきた敵の側には彼が持っていた短剣が転がっている。

 ジルさんはそれを手に取って敵の心臓に突き、とどめを刺した。


 そしてすっとこちらに向き直ると、鋭い視線を浴びせてくる。


「嬢ちゃん、何者だい?」


 そして鉄の塊の丸い先端を、所謂、『銃口』と呼ばれる部分を私に向けてきた。


 命を脅かす脅威を突きつけられた――そう感じた瞬間に、私の体は無意識に動いていた。


 それはミムヤの頃に叩きこまれた戦闘術。

 地べたを這うほどに体を低くし敵から視界から消えると、さらに死角に移動するために斜め前の死角に飛ぶ。

 その頃には手には流水剣が出来上がっており、そのまま敵の首を刈る。


 だが、銃口が私の動きに合わせて流れるようにかけてきている。


 手強い。あれは放たれたら終わり。

 どれほど優れた魔法使いであっても、意識するよりも早く穿つ銃弾の速度と威力に抗することはできない。


 そのため、物理的に射線を遮断するために氷の壁を張る。


「ほう……!」


 唸る声を聞きながら、滑るように壁の横へ移動し、左手に親指ほどの氷の塊を造り、魔力を使ってそれを射出しようとしたとき、


「コココさん、伏せ」 


 まるで体を覆う巨大な手が突然頭上に現れ押しつけられたような、抗えない力が体を地面に叩きつけた。


「うぐぅ」


「はぁ、仲間内で何やっているんですか。……ジルさんも、からかうのはやめてください」


「おう、すみませんね。ちょっとおちょくるつもりだったんじゃが、予想以上の反応で儂も冷や汗をかきましたぞ」


「ちなみに、このままやっていたら勝てましたか?」


「いや、無理じゃろうな。嬢ちゃんの動きに翻弄されっぱなしだったし、何より弾が装填されていなかったからの」


 口の中に入った土を吐き出しながら二人の会話を聞いていて気が付いた。

 そうか。確かにジルさんはすでに銃弾を撃っていて、次弾を装填していなかった。


「まったく……。

 まあ、良い自己紹介になったでしょう。コココさんも落ち着いたら自由にしていいですよ」


 その言葉とともに、見えない力がなくなる。


 立ち上がろうとするとジルさんが近くに来て、手を差し伸べてくる。


「悪かったな、コナ嬢。いや、コココ嬢か。随分と聞いたことのある名前じゃな」


 何か得心した風なジルさんの手を取り立ち上がる。


 クレコの方を見ると、にこっと笑われる。


「そのために、三人にしたのですか」


「コココさんも、驚いたのではないですか? ジルさんの持つ武器に」


「……光魔法の術者が“銃”を持つ者たちに護衛されているなんて聞いたことがありません」


 それは禁忌とされている武器。悪の産物。主への信仰を捨てし者らが持つとされているものである。


「例えばまるで水魔法で近接戦闘ができるぐらい珍しいかの?」


 口を挟んできたジルさんはいつものひょうひょうとした様子に戻っている。


「とりあえず簡単な紹介のし合いはできたことですし、後は次の街についたらお話ししましょうか」


 全くの消化不良であったが、クレコの言葉でまた私たちはユタゲの後を追うのを開始した。

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