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sideサイモン〜こうして私は幸せを手に入れました〜

無事にエミリア様との結婚を終えた初夜。

彼女は初めての事に戸惑い早々に音をあげ、眠っています。

私はそんな彼女の隣にいられる喜びを噛み締めながら、この日までを振り返ります。



先代旦那様と私は今から半世紀前、私が齢6つの頃に出会いました。

領地を持たない名ばかり子爵家から奉公に出された先がグラノール伯爵家だったのです。

年頃の近い私を先代旦那様は大層気に入り、

主従関係は表向き、実態は友人関係というものを築いておりました。

グラノール家の財産と先代旦那様の計らいにより

従僕には勿体無い程の教育も施して頂きましたし、

店の経営にも一部関わらせて貰いました。

地位も執事という使用人筆頭の物を賜りましたし、

今考えても私は恵まれていたと思います。

そして、時が経ち先代旦那様は美しい奥方様を娶りました。

まさしく絵に描いたような幸せ夫婦。

そんなおふたりにお仕え出来る事こそ私の誉れでした。

しかし、私の心が大きく変わる出来事が起きたのです。

それは奥方様が第一子にあたる長女、エミリア様をお産みになった事。

珠のように愛らしい姫君に私の心は一瞬で虜になったのです。

奥方様も先代旦那様もお仕事がお忙しい方でしたし、

そもそも貴族は子育てを乳母に任せます。

当然、エミリア様も例外ではありませんでした。

私はこれ幸いと敢えてあまり熱心ではない乳母を雇い、

その面倒を自分が見る事に成功したのです。

乳母は乳さえ与えておけば充分な給与を支払って貰える。

私はエミリア様の面倒を見られる。

私と乳母はうまく協力し合える関係となっていました。

すくすくと成長されるエミリア様。

幼い頃から美しく、グラノール家の長女という事もあり縁談が絶えません。

無論、その手の話は私が握りつぶしていましたから

先代旦那様のお耳に入る事はありませんでした。

奇跡的に婚約者の一人も持たず、益々美しく成長したお嬢様は

美しいだけでなく、知力も高いご令嬢でした。

天は二物も三物も彼女に与えたのです。

商才豊かな彼女は未成年でありながらも父である先代旦那様のお仕事に携わり、

早いうちから店の従業員達に顔を売っていました。

中には彼女を女の癖に出しゃばっていると悪態をつく不埒な者もいましたが、

彼女のバックには先代旦那様がいらしたのです。

当然そのお声はお嬢様には届きませんでした。

ある日、私は先代旦那様から相談を受けました。

「娘もそろそろ年頃だ。年の近い娘はもっとパーティーに積極的に出ると聞くが

うちの子はパーティーに出るくらいならば店に出るといって話を聞かない。

だから、パーティーで相手を見つけてくる事は無いだろう。

だから、私の知り合いの息子などを宛てがおうと思うのだが、どういうのが良いだろうか?」

その話を聞いて私は頭を殴られたような衝撃を受けました。

私程お嬢様を愛している男はいないでしょう。

なのに、我が親友にして主人たる先代旦那様は私ではなく別の男にお嬢様をくれてやると言うのです。

私はこの時先代旦那様にどのような返答をしたのか覚えてません。

何か言ったのかもしれませんし、言ってないのかもしれません。

しかし、この日から先代旦那様からは距離を置かれてしまい、

長期休暇を取るように言われてしまったのです。

納得のいかない私は休暇中ずっとお嬢様が他所の男に嫁がない方法を考えていました。

そして遂に思いついたのは世にもおぞましい方法でした。

先代旦那様と奥方様がお嬢様の成人に合わせて記念旅行に行かれるという話を乳母から聞いたのです。

彼女はもう乳母ではなくメイドでしたが、

私との協力関係は未だに続いていました。

彼女は仕事の手を抜きたい。

私はお嬢様のお世話をしたい。

それなのに、私が長期休暇などとっていては彼女は仕事を真面目にこなさなくてはならない。

それが嫌だったのでしょう、彼女は私の為に動いてくださいました。

旅行に行く前夜、彼女は私を屋敷に手引きします。

そして旅行に使う馬車にふたりで細工しました。

それが原因でしょう、馬車は横転、そのまま二人は帰らぬ人となったのです。

葬儀の日に泣き崩れるお嬢様を支える私。

彼女は気づいてませんでしたが、元乳母曰く私の顔は笑っていたそうです。

そして先代旦那様が亡くなったどさくさに紛れて執事として復帰、

心置きなくお嬢様のお世話をするようになったのです。

元乳母は仕事をサボれるようになり、給与も上がって大満足。

私もお嬢様のお側に戻れて大満足。

やはり先代旦那様が私達には邪魔だったのです。

先代旦那様は私の主人でしたが、それ以前に親友でもありました。

先代旦那様への忠誠や感謝の気持ち、友情に嘘偽りはございません。

しかし、それでも許せぬ事や譲れない物もあるのです。


しかし、話はそれで終わりません。

爵位と店を継いだお嬢様。

法的には何の問題もないのですが、やはりまだまだ男尊女卑の根強い世の中。

お嬢様を見くびる輩の多い事多い事。

あっという間に店が回らなくなってしまいました。

売り上げがどんどん下がります。

店員の質も一気に下がり、平気で店のお金に手をつける盗人へと成り下がります。

彼らは一様にお嬢様が女であるから悪いと申します。

お嬢様は心優しい方ですから、暫くは悩んでいたと思います。

充分悩んだところで私はお嬢様に提案しました。

「お嬢様、いっそご結婚してはどうでしょう?

貴族の三男坊で旦那様と年が近い男ならば

良い張りぼてとなりましょう。

三男坊など爵位も継げませんし、食い扶持もありません。

おまけにそこまで年を喰っていては、もう嫁の成り手もないでしょう。

きっとお嬢様との結婚に魅力を感じて、飛びついてきます。

ついては良い婿候補を存じておりまして…」

「まあ、流石はサイモン!

素晴らしい案ね…!

そうだわ、確か以前に話をしたマーロン男爵が年を取り過ぎて嫁の来手のない息子がいて困ってると言っていたわ!

早速結婚の打診をしましょう!!!」

「…………」

こうしてお嬢様は私とほぼ同じ条件を持つ男を自力で見つけ結婚してしまったのです。

私は嫉妬で気が狂いそうになりました。

なんの苦労もなくお嬢様を愛してもいないのに、のうのうとお嬢様の隣にいられる彼が憎い!

私は敬愛すべき先代旦那様と奥方様をこの手にかける程にお嬢様を愛しているのに!

何故、あんな婚期を逃して腐り果てた男がお嬢様の夫になれるのでしょう!?

まして、彼女と初夜だなんて…!

聞けば風俗嬢相手に経験があるそうじゃないですか!

私はお嬢様以外の女性に触るなど以ての外と未経験を貫いておりますのに!

私は元乳母に相談しました。

なんぞ初夜を失敗に導ける良い手はないかと。

元乳母はそういう知識に長けていました。

男との遊びを一つの趣味だと豪語していましたから。

彼女はすぐに妙案をくださいました。

そして実行に移します。

大した事はしてません。

男の夕飯に薬を混ぜただけです。

毒ではなくて、性欲減退薬。

その晩、男のソレはお嬢様の前では使い物にならなかったようです。

そしてその話を使用人達の間に一気に触れ回りました。

男は繊細です。

不能という不名誉なレッテルに深く傷つき

二度とお嬢様に触れようとはしませんでした。

それどころか、必要以上の接触を拒むようになったのです。

私は満足しましたがそれでも私以外の男がお嬢様の旦那であり、

主人として頭を下げなくてはならない現状にイラつきます。

そんな中、元乳母は本気の恋に落ちてその男と地元である田舎に引っ越すからと

うちを辞めていきました。

私はその話を聞いて、閃いたのです。

ああ、本当に彼女は私の為になる人でした。

要は、旦那様に本気の恋をして貰えばいいのです。

まずはどんなお嬢様がいいかの選定です。

旦那様は流石売れ残っていただけあり、

あまり人付き合いが得意ではありません。

話しやすい雰囲気をした、それでいてお嬢様とは違い素朴な空気を持つ人が

旦那様にはお似合いな気がします。

ですが、貴族にはそのような人はおりません。

といいますか旦那様と年が釣り合う女性は軒並み売り切れ、

後は再婚希望の中古か、本気で問題の多いご令嬢か。

とてもではありませんが、旦那様には紹介出来ません。

そこで対象を平民に広げました。

そして見つけたのが、ユリアなるお嬢様でした。

ちょっと若過ぎましたがパン屋の看板娘で愛想がよく、素朴な愛らしさがあります。

お嬢様が大輪の薔薇なら、このお嬢様はかすみ草でしょうか?

まあ、充分可愛いですしうちのお嬢様との結婚を承諾した程度には

若い女も好きと思われる旦那様には丁度いいでしょう。

私は旦那様にこのパン屋を紹介します。

予想通り、旦那様にも愛想よく振る舞う彼女を気に入ったようで旦那様はパン屋の常連になりました。

頃合いを見て、それとなく彼がグラノールの店の会長だと伝えました。

その頃からでしょう、彼女の顔と声に甘さが滲むようになったのは。

元々女慣れしていない旦那様は転がるように彼女に落ちていきました。

しかし、予想外に二人の仲はお嬢様にバレません。

旦那様はユリア様との関係を絶対に悟らせないよう努力していたからです。

後はお嬢様の旦那様への無関心もありましたでしょうか。

これでは、お嬢様は旦那様と別れてくれません。

どうしたものかと思っていたら、先にしびれを切らしたのは彼女でした。

それはそうでしょう。

旦那様が彼女を本気で愛しているように、

彼女もまた旦那様を本気で愛していたのですから。

当然お嬢様の存在が疎ましくなります。

そしてあの手紙へと繋がったのです。

あとはトントン拍子に事は進み、漸く私はお嬢様を手に入れました。

ここまでくれば、あと少し。

男としてお嬢様を喜ばしつつ、なんとしてでも男の子をもうけなくてはなりません。

何せ私とお嬢様との年齢差実に36。

確実に私の方が先に死にます。

私の死後、もし男の子がいなければ、お嬢様は店の為にとまた再婚してしまうでしょう。

世の中がそれまでに男尊女卑の考えから脱却していれば良いですが期待は出来ません。

だからこそ男の跡取りが必要なのです。

跡取りがいれば、他所の男はお嬢様に近づかないでしょう。

自分の子供がグラノールを継げる芽がないのですからお嬢様と結婚するメリットがありません。

それに立派な男の後継がいれば、お嬢様も無理に夫を作る必要ありませんしね。

ですから

「頑張りますね、お嬢様」

私はお嬢様の頬にキスをしました。

私が死んでも私は貴方を手放しません。


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[一言] 成人してすぐ結婚して5年後 離婚して36歳年上の執事と再婚 「完全に新品」のアラウンド還暦ペドフィリアお爺ちゃんはなかなかのおぞましさだけど、ヒロインはなぜアラカンDTであることにキュンきて…
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