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ブランクアームズ ‐隻創の鎧‐  作者: 秋久 麻衣
第十三話 -灰と白-
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激突


 誰の邪魔も入らないだろう静かな場所で、金と銀は……白と灰は出会う。

 打ち捨てられた倉庫が並ぶ中、ナンバー08(ゼロエイト)は少女と共に待っていた。刻限は昼過ぎ、真上に位置する太陽が、少しだけ傾いた頃合いだ。

 その時間は、どうしても一緒に行ったファミレスを思い出す。笑おうとしてやはり笑う気分にはなれず、片羽(かたは)(ゆい)は黙ったままゼロエイトに対峙した。隣にはリンがいたが、表情はいつもと変わらない。道中でもそうだ。相手がゼロエイトでもアロガントでも、リンはいつも通り冷静だった。

 銀色少女はいつもと変わらない。だが、その赤い目はいつも以上に鋭い。警戒している、という訳ではないだろう。目の前の相手が、強敵だと知っているが故の鋭さ……それでも退く気はないという鋭さだ。

 対する金色、ゼロエイト側も特別変わった様子はない。金髪の青年、ゼロエイトは真っ直ぐにこちらを見据えている。長い前髪によって右目は完全に隠れていたが。左目に宿った意思は、視線同様ひたすらに真っ直ぐだ。

 金色少女、ゼロエイトの小さい方は、不機嫌そうだったが故にいつも通りだ。一度だけ目が合うも、すぐにそっぽを向いてしまう。短い間だったが、その目は雄弁に彼女の意思を伝えてきた。ほら、結局こうなったじゃないか、と。

「申し出通りの来訪、感謝する。これから叩きのめすことに関しての謝罪もしたい所だが、それは終わってからの予定だ。実際、どうなるかは未知数だからな」

 生真面目なゼロエイトの言葉に、唯はくすりと笑う。

「てっきり自信満々かと思ってた。九割方そっちの勝ちじゃない?」

 唯の返答に、ゼロエイトは頷く。しかし、肯定しながらもその眼光は鋭さを増した。

「その計算は正しい。だが、唯の一割は一割と思わない方がいい」

 冗談の類かと思ったが、その目を見るに本気で言っているようだった。唯は笑い飛ばそうとしたが、結局出たのは溜息だけ。迷いはない、あれば負ける。だが、それでも。こうして話せる相手と、本気で戦わないといけないなんて。

「それ、数字バグってない?」

「バグらせている本人が言うのか?」

 何気ないやり取り、軽口の応酬を経て、唯とゼロエイトは互いに笑う。唯の笑顔は苦しげであり、ゼロエイトは無表情だったが。確かに二人とも笑っていた。

 ゼロエイトが目を閉じ、次いでゆっくりと開く。

「……叶うかどうかはそちら次第だが。俺は全力で戦う。そうしなければ課題(タスク)を実行出来ないという以上に、俺は君と死力を尽くして闘いたい」

 ゼロエイトの右手が前に突き出される。そこに握られているのは、左腕型アームドレイターだ。

「俺は……片羽(かたは)(ゆい)、君という人間に勝ってみたい。そう強く思う」

 唯は目を伏せ、一本しか残っていない左手を見る。

「過大評価だよ。俺はそんな大した存在じゃない」

「評価はいつだって他人が決めるものだ」

 実験体であるゼロエイトらしい物言いだ。だが、どうしようもなく正しい言葉でもある。

 唯は顔を上げ、ゼロエイトに倣って左手を前に突き出す。そこに握られているのは、右腕型アームドレイターだ。

「俺は勝ち負けなんてどうでもいい。でも、俺が勝たなきゃこの先どうにもならないってことは分かってる」

 勝利を望んでいる訳ではない。だが、ここで負ければ何も出来ないままだ。誰かの日常を守るといったリンを助けることも、窮地を救ってくれたゼロエイトを解放することも、何一つ出来やしない。

 だから結果として勝つ。勝たなければいけないのだ。

「勝負だ、ゼロエイト」

「それでこそだ、唯」

 唯とゼロエイトは同時に動いた。右腕型アームドレイターと左腕型アームドレイターが、それぞれの右肩と左肩に装着される。

Connected(コネクテッド) Arm(アーム)

 唯は左手でレリクト・シェルを掴み、右腕型アームドレイターのスリットに押し込むようにして装填する。

 ゼロエイトは右手で左腕型アームドレイターのボルトハンドルを後退させ、解放されたチャンバーに直接レリクト・バレットを装填した。

 唯が右腕型アームドレイターのフォアエンドをスライドした時に、ゼロエイトもまた左腕型アームドレイターのボルトハンドルを前進させていた。右腕には灰が、左腕には白の光が集約していく。

 銀と金の少女が一歩前に出る。

 銀色少女、リンは唯の方を振り返るようにして右手を出す。唯はリンとハイタッチを交わし、右義手に彼女を取り込む。   

 金色少女は振り返らず、その碧眼がじっと唯を見る。ゼロエイトは彼女の頭を握り潰すようにして、左義手に少女を取り込んだ。

Archi(アーキ)Relics(レリクス)......』

 唯は灰色の光を纏った右義手を、極限まで後ろに引き絞る。

『......《blank(ブランク)》』

 ゼロエイトは白い光を纏った左義手の拳を、顔の前で限界まで握り締める。

『......《Armored(アーマード)》』

 引き絞られる拳と、握り締められる拳……それぞれの義手が金切り声を上げる程、力を伴って構えられた拳達は、撃発の瞬間を今か今かと待っている。

 唯とゼロエイトの視線が交わった。唯は歯を食いしばり、ゼロエイトは小さく頷く。それが契機となった。

「フェイズ!」

「フェイズ……」

 義手を覆う光が躍動する。

『オン!』

 唯は右の拳を解放、その場で全力のストレートを放った。

 ゼロエイトは左の拳を開き、全てを振り払う勢いで義手を左背面に振り抜く。

Phase(フェイズ)On(オン)......Folding(フォールディング)Up(アップ)......』

 解放された光が、レリクトが瞬く間にそれぞれの外装を形成する。

 唯は右義手を中心に、ゼロエイトは左義手を中心に、灰色の軽装と白の重装が組み上がっていく。

 唯の突き出した右の拳が、反動で跳ね上がる。その勢いを全身で受け流しながら、真っ赤なツインアイが正面を見据える。

『......《blank(ブランク)Relics(レリクス)

 ゼロエイトが背面に振り抜いた左義手を、自身の正面に戻す。反動と同時に行ったその動作によって、白の重装は他に動く必要すらなかった。黄色のバイザーがゆっくりと、だが確実に正面を射貫く。

『......《Armored(アーマード)Relics(レリクス)

 唯とリンは《ブランク》レリクスへ、ゼロエイト達は《アーマード》レリクスとなった。外装を纏った今、互いの表情を見る事は叶わない。

 《ブランク》は右義手と右足を僅かに引き、ボクシングの構えを取る。

 《アーマード》は構えることなく構え、堂々と背筋を伸ばす。

 戦力差は未だ埋まらず、敗色は濃厚……だが負けられない。

「……やるだけやってやる!」

 小細工も何もない。《ブランク》はステップを三度踏んで加速、初めて対峙したあの時のように、渾身の右ストレートを《アーマード》へ振り抜いた。

 あの時とは何もかも違う。心構えも、拳の勢いも。だが、それ故に《アーマード》もあの時とは違う動きをした。

 《アーマード》の左義手が動き、《ブランク》の右ストレートを受け止めたのだ。衝撃が二騎の間で走り、地面にヒビが入る。

「……では、課題(タスク)を開始する」

 ゼロエイトの宣言、それを裏付けるように、《アーマード》は受け止めた《ブランク》の拳を払うと左義手で掌底を放った。

 《ブランク》の反応は速い。両腕をクロスし、掌底を受けると同時に後退、威力を完全に殺して距離を空けた。

 あの時とは何もかも違う。互いの認識を改め、どちらからともなく距離を詰める。

 戦いが始まったのだ。本当の闘いが。

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