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ブランクアームズ ‐隻創の鎧‐  作者: 秋久 麻衣
第一話 -空白の鎧-
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傲慢を穿つ


 覚悟を決めたのは、《ギアスパーク》アロガントも同じだった。四肢の歯車をがちがちと回転させながら、吹き飛ばされた分だけ突進してくる。

 唯とリーンドールは……《ブランク》レリクスは再度拳を叩き込むべく右腕を振り抜く。

 理想的なストレートは、しかし両腕をクロスさせて防ぎに入ったアロガントを吹き飛ばせなかった。《ギアスパーク》アロガントは両腕を開きながら、《ブランク》レリクスを押しやる。そして、四肢に乱立する歯車を高速回転させ、電撃と共に振り下ろしてきた。

 その一撃を、《ブランク》レリクスは前進し脇をすり抜けるようにして躱す。そして、振り向き様に左の拳でフックをかました。

 胴を殴られた《ギアスパーク》アロガントは、体勢を一瞬崩すもすぐに跳ね飛ぶようにして距離を取った。その為、追撃の為に振っていた右のアッパーは空を切るのみだ。

「こんなに、動けるなんて」

 唯は肩で息をしながら、今までの短い攻防を振り返る。無我夢中で動いたのは確かだが、それにしたって鮮やかだ。

「私の戦闘経験を使ってるの。基本的な格闘術は習得しているから。貴方は殴り合いの喧嘩をするタイプじゃなさそうだし」

 リーンドールがしれっと答えを言う。頭の中に、自分とは違う知識がある。そのことを強く意識すれば、自ずとどうするべきか分かってくるのだ。

「コアを……胴体の奥にある、元々頭だった部位。そこを破壊しない限り、アロガントは止まらない」

 唯は導き出した答えを口に出す。アロガントが元々人間だったこと、その頭部が変異し胴体に格納されていること。肋骨や心臓と一体になり、通常兵器では破壊困難な程強固だということが、知らないのに分かるのだ。

「ええ。レリクト技術を自己進化によって発展させたアロガントは、普通に戦っていたら倒せない」

「だから、これか!」

 唯は自身の右腕を……《ブランク》レリクスの右腕を前に突き出す。その前腕上部には、散弾銃のフォアエンドに酷似した機構が備わっていた。いや、これは実際に同じような物なのだ。この機構で、排莢と装填をする。

 この義手、アームドレイターには四発の弾が込められている。一発は外装形成に使った。だが、こいつの力はそれだけじゃない。

 《ブランク》レリクスは左手を右腕のフォアエンドに添える。そして、力を込めてそれをスライドさせた。後方に引いた時に空薬莢が排出され、前方に戻した時に新たな弾丸が右手に込められる。

 強く右の拳を握り締めていく。開放されつつあるエネルギーの奔流が、灰色の光となって右腕を迸る。

 右腕を後方に引き、姿勢を低くする。膨大なエネルギーを、喰らう甲斐のある獲物と見なしたのか。《ギアスパーク》アロガントが両腕で地面を何度も叩く。

 そして、《ギアスパーク》アロガントはそのままの勢いで突進を始めた。四肢に乱立する歯車は甲高い音を上げて回転し続けている。

 《ブランク》レリクスは動かない。右腕を引いたまま、ただその一瞬だけを見据える。

 《ギアスパーク》アロガントは飛び上がりつつ四肢を開き、こちらを包み込もうと降下を始めた。

 あの歯車が鎧すら砕き、電撃が中身を焼き、奥に控えた牙が命を噛み千切る。だから、狙うとしたらその一瞬のみ。

 《ギアスパーク》アロガントが着弾するその数瞬前に、《ブランク》レリクスは右の拳を天に突き上げた。拳はアロガントの牙を砕きながら胴を打ち据え、次いで右手中指の付け根にある銃口から圧縮されたエネルギーの塊が放出される。

devastate(デバステイト)

 補助音声が簡潔な報告を発する。殴打と同時の撃発、その一撃はアロガントの胴に大穴を空けた。それだけでは留まらず、灰色の光は《ギアスパーク》アロガントの全身を走り、その身体を内側から炸裂させた。

 撃発と炸裂、二つの衝撃をもろに受け、《ブランク》レリクスの外装全体にヒビが入る。

 拳を天に突き上げた体勢のまま、《ブランク》レリクスの外装が崩れては灰色の光に変わっていく。一つ崩れてしまえば、後はあっと言う間だ。ばらばらと外装は剥がれ落ち、半ばほど砕けてから完全に光となって消えた。

 唯は右腕を降ろす。その義手から……アームドレイターから光が瞬き、ボディスーツ姿のリーンドールが元の姿で地に足を付ける。元の姿と言っても、着ていたパーカーやショートパンツ、腰にあった装備などは綺麗に消えていた。

「レリクト由来の物以外は、全部消えるのね」

 銀色の長髪を結わいていた髪留めも消えており、腰まで届く髪が風になびく。

 唯は左手で再び動かなくなった右腕、アームドレイターに触れる。さっきまで、ここにリーンドールがいたのだ。

 一つになっていた時には分かっていたことが、今はもう朧気になっている。だが、それでも憶えていることがあった。

「……リン」

 そう、唯はリーンドールの目を見て呼び掛けた。

 リーンドールは、小首を傾げて何事かと目で問う。

「好きに、呼べって。でも、リーンドールは長いし……そう呼んでる奴等の目線は好きじゃないし」

 世界が回っている。そう唯は目の前の光景を形容した。視界が歪み、立っていられなくて片膝を付く。追い出した筈の眠気が、意識を刈り取ろうと鎌を振り上げている。

 リーンドール、人形、小さくてかわいいお人形……あの名前には、そういった意味が込められていた。彼女の目で、自分もその視線達を見たのだ。

 だから、リーンドールとは呼びたくない。そしてだからこそ、その名前には別の意味が込められるべきだと思った。

「凜として……だから、リン」

 そこまで言い切ってから唯は目を閉じ、ゆっくりと脱力していくように床へ伏していく。聞きたい事も恨み節も沢山あった筈なのに、一番最初に頭に浮かんだのがこれだ。

 その名前を否定し、新たな名前に置き換える。少なくとも、今の自分の意思はきっとそれだった。

「……変わってるのね、貴方」

 朦朧とした意識の中、唯の耳にはそんな言葉が届く。随分な言い様だが、その声は先程までとは違い、どこか温度を感じられる。

 その温度が最後の一押しとなり、唯は意識を失った。


 次回予告


 片羽唯は右腕を失い、今までの人生をも失うことになった。

 信頼するには胡散臭いドクター・フェイス。パートナーというには塩対応なリーンドールことリン。そんな二人と街を襲う脅威、そしてその中心にいる‘プラトー’について話を聞くが、それはそれで状況に流されているなと感じる唯なのだった。


「私、これでも優しくしてる方だけど?」

「俺、腕を食い千切られてるんだけど?」


 ブランクアームズ第二話

 -世界の裏側-

 お楽しみに!

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