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ブランクアームズ ‐隻創の鎧‐  作者: 秋久 麻衣
第七話 -正義に潜む憎悪-
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血濡れたコネクション


 前回までのブランクアームズ


 普通よりちょっと無気力寄りだけど何かとツッコミがちな高校二年生、片羽(かたは)(ゆい)は右腕を化け物に食い千切られてしまった。日常は傾き、アームドレイターと呼ばれる義手を用い、銀色少女……リンと共に戦う道を歩む。

 異形の化け物、アロガントの攻勢は次の段階へと移行した。唯とリンはナンバー08(ゼロエイト)の(アーマード)レリクスと共闘し、巨大化したアロガントと戦う。

 それでも尚苦戦を強いられるが、鈴城(すずしろ)(みどり)狗月(いぬつき)(ひかる)の《アールディア》レリクスが参戦することによって、アロガントを撃破することに成功した。









 モニターには様々なデータが表示されていた。自分が理解していればそれでいいのか、そのデータは省略して記され、それ故に莫大な量に膨れ上がっている。何も知らない者が見れば、それはただのアルファベットと数字の羅列である。そして、何かを知る者が見れば、それが途方もない程の情報であると気付くだろう。

 そう気付くことは出来る。しかし、それを読み解ける者はいない。未来が広がっている以上、今はいない、と表現した方が正しいだろうが。

 そんな暗号めいたレポートの作者、ドクター・フェイスは自身の研究室でキーボードを叩いていた。モニターには今尚、アルファベットと数字の羅列が出力されている。

 ドクター・フェイスは痩せ形の男性であり、見た目だけなら若く見える。だが、その年齢を正確に把握している者はいない。

「アロガントは着実にその在り方を変えている。進化といっても過言ではない。レリクトの持つ特性がそうさせているんだ。プラトーでは、未だにレリクトの特性を強化と定義しているのかい?」

 ドクター・フェイスは、キーボードを叩きながらそう問い掛ける。相手はいない。しかし、手元に置いてある携帯端末から、聞き飽きたと言いたげな溜息が聞こえてきた。

『あのさあ。何度も言っているように、どっちだって良いんだよそんなのは。プラトーはレリクトを使えるようにして、世間様やスポンサー様や私達に、お金や次の研究材料をくれるだけの仕組みなんだから。言葉遊びは相変わらずなんだなお前はさあ』

 携帯端末から響く声は女性のものだった。ビデオ通話が繋がっているのか、端末には機嫌が悪そうな白衣姿の女性が映っている。

「遊びは大事だろう? 何より楽しい」

『私は楽しくないね。こうやってお前に進捗を聞かなきゃいけない。裏切り者のお前にだぞ? 楽しくない。楽しくないねえ』

 ドクター・フェイスは、珍しく声を出して笑った。

「面白くない、の間違いじゃないのかな? 嫉妬はしなくてもいいよ。君が思う程、僕は自由に動けていないからね。むしろ僕は君の方こそ羨ましいよ。研究、金、研究。それだけ考えていれば満足出来る。僕もそれだけ分かりやすかったら、プラトーでみんなと仲良く、未来永劫楽しんでいられたのにね」

 女性が舌打ちを返す。その目には明確な嫉妬と敵意が込められていたが、生憎ドクター・フェイスはそちらを見ようともしていなかった。

『お前がただの裏切り者なら、処分してそれで終いだったんだ。くそ』

「それは君の感情論だろう、ドクター・セシル。僕に恨みをぶつけて、それが研究と金になるのかい? もっと建設的な話がしたいものだね」

 再度舌打ちを返しながら女性は……ドクター・セシルは右目をがりがりと引っ掻く。瞳が機械的な光を放ち、それが義眼であることを示していた。

『レリクト研究は思うように進んでいない。けど、それはお前も同じだ。お前の擁するレリクスは随分と弱い』

「早計だね。まあ、僕もそう思っていたけど。レリクトは進化を促すんだ。オペレーターである片羽(かたは)(ゆい)はただの一般人であり、戦闘訓練もしていなければ特殊な因子もない。ガイドであるリーンドールは、高いレリクト適性を有しているが因子が破損している。二人の《ブランク》レリクスは、君の言うように弱い」

 ドクター・フェイスはモニターから視線を外し、端末の向こうにいるドクター・セシルへと笑いかける。

「だが、進化の片鱗は見えている。これこそ僕が探していた現象かも知れない。プラトーの中では、決して見ることの出来なかった状況だ。裏切って良かった」

『プラトーに出来ないと? それこそ早計じゃないか』

「いいや。進化は計算の枠外で起こる。プラトーの中では、枠外なんてイレギュラーはそもそも許容されない。君のレリクスを見れば分かる。《アーマード》は完璧な仕上がりだ。だが進化の余地はない」

 ドクター・セシルは鼻で笑い、自身の右目に爪を突き立てる。

『そも進化の必要なんかない。プラトーや私が殺すなと指示しているからこそ、《ブランク》レリクスは存在していられる。それを忘れないでくれよ』

「そうなのかい? じゃあこれからも気を付けてくれ。唯くんとリーンドールは貴重な存在だ。君は与えられた仕事をするのは得意だったからね。その点は期待しているよ」

 ドクター・セシルは舌打ちを返し、ドクター・フェイスは再度モニターに視線を戻す。

『裏切り者はお前以外にもいた。鈴城(すずしろ)(みどり)狗月(いぬつき)(ひかる)から、話は聞いているんじゃないか?』

「レッグドネイター、完成度の高いレリクトデバイスだ。《アールディア》レリクスの戦闘水準はかなり高いね。あの巨大化したアロガントを、撃破するだけの出力がある。今回欲しいのは《アールディア》のデータかい? 意外だな、とっくに回収済かと思っていたのに」

『回収済だが、お前からも提供して貰う。私は用心深いんだよねえ』

 ドクター・フェイスはモニターに別のウインドウを形成し、ファイルをその中に放り込む。

「ダブルチェックかい? そんなことしなくても、自分で証明していった方が早いと思うんだけど。まあいいや、鈴城緑から提供されたデータだけあげよう。僕が書き足した奴は、そもそも読めないだろう?」

 ドクター・フェイスは操作を続け、データの送信を完了させる。

『裏切り者は死んだ。お前も気を付けた方がいいぞ』

「物騒な鴉かい? あれ、僕はあんまり知らないんだよね。データくれる?」

『はあ? 裏切り者に渡す物なんかないねえ』

 そう言い放つと、ドクター・セシルからの通話は途絶えた。ドクター・フェイスは困ったような笑顔を見せるが、その目は依然としてモニターを捉えたままだ。

「あの鴉、僕に対しての対抗手段でもあるのか。嫌だなあ」

 そう言いながらも、ドクター・フェイスの口角は自然と上がっていく。

「まあ、今すぐって感じでもなさそうだし。実地で見られるって考えれば悪くはないのかも」

 どこか他人事のように呟きながら、ドクター・フェイスは研究を続行した。

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