重装の内側
遠く離れた場所で、《アーマード》レリクスは左腕型アームドレイターを外した。
ナンバー08と呼称される青年が、取り外した左腕に視線を落とす。その傍らに、08用備品と呼称される少女が姿を取り戻した。金髪駅眼の少女は、地面に座り込むと荒い呼吸を繰り返す。
「すまないな。最後の一撃を凌ぐ際に、君に負担を掛け過ぎた」
謝罪するものの、青年は相変わらず無表情のままだった。
少女は睨むようにして青年を見上げる。
「……こんなの、テスト段階でも感じなかった。ずっとあんた、あたしを」
青年は、少し罰が悪そうな顔をして目線を逸らす。少女は歯噛みしながら、込み上げる感情を押し殺す。少女は今まで戦っていて、負荷らしい負荷を感じたことはなかった。
だが、レリクスとして戦う以上負荷は必ず掛かる。自分が感じていなかったという事は、きっと。
少女はそれ以上言及しない。それをしてしまえば、自分がより一層情けなくなると知っているからだ。
「ご自慢の、課題とやらはいいの? 従順だけが取り柄のあんたが、命令に背くなんて」
少女はこれまでそうしてきたように、全ての感情を攻撃に傾けた。少女が身に着けた数少ない処世術であり、護身術だ。
「背いたという意識はない。総合的に判断し撤退した」
言葉のナイフを突き立てるも、青年の心臓には届かない。少女が足に力を入れた時、青年は手を差し伸べる。しかし、少女はその手を無視して立ち上がった。
「ふむ、本の通りにはいかないか」
青年の言葉に、少女は深い溜息を吐く。何を言っても、何を突き立てても動じない。怒りが過ぎ去り、呆れに変わっていったのだ。
「ヒロインが欲しいなら他の女を探したら? あたしは、あんたのごっこ遊びに付き合ったりしない」
少女がそう突っぱねるも、青年はふむと考え込む。
「そういった役割の登場人物は、往々にして強く可憐であると描写されることが多い。君を除くと、俺の身の回りには見掛けない人物像だ」
青年の導き出した結論を、少女は鼻で嗤う。
「口説き文句にしたってくだらない」
「事実を言ったまでだが」
「うるさい馬鹿」
罵倒を返しつつ、少女はもう一度溜息をこしらえる。本を読んでから、この男は以前にも増して厄介になった。
「……話が通じる人と話したい」
「呼んだか?」
「呼んで、ない!」
そう叫ぶと、少女は青年の脇腹をグーで殴った。
次回予告
唯とリンは《ブレイド》レリクスを駆使し、《アーマード》レリクスと互角に戦った。
度重なる戦闘や、金髪コンビとの出会いによって、唯の中でプラトーに関する疑問が大きくなっていく。ドクター・フェイスの知り得る情報とは如何に。
そんな中、ドクター・フェイスを訪ねる新たな人物が現れる。
そしてそれを狩る鴉も、宵闇から姿を見せる。
「誰か訪問してくる云々よりも、リンがパンツ一枚で対応しそうなのが恐い」
「貴方、私を何だと思ってるの」
ブランクアームズ第五話
-車椅子と鴉-
お楽しみに!




