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ブランクアームズ ‐隻創の鎧‐  作者: 秋久 麻衣
第四話 -新たな刃-
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共闘


 車に乗り込み、片羽唯はリンと合流する。あれだけのアルコールを流し込んでいたのに、リンに変わった様子は見て取れない。

 自動運転は飲酒運転に入るのだろうかと唯は考えながら、先程まで会話していた二人のことをリンに話す。

 一通り話し終えると、リンは口元を不機嫌そうに歪める。

「その場で命令が下っていれば、貴方に命はなかったわ。ブザー渡したでしょ、何で使わないの!」

「いや、だって。あ、でも。ちゃんと距離は取ってた。何かあっても大丈夫なように」

「一桁台の実験体は優秀だって言ったでしょ。何かあったら、もう手遅れってことよ」

 リンの怒りや不安はもっともだが。それでも、唯はもう遅いのだと溜息を吐く。二人と知り合い、話してしまった。他人だと割り切れる気分ではない。

「それで、アロガントが出たらしいけど。その場には多分、あの二人もいる。遠くから様子を見るとか、そういうので何とかならないかな?」

 言外に戦いたくないと唯は伝える。怒られるかもと思ったが、予想に反してリンは笑みを浮かべた。

「かち合わなければ戦わずに済むし、あの二人がアロガントを倒してしまえばそれでいい。一理あるけどね。ちょっと気になることがあるのよ」

 二人に関しての事だろうか。そう思い唯はリンの目を見るも、彼女は首を横に振る。

「前回、アロガントは私達を奇襲し、危うい所まで追い込んだ。《ブランク》レリクスは不完全なレリクス、最大出力時のパワーは目を見張るものがあるけど、それに耐えられるだけの装甲もない。その分軽いから足が速いんだけど」

 あの二人が変身した《アーマード》レリクスは、完成品というだけあってかなり頑丈だった。

「要するに、機動力を封じられると私達にとってはかなり不利なのよ。アロガントはそこを突いてきた。計算外の戦力……《アーマード》レリクスがいなければ、倒されていたかも知れない」

 リンの言葉に頷きながら、唯は思い付いた単語を放つ。

「学習、対策。アロガントがそういうことをしてるってこと?」

「そう仮定すると、アロガントは《アーマード》レリクスに対しても同じ事をする。かも知れない」

 リンの言葉は、二人を心配しているようにも聞こえる。こちらの考えていることを読み取ったのか、リンは首を横に振って嗤った。

「アロガントに捕食でもされたら面倒だからよ。私に守れる物は限られてる。プラトーの実験体は救えない」

 まるで自分に言い聞かせているような発言だった。救わないではなく、救う事が出来ないと。

 車が止まる。封鎖された児童公園……周囲には槍で付けられただろう裂傷と、飛び散り炎を上げるアロガントの破片が見えた。

「着いたわ。もう終わっているみたいね」

 そう言ってリンは車から降りる。それに倣い、唯も車を降りて後を追う。

 爆心地には、例の二人が立っていた。金髪長身、白のコートを着た左腕がない青年に、金髪駅眼、白のボディスーツに白のジャケットを着た少女だ。

 ナンバー08(ゼロエイト)と呼ばれるその二人は、唯とリンの姿を見ると一様に顔をしかめた。少女に至っては深く溜息を吐いている。

「こうなっては仕方がないか」

 青年は呟き、左腕を模したアームドレイターを右手で構える。

 しかし、リンは一歩近付く。

「手段は不明、でもアロガントは学習してる。私達に対抗するような変異を発生させ、誘き寄せた上で奇襲してきた。今回はどうだったの?」

 青年は手を止め、首を横に振る。

「ステージ3の個体が二体。造作もなかった。学習しているようには思えないが」

 リンは鼻で笑い、青年に指を差す。

「それで学習してるのよ。貴方達のやり口を、二体のアロガントをけしかける事で推し量る。近い内に、対策を施したアロガントが襲い掛かってくるかも。私はそれを伝えに来たの」

 青年は目を伏せ、じっと考えている。だが、はっとなって地面を見る。

 それと同時に地響きが鳴り始めた。

「なるほど、仮定に過ぎないと考えていたが」

 青年は少女を小脇に抱え、その場を飛び退く。次の瞬間、地面が砕け中からアロガントが飛び出して来た。両腕両足に、掘削用のドリルが不揃いに生えている。

「近い内ではなく、今来たようだ」

 青年は左腕型アームドレイターを装着し、素早い手付きでボルトハンドルを後退、レリクト・バレットをチャンバーに一発込めてボルトハンドルを前進、装填を完了させる。

Connected(コネクテッド) Arm(アーム)

 青年はアームドレイターで少女を掴む。白い光となった少女は、青年の左腕に……アームドレイターに取り込まれていった。

Archi(アーキ)Relics(レリクス)......《Armored(アーマード)》』

「フェイズ……オン」

 青年は左腕を振り抜き、迫るアロガントを振り払うようにして押し退ける。そのまま手を開き、手首にある銃口から白い光が発せられた。

Phase(フェイズ)On(オン)......Folding(フォールディング)Up(アップ)......』

 白い光が外装を展開し、その上から更に重装を形成する。純白の鎧が組み上がったと同時に、左腕が反動で前に跳ねた。

『....《Armored(アーマード)Relics(レリクス)

 その左腕を胸の前で強引に止め、《アーマード》レリクスは振り返るようにして背後に迫るもう一体のアロガントを吹き飛ばした。《アーマード》レリクスの左手には騎槍が握られており、あれで斬り付けたのだと分かる。

「ふむ。どちらも硬いか」

 起き上がったアロガント二体は、《アーマード》レリクスを囲うようにして周囲を歩いている。硬いと表したゼロエイトの感想は正しい。

「あれ、どっちも硬質化してるわ。地面を突き破った方は《スチールドリル》アロガント。後ろから忍び寄ってきたのは《スチールバイス》アロガント……あの四肢、万力ね」

「重装甲を無理矢理破壊するって感じ?」

 唯の問いに、リンは頷く。

「見た所、《アーマード》レリクスは足が遅いわ。万力で押し潰すなり、ドリルで削り取るなり。対策してると考えても良さそうね」

 ならば、ここで見ているだけとはいかない。唯は右腕型アームドレイターを左手で構える。本当に戦うのかと目で聞いてくるリンに、唯は口元を緩める。

「食べられたら困るんでしょ」

「まあ、そう言ったわね」

 リンも笑みを浮かべ、レリクト・シェルを指で直上に弾く。

Connected(コネクテッド) Arm(アーム)

 唯は右腕を装着し、落ちてきたレリクト・シェルを左手で掴む。それを右腕型アームドレイターに押し込み、フォアエンドをスライドし装填する。

 リンとハイタッチをし、灰色の光へと変換されたリンが腕の中に入っていく。

Archi(アーキ)Relics(レリクス)......《blank(ブランク)》』

「フェイズ・オン!」

 始動キーを叫びながら、唯は右ストレートをかます。

Phase(フェイズ)On(オン)......Folding(フォールディング)Up(アップ)......』

 灰色の光が身体を包み、瞬く間に外装を形成した。

 右腕が反動で跳ね上がり、それを姿勢を変えることで吸収する。

『....《blank(ブランク)Relics(レリクス)

 拳を構え直し、《ブランク》レリクスは戦場へと踏み込む。《アーマード》レリクスは、《スチールドリル》アロガントを相手取っている。その後ろから、また万力野郎が近付いていた。

 戦場を駆ける《ブランク》レリクスは、飛び膝蹴りを《スチールバイス》アロガントに食らわせて押し倒す。飛び退いた《ブランク》レリクスは《アーマード》レリクスと背中合わせになり、互いの相手を見据える。

「理解に苦しむ。苦境に飛び込んでくるとは」

「君の読んでる本には、そういう奴は出て来なかった?」

 会話もそこそこに、弾かれるようにして《ブランク》レリクスと《アーマード》レリクスは前に出る。《ブランク》は拳を、《アーマード》は槍をそれぞれ前方にいる相手に叩き込んで押しやった。

「出て来たが死んだ」

「縁起が悪すぎる」

 《ブランク》レリクスは右手を振り抜くようにしてバレルフェイザーを起動、折れた長剣、ブロークンソードを形成して逆手に握り込む。スタイルはそのまま、右手と右足を僅かに引いたボクシングの構えだ。

 《アーマード》レリクスは左手に持っていた騎槍、アーリーランスを右手で持ち直し、姿勢を低く取って構える。

「《アーマード》の性能なら充分に撃破出来る。抑えてくれるだけでいい」

「二対一はさすがに厳しいってこと?」

 その問いには答えず、《アーマード》レリクスは動き出す。

「ふーん。随分仲が良いのね」

 黙って聞いていたリンがぼそりと呟く。

「そう見えるの?」

「ええ。来るわよ」

 リンの警告を受け、意識を戦いに戻す。

 爆炎の広がる公園は、再び戦場となった。

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