表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブランクアームズ ‐隻創の鎧‐  作者: 秋久 麻衣
第三話 -装甲と剛槍-
16/321

白の重装


 夕闇が支配する街道にて、常人と呼べる存在は一人もいなかった。

 唯とリンは《ブランク》レリクスのまま、目の前の状況を精査する。

 アロガントは四体、その全てが《ブランク》レリクスに対して効果的な変異をしていた。あのまま戦っていたら、どうなっていたか分からない。

 そんな中、あの二人組は現れた。長身に金髪、そして白のコートを着た青年と、金髪碧眼、白のジャケットを着た少女だ。

 迷い込んでしまった一般人、ではないだろう。その目は戦う者特有の冷たさを宿しており、そして何よりも。

「あれ、アームドレイター? 左腕っぽいけど」

 青年が右手で掴んでいる義手は、細かい意匠は違うがアームドレイターで間違いないだろう。自分の使っているアームドレイターが散弾銃なら、あれは。

「スナイパーライフルって奴かな」

 あのアームドレイターの肘には、狙撃銃みたいな部品があるのだ。

「そうね。アームドレイター自体も少し長いし、肘にあるのはボルトハンドル。手動で排莢と装填を行う、狙撃銃に採用されることが多い機構だわ」

 昔見たアニメだかゲームだかで、その動作は見た事がある。一発撃ち、ボルトハンドルを捻るようにしてロックを解除、そのまま前後に動作させることで空薬莢を排出し、新たな弾丸をチャンバーに込める。

「首なしのお仲間って訳じゃなさそう」

 その証拠に、アロガント達は新たな二人組を前に沈黙を貫いている。静止し、相手を見極めているようにも見えた。

 この場にいる全員が、新たな二人組を見ている。それらの視線を一通り見詰め返すと、青年は左腕を模したアームドレイターを自身に接続した。

Connected(コネクテッド) Arm(アーム)

 聞き慣れた機械音声が響く。青年の横にいた少女が一歩前に出る。

 青年は、アームドレイターの肘にあるボルトハンドルを右手で掴む。ボルトハンドルを捻り、後退させるようにしてチャンバーを露出させる。右手は流れるように動き続け、腰のホルダーから弾丸を一発取り出す。それをチャンバーに直接押し込み、ボルトハンドルを撫でるように操作、前進させロックした。

 一連の動作は淀みなくなめらかであり、故に速い。

 青年は白い光を宿したアームドレイターで……左手で、前方にいる少女の頭を無造作に掴む。少女は白い光に変換され、アームドレイターに取り込まれていった。

Archi(アーキ)Relics(レリクス)......《Armored(アーマード)》』

 聞き慣れた機械音声が、聞き馴染みのない単語を吐く。青年は自由に動くようになった左腕を、自身の眼前へと駆動させた。

「フェイズ……オン」

 始動キーを発声しながら、青年は自身の左背面へと左腕を振り抜く。拳は開かれ、手首の根本にある銃口から白い光が溢れ出す。

Phase(フェイズ)On(オン)......Folding(フォールディング)Up(アップ)......』

 白い光は青年を瞬く間に包み込む。軽装鎧のような装甲が瞬時に形成され、青年の身体に纏わり付く。

 更に、白い光は反転し再び左腕を目指す。軽装鎧の上から、音を立てて分厚い装甲が接続されていく。

 全身と同様、左腕も重装甲を施した直後、反動で左腕が前方に跳ねる。左足を一歩踏み込むことでその反動を消し、白い重装騎士の頭部に黄色の光が走った。

『....《Armored(アーマード)Relics(レリクス)

 その全身は夜の闇を思わせない程に白く、分厚い装甲と相俟って相応の畏怖と威圧を感じさせる。頭部のバイザーだけは発色の良い黄色だったが、そこに感情を見て取るのは困難だった。

 白の重装騎士、《アーマード》レリクスは姿勢を正す。ただの仁王立ちだが、それだけでも充分なのだと思ってしまいそうになる。

 《アーマード》レリクスは左手を胸の前へ動かし、右手でその手首を握る。そして、バイサーがアロガント達をもう一度見渡す。

「相手はステージ4。課題(タスク)を開始する」

 青年の声が、短い宣告を済ませる。その言葉を皮切りに、《アーマード》レリクスはゆっくりと歩き出す。

 重装が醸し出す威圧感を前に、アロガントですらたじろいでいるように見えた。停滞した戦場で、白の重装騎士だけが歩き続ける。

 自身や仲間を奮い立たせる為か、或いは悲壮な決意表明なのか。唸り声を上げ《アーマード》レリクスに突っ込んでいったのは、《パウダースパーク》アロガントだ。

 《パウダースパーク》アロガントは、無数の穴が空いた右腕を《アーマード》レリクスへ振り下ろす。《アーマード》レリクスは、その一撃を左腕で受け止めた。

 《パウダースパーク》アロガントの右腕から粒子が散布される。《アーマード》レリクスを囲うように粒子は充満し、それを待っていたと言わんばかりにアロガントは左腕から稲光を生じさせた。

 凄まじい爆発がレリクスとアロガントを襲う。しかし、《アーマード》レリクスはその重装が見かけ倒しではないことを証明した。

 《アーマード》レリクスはその場から動かず爆圧を凌ぎ、打撃を防いでいた左腕で《パウダースパーク》アロガントの右腕を掴む。そこから流れるような動きで、右の拳をアロガントの胴に叩き込んだ。

 殴られた《パウダースパーク》アロガントの巨体が、地面を削りながら転がっていく。《アーマード》レリクスは追撃の為に歩き始めるが、他のアロガント達も黙ってはいない。

 《ファンフロスト》アロガントが、両腕のスクリューを回して吹雪を浴びせる。

 《ワイヤーグルー》アロガントも、接着剤塗れの鉄線を重装騎士にぶちまけた。

 吹雪と鉄線を受け、《アーマード》レリクスの動きが鈍くなる。一度捉えられてしまえば最後、容赦なく浴びせられる氷の塊と、硬化していく金属線によって、身動き一つ取れなくなるだろう。

 《アーマード》レリクスも例外ではない。かろうじて動く左腕が、じわじわと直上を向くのみだ。

 四体のアロガントは、《アーマード》レリクスを囲うようにして動く。胴体にある馬鹿でかい口腔が、おぞましい牙が。極上の獲物を前にがちがちと掻き鳴らされる。

 喰われる運命にある誰かを目の前にして、唯は……《ブランク》レリクスは駆け出そうとする。

「待って。近付いたら巻き込まれる」

 しかし、その行動をリンが制止する。どういうことかと問い質す前に、答えは目の前に提示された。

 《アーマード》レリクスは凍り付き、鉄線で接着されている。だが直上に掲げた左腕、その手首にある銃口から白い光が放出された瞬間……拘束は音を立てて崩れ去った。

 白い光は真っ直ぐと伸び、身の丈ほどはある長大な騎槍を形作る。氷も鉄線も弾き飛ばした《アーマード》レリクスは左手で騎槍を掴み、その場で旋回するようにして周囲のアロガント達を薙ぎ払う。

 まともに胴で受けた《ワイヤーグルー》アロガントはその場で炸裂、他のアロガントは吹き飛ばされるも致命傷ではない。

「ふむ」

 《アーマード》レリクスが、青年が呟く。

「バレルフェイザー、アーリーランスは問題なく使えるようだ」

 《アーマード》レリクスは騎槍を……アーリーランスを右手で持ち直すと、体勢を崩したままの《ファンフロスト》アロガントへ走って詰め寄ろうとする。重装を思わせない速度で近付くも、《ファンフロスト》アロガントは再度両腕のスクリューで吹雪を作り出し、《アーマード》レリクスを狙う。

 《アーマード》レリクスは、長大なアーリーランスを器用に回転させ、その吹雪を受けつつ前進する。造作もなく間合いを詰めた《アーマード》レリクスは、アーリーランスで《ファンフロスト》アロガントの胴を突く。

 しかし、吹雪を受けて凍り付いていた槍は、快音と共に砕け散ってしまった。《ファンフロスト》アロガントの胴にある口腔が、まるで嗤うように歪む。

 砕け散った柄を捨てながら、《アーマード》レリクスは左手を前に突き出す。掌底にも似た構えから繰り出されたのは、再度銃口から飛び出した騎槍の穂先だ。

 突如形成されたアーリーランスによって、《ファンフロスト》アロガントは口元を歪めたままの状態で胴を貫かれる。《アーマード》レリクスはアーリーランスを両手で掴むと、アロガントを引き裂くようにして槍を引き抜いた。

 胴体を滅茶苦茶に裂かれ、《ファンフロスト》アロガントは炸裂する。その勢いを背中に受けながら、《アーマード》レリクスは走り抜けていく。

 《パウダースパーク》アロガントが、全身から粒子を発しながら《アーマード》レリクスへ突っ込んでいく。せめて一矢報いる……そんな構図に見えなくもないが、《アーマード》レリクスはお構いなしに突撃、正面に構えたアーリーランスで、《パウダースパーク》アロガントの胴を貫いた。

 アロガントは炸裂する。粒子を伴ったその爆発は、到底受けきれるものではない。その筈だったが、爆炎の中着地した《アーマード》レリクスは、その純白を守り通していた。アロガントが決死の自爆で得た戦果は、アーリーランスただ一本のみだ。

 黄色のバイザーが、最後に残ったアロガントを見る。一歩二歩と、《ショックウェイブ》アロガントは後ずさりをしていた。

 《アーマード》レリクスは、右手で腰にあるホルダーから弾倉を取り出す。小さなボックスマガジンであり、四発程の弾丸が入るサイズだ。

 その弾倉を、左腕下部のスロットへ叩き込む。そして、流れるような動作で肘にあるボルトハンドルを前後にスライドさせた。

 左の拳を開き、掌底の構えを取る。白い光を纏った左腕を僅かに引いた姿勢のまま、《アーマード》レリクスは走り出す。

 《ショックウェイブ》アロガントは、両腕で胴を守るように包む。全身のスピーカーが、ぶるぶると震えて鳴動の時を待つ。

 一方が走り、一方が止まる。故に、接近は一瞬だった。《アーマード》レリクスが、左腕を解放するかの如く掌底を放つ。

 《ショックウェイブ》アロガントは、大音量の音圧で迎え打つ。拮抗していたものの、僅かに音の衝撃波が上回った。《アーマード》レリクスは、一歩だけ後退する。

「……なるほど」

 青年は短く呟き、《アーマード》レリクスは右手で左肘のボルトハンドルを前後に操作した。空薬莢が弾け飛び、新たな弾丸が腕に込められる。

 即座に繰り出された二発目の掌底を前に、《ショックウェイブ》アロガントは悲鳴を上げることすら出来なかった。

 エネルギーの塊が胴を突き破り、アロガントのコアを砕く。

devastate(デバステイト)

 アロガントが炸裂する。四体のアロガントは、瞬く間に撃破された。

「何あれ、すご……」

「言ってる場合じゃないわ。まだ終わってない」

 リンの忠告を受け、唯はまさかと《アーマード》レリクスの方を見る。

 白の重装騎士、《アーマード》レリクスは、左腕を直上に向けてアーリーランスを形成した。

「どうした。構えなくていいのか?」

 こちらに問い掛けながら、《アーマード》レリクスはアーリーランスを右手に持ち直した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ