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ブランクアームズ ‐隻創の鎧‐  作者: 秋久 麻衣
第二十六話 -空の鉄槌-
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鉄槌を穿つ拳


 二基のロケットが、二騎のレリクスを空へと運んでいく。

 灰の鎧と灰結晶のレリクス、唯とリンの《ブランデッド》は積み重なっていく高度を不安げに眺めていた。レリクス一騎を格納し打ち上げるだけのロケットだったが、申し訳程度に高度計だけは付いている。他に見る物もないとくれば、この数字と振動だけが感じられる全てだ。

「大気圏突破と同時に、ロケットの燃料は尽きるわ。正確には、突破する為に全て使い果たす必要がある、という事だけど」

 リンの説明に、唯は無言で続きを促す。

「よって、突破と同時にロケット外へ移動。残りの距離はレリクスで詰めるわ」

 唯はどのぐらい詰める必要があるのか聞こうとして、聞いた所で意味はないと口を噤む。近かろうが遠かろうが、そこに辿り着かなければならない。そういう話なのだ。

「数字を聞いても気が滅入るだけだし」

「彼我の距離が知りたいの? おおよそ」

「ストップストップ! 気が滅入るって言ったばかりじゃん」

 そんなやり取りをしている内に、ロケットが増速を始めた。振動が酷くなり、否応なしに緊張が高まる。

「合図と同時に出て。最適なタイミングなら、それだけ楽が出来るから」

「うん、頼んだ」

 その言葉を契機に、唯は呼吸を整える。外が宇宙だろうが何だろうが、詰め寄って殴り付けて破壊するのみ。黒崎芽依、《クロウレイジ》の事も今だけは思考の外に置く。

 《ブランデッド》の性能に弱点があるとしたら、自分自身の心に他ならない。宇宙空間で外装の維持に失敗すれば、間違いなく死ぬだろう。

 戦いに集中し、だが心を揺らさぬように。

 振動が不意に収まる。一瞬の静寂を依り代に、感覚が研ぎ澄まされていく。

「今、行って!」

 唯は、《ブランデッド》はロケット側面のハッチを蹴り破る。

 隣で併走していたロケットからも、同じタイミングで黒いレリクスが、《クロウレイジ》が飛び出す。

 人工衛星、通称‘鉄槌’は目視出来る距離にあった。レリクスの跳躍力なら、二手程で到達出来る。

 灰と黒、二騎のレリクスは素早くロケットの頂点に移動し、ロケットを蹴り抜くようにして自身を射出した。それぞれ灰結晶と黒い羽が咲き乱れ、足場代わりのロケットが霧散する。ただ蹴っただけではなく、レリクトを込めたが故の現象だ。

 宇宙の宵闇を真っ直ぐに飛翔する《ブランデッド》と《クロウレイジ》は、示し合わせた訳でもなく最適な位置へと移動する。黒い靄を背中から噴出し、《クロウレイジ》が先行する形になる。《ブランデッド》はその真下に滑り込む。横一列から縦一列へと変わり、その時を待つ。

「鉄槌が動いた、来るわよ!」

 リンの警告……直上にある人工衛星、鉄槌の砲身が顕わになる。二叉の槍を思わせる砲身は、次の瞬間には稲光を吐き出していた。

 否、それがきっと杭なのだろう。あまりにも早過ぎるが故に、光しか感知出来なかったのだ。

 速度と質量のみで目標に破壊をもたらす杭は、射線上にいる物をずたずたに引き裂いた後に依守市に直撃、地表を衝撃のみで粉砕するだろう。

 しかし、今射線上にいる物はそう容易くはなかった。杭の発射と同時、いやそれよりも速く《クロウレイジ》は増速、背中の黒い靄が巨大な手を形作る。

 《クロウレイジ》は巨大な両手、それこそ《クロウレイジ》自体を覆える程のマニピュレーターを正面に射出した。

 その動作は、言ってしまえば目の前に飛んできた羽虫を両手で叩き潰すような。そんな単純な動きだ。だが、その単純な動きが全てを粉砕する杭を包み、止めたのだ。

 《クロウレイジ》の背中から伸びた巨大な両手は、次の瞬間には爆散していた。

 だが、それでいい。《クロウレイジ》は足を止めて迎撃し、その間も直進し続けた《ブランデッド》はその爆発すらも活かして鉄槌へと飛び付く。

「射出後に目標は離脱するわ! 推定五秒!」

「なら捕まえる!」

 《ブランデッド》は右義手を振り抜き短剣を、ブーステッドソードを形成する。それを右手で掴み、左手で右義手のフォアエンドを三回スライドした。

「らああああッ!」

 《ブランデッド》は右手を、ブーステッドソードを振りかぶる。そして高度を上げようとする人工衛星、鉄槌目掛けて短剣を振り下ろす。

 ブーステッドソードは灰結晶を放出し、三本爪の大型アームを形作る。《ブリンク》の爪を人工衛星に突き立て、上昇しようとする慣性すら活かして《ブランデッド》は跳躍した。人工衛星、鉄槌を追い越し、《ブランデッド》はブーステッドソードを放り捨てる。眼下には、尚も高度を上げようと近付いてくる鉄槌が見えていた。   

 追い越してしまえば、後は待っているだけで勝手に近付いてくれる。

 《ブランデッド》は右の拳を握り締め、極限までその拳を背後に引き絞った。右義手は灰色の光と結晶が集約し、解放される瞬間を今か今かと待っている。

「これで、終わりだ!」

 唯は、《ブランデッド》は叫ぶ。その背中に灰結晶が集約し、次いで炸裂する。

 降下を始めた《ブランデッド》と、上昇する鉄槌……一騎と一基は吸い込まれるように重なった。

 当然、拮抗など起きる筈もない。

devastate(デバステイト)

 灰結晶の花弁が炸裂する。人工衛星、鉄槌は紙細工のように拉げ、そこかしこに散らばった。

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